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幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
32/47

第32話 模倣者《パクリスト》

昨日、更新するつもりでしたが、いつの間にか寝てしまいました。


あまり話が動いてないかもしれませんが、見捨てないで下さいね。


ちゃんと時間は進んでいますし、出てきた人はいずれ何処かで絡むと思いますので……


では、心優しいあなたに、今日も感謝を……

ありがとうございます。



 ハルートは村の入り口をうろつきながら、行商人のピートの到着を心待ちにしていた。


 彼に頼んでいた品物が、ようやく今日届くことになっているのだ。


「楽しみだな」

 高い買い物ではあるが、十分に元は取れるはずだ。


 今度の祭りには、クローナ村だけでなく、ラッツ村やキール村、そしてコルナ村の人間も招待することになっている。ラッツ村のギルバートなら、うまく連れて来てくれるだろう。


 後は、辺境の貧乏村民どもを、アレを使った私のパフォーマンスでメロメロにしてやればいい。


 幼女が悪だくみをしながらニヤニヤしていると、村に続く道の先から、見慣れた荷馬車の姿が見えてきた。


「お待たせしました、ハルート村長、これが御注文の品です」


 ピートはハルートに頭を下げると、荷馬車の中から大きな荷物を取り出す。そして慎重に包み布を取ると、それをハルートに手渡した。


 大きな穴の開いた、数字の8のような形の木製のボディ……そこから伸びたネックには6本の弦が張ってある。


 幼女はソレを受け取ると、小さな体で抱え込むようにして構えた。


「ああ、間違いない……」

 そう呟くと、幼女はソレを一度だけ掻き鳴らす。


 幼女の耳に懐かしい音が響く。


「こいつは確かに……ギターだ」


 昔、この世界にやって来た異世界人がもたらしたのだろう。

 ディルハムの街で売っているということは、この世界で楽器として認知されているということだ。


 異界の壁さえ超えてきたのか……


「音楽には……どんな境界も存在しない」


 幼女が呟く。


 その日、幼女はギターを手に入れた。

 サンバーストの塗装に木目が美しい。


 それは、村の連中には教えられない値段であった。




「……故に、その生涯に意味はなく、その体はきっと風的なもので……」 


 歌声のような美しい呪文が響き渡り、草原を一陣の風が吹き抜ける。


 幼女の身長近くまで伸びていた雑草が、瞬く間に刈り取られていく。

 ハルートはエルフの少女と二人、村の広場周辺で草刈りを行っていた。


 これも、近いうちに行われる祭りの準備の一つである。


「カサンドラ、次はこっちだ」


「はい、わかりました」

 エルフの少女……カサンドラは返事をすると、幼女の指さす方向に向かって、ちょっと格好いいポーズを決める。


「風よ…」

 カサンドラは、幼女の方を横目でチラリと見ると呪文の詠唱を始めた。

 心なしか雰囲気がいつもと違うように感じられる。


「黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの――」


「ちょっと! またパクリィィィ!」

 幼女の大声が呪文をかき消す、普段は冷静な幼女が随分と慌てているようだ。


「どうしました、ハルート」

 カサンドラが首をかしげて幼女を見つめる。


「カサンドラ、さっきの呪文はなんだ……」


「エヘヘ、実は私が使える呪文は一種類じゃないんですよ、今使おうとしたのは、威力は強いけど制御が少々難しいやつです」

 カサンドラが自慢げに答える。


「お前、その呪文一体誰に教わった。エルフか? 違うだろう」

 ひょっとして何種類もあるのだろうか、幼女は頭を抱える。


「え? なんで分かるんですか、確かにこの呪文、というか私が使っている呪文は特別なものです」


「特別……というのはどういうことだ?」

 いやな予感を感じながら、幼女はカサンドラに尋ねた。


「呪文というのは、魔力に形と方向性を与えるものなんですが……」


「雰囲気作りじゃなかったの?」

 格好いいからやってるんだと思ってた。


「……違います、適当な言葉を言っても魔力は反応しません。だから普通は、昔からある特別な言葉とか、一族に伝わっている呪文なんかを使うんです。私達エルフにもずっと昔から伝わっている風の呪文があります」


「なら、なぜそれを使わないんだ、このパクリストめ……」

 幼女が憎々しげに呟く。


「威力が全然違うんですよ! 今使っている呪文は、私とすごく相性が良いんです。元々私はそんなに優れた魔術師ではなかったんですが、この呪文を教わってからは、若手では一番の使い手になりましたから……まあ、おかげで勇者のお供に選ばれた、とも言えますけどね……フフフ」

 カサンドラは自嘲気味の笑いを浮かべている。


「ということは、それは勇者に教わった訳ではないのだな」


「はい、勇者……キリューは魔術を使うことはできません」

 幼女の問いにカサンドラが頷く。


「私がキリューのところに行く前ですから、四年くらい前でしょうか……エルフの里に高名な魔術師の方が来られて、私達に魔術の手ほどきをして下さったんです。この呪文はその時に教わったものです」


「ああ、胡散臭うさんくさい事この上ない……」

 カサンドラに聞こえないよう小声で呟くと、幼女は腕を組み顔をしかめる。

 おそらくは転移者だろう、呪文の内容と年齢を考えれば、転生の可能性は薄い。


「高名な魔術師ね……そいつの名前はなんだ?」


「赤眼の魔術師と名乗っていました」


 カサンドラの返答に、幼女が噴き出す。


「フフッ、なにそれ……自分で名乗ったの? 赤眼って? その人ちょっとアレなんじゃないの? 大丈夫? 目は充血してたの? 結膜炎? 眼帯とかしてた? その赤……フフッ……赤眼の……ププッ……マジュニアさんだっけ」

 なかなか愉快な奴ではないか、幼女は大喜びである。


「もう、なんで笑うんですか? 確かに少し変わった方でしたけど、すごい魔術師なのは間違いないですよ。たくさん呪文も知っていましたし」

 カサンドラはその魔術師のことを尊敬しているようで、少しムッとした表情をしている。


「すまん、すまん、ところで、カサンドラはそいつの魔術を見たのか?」

 予想では……呪いとかで使えないパターンとみた。

 幼女の読みが冴えわたる。


「それがですね……」

 カサンドラは周囲をキョロキョロ見回すと、幼女の耳元に口を寄せる。


「呪いのせいで使えないらしくて……あと、刻印がどうとか言ってました」


「プー! 大正解! やったぜ!」

 幼女はキャッキャッと喜んでいる。


「ヒヒッ、おなか痛い……しかし、その魔術師殿には、是非一度お会いしたいものだな」


「ハルートなら呪いを解いたりできるんじゃないですか?」


「どうだろうな……」

 おそらくそれは、永遠に解けない呪いだろう。


「さて、残りもとっとと片付けようか」


 ハルートはカサンドラに声をかけると、草むらへと歩いて行く。


 まあ、気にすることもないだろう。


 どこからか飛ばされてきた変わり者がいて、そいつは自分なりにこの世界を楽しんでいる。


 ただ、それだけのことだ。


 クローナ村にカサンドラの呪文が響く……どこかで聞いたようなその詠唱を聞きながら、ハルートは刈り取った草を集めている。


 二月とはいえ、一日かけて刈り取った雑草はかなりの量で、一か所に集めると、まるで甲羅に引っ込んだ『双首ふたくびカミツキ亀』のようだ。


 幼女はその緑の塊の前に立つと、両腕に炎をまとい静かな声で呟く。


「我焦がれ……誘うは焦熱への儀式、其に捧げるは、炎帝の抱擁……」


 燃え上がる炎の中、幼女がニヤリと笑みを浮かべる。


「まあ、私もこういうのは嫌いではないがな……」


 色は暗めのネイビー、大きめのフードに、生地は厚手のメルトン生地、フロントにはトグル。


 コートをひるがえし、炎を背にする幼女の姿は、魔術師というよりは、むしろ魔法少女のようだった。



 二人のハンターは、死に物狂いで森の中を走り続ける。


「くそっ! なんだこの森は、魔物だらけじゃねえか!」


「だから言ったんだよ! エルフの女をさらうなんて無理だって!」


 美しく、寿命の長いエルフの娘は、非合法のマーケットにおいて高値で取引きされている。一獲千金を狙った彼らは仲間を集め、エルフの住むという深閑しんかんの森へと乗り込んだ。


 しかし、一緒に森に入った仲間達は次々に命を落とし、残った彼らも薄暗い森の中で魔物の群れに追われていた。


「おい! 後ろだ!」


「え……?」


 振り向くと同時に、男の首が食い千切ちぎられる。


「ブラック……タイガー……」

 一人残った男は観念したのか、その場にへなへなと座り込む。


 口の周りを血塗れにした黒い海老……ではなく虎は、低いうなり声を上げると、その爪を男の頭に振り下ろした。



 エルフの暮らす深閑の森は、多くの魔物が生息する危険地帯である。ブラックタイガーのような強力な魔物も存在し、並のハンターや兵士では踏破とうはすることは難しい。


 森の中には比較的安全な経路も存在するが、それを知るのは森に暮らすエルフ達と、彼らと関わりを持つ城の兵士達だけである。


 深閑の森は、エルフの集落を守る結界の役割を果たしているといえるだろう。



 ならば……である。


 何故、彼は辿り着くことが出来たのだろうか。



 自らを赤眼の魔術師と呼ぶ男、その魔術を見た者は……この世にはいない。




先週があまり更新できなかったので、今週は頑張りたいと思います。


では、今回もありがとうございました。



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