第3話 黒鉄兵《ゴーレム》(改訂版)
前話までが実質プロローグでしたので、この話から文章の雰囲気が変化しています。
正確には、「視点」や「人称」が変わっています。
違和感を感じるかもしれませんが、今はまだ試行錯誤の最中ですので、どうか優しく見守って下さい。
お願いします。
自らを囮にした作戦、『オペレーションキタミシホ』の成功に気を良くした幼女は、犬鍋の残りを飲み干すと、剥ぎ取った黒い毛皮を着ぐるみのように被った。
白銀の髪と新雪のような白い肌に、黒い毛皮のコントラストが映える。
「ようやく全裸も卒業か……」
感慨に耽る幼女の頭の中には、黒い毛皮に身を包んだクールな自分の姿が思い浮かんでいる。
鏡があればいいのだがな。幼女はそう思い、辺りを見回してみるが、この樹海には、鏡代わりになりそうな物などそう転がってはいない。
「少し探してみるか」
幼女は呟き、森の中を歩き出した。小さいあんよを一歩踏み出すたびに、黒い毛皮がふわりと揺れて、白い肌に優しく触れる。
この時幼女は、周囲の空気に不快な変化を感じていた。しかし彼女は、その感覚から意識を逸らし、あえて気づかない振りをする。
これは、気のせいに違いないと。
少し歩いた先に、派手な毛色をした巨大な猿達がたむろしていた。彼らの中心には、小さな泉らしきものが見える。
「どけ、エテ公ども、その派手な毛引っこ抜くぞ」
平和を愛する心優しき幼女は、CMYK(C:シアン、M:マゼンタ、Y:イエロー、K:ブラック)四色の毛色をした猿達に、鉄拳を用いた話し合いを強要し、泉を譲り受けることに成功する。
話し合いを終えた猿達の毛色は、CMYKの四色から、赤(C:0、M:100、Y:100、K:0)一色に変わっていた。
幸いにも、泉の水面は穏やかで、水は透き通っていた。幼女は浮かれた足取りで駆け寄ると、水面を覗き込み、自分の姿を映しだす。
「これは……熊本県の営業部長兼しあわせ部長!」
そこには、小さめの『くまモン』が映っていた。
イメージと違う……その愛嬌たっぷりの姿に愕然とした幼女は、少しでも印象を変えようと、様々なポーズを試してみる。
「おかしい……」
短い手足にずんぐりとした黒い体、大きな瞳と少し赤らんだ頬……動くたびに幼女は、その意思に反してくまモンへと近づいていく。
「私は竜だ! 破壊の化身だ! 断じてマスコットなどではない!」
幼女は叫ぶ、自分は危険な存在なのだと。
「よし、私の恐ろしさを教えてやろう。手始めにパンダとシロクマを黒く染めて、クマ牧場で働かせてやる。もちろん、普通のクマとしてな」
邪悪な笑みを浮かべる幼女は、いつの間にかクマ視点になっていた。
そして、幼女くまモンが、その邪悪な野望を実行に移そうと動き出した――その時である。
幼女の鼻腔を、凄まじい衝撃が突き抜けた。
「ああ! やっぱりクサイ! お爺ちゃんの入れ歯よりもクサイ! しかも、くまモン!」
幼女は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の毛皮を脱がねばならぬと決意した。
今までずっと、気づかない振りして我慢していたのである。
幼女は悪臭を放つ毛皮を脱ぎ捨てると、足で踏みつけグリグリ躙る。そして、近くを歩いていたCMYK猿を殴り飛ばす。
八つ当たりである。
怒れる幼女は『カジノ』のジョーペシのごとく危険であった。
「この怒り、誰にぶつけてくれようか」
全裸に戻り、ジャイアニズムの化身と化した幼女は、獲物を探して樹海を徘徊する。
そんな幼女の視界の端を、黒い人影がスッとよぎった。
「貴様の死因は二つある。一つ目は、今日この時間、この場所を通ったこと。そして二つ目は……この世にくまモンが存在することだ!」
理不尽な理由を叫び、人影に幼女が襲いかかる。華麗なタイガーステップからのローリングソバットが炸裂する。
影は弾け飛び、何本かの木をへし折った後、大岩にめり込み止まった。
「かたいな」
幼女の右足に、鉄の塊を蹴り飛ばしたような感覚が残る。影の吹き飛んだ方角からは、岩の崩れる音がする。
「ほう、生きているか」
笑みを浮かべる幼女の視線の先で、黒い人影はゆっくりと立ち上がった。
「コーホー」
感情の感じられない呼吸音が響く、ダメージは無いようだ。
「まさか、彼は……」
見覚えのあるその姿に、幼女は驚愕の声を漏らした。
黒い体は、甲冑を着た兵士のようにも見える。顔には仮面がついている。頭には黒く丸みをおびた兜、左手には長い鉄の爪、生き物のような、機械のような、奇妙な印象を受ける。
ソビエト連邦、ファイティングコンピューター、ベアークロー、100万パワー……いくつかの単語が幼女の頭をよぎる。
「ウォーズマン……」
突然の有名人との遭遇に、幼女はゴクリと息を飲んだ。
「コーホー」
「……本物?」
幼女とウォーズマン(仮)、向き合う二人の間に緊張が走る。
「やあ、はじめまして、ウォーズマンさん」
幼女は緊迫した空気を和らげようと、にこやかな笑顔でウォーズマン(仮)に声をかけた。
「私は、えーと、どう言えばいいのかな、実は名前がないんだよ。親が、名前をつけるのを忘れたまま死んじゃってね。それで、名前は名乗れないんだけど……怪しい者ではないよ」
森の中を裸でうろつき回り、名を名乗ることも出来ない怪しい幼女は説明する。
自分は怪しくないと。
「服を着てないのは……その、趣味とかじゃないんだ。臭いとか、くまモンとか、色々あってね。あ、そうそう、実は毛皮だから脱いだんだよ。ほら、ハリウッド女優なんかにもいるだろ、『私、毛皮は着ないわ、残虐超人みたいだもの』とか言う奴、私も同じだ、目覚めたんだよ。動物愛護のスピリットに」
自分で剥いだ毛皮を纏い、罪のない猿をしこたま殴った幼女が、偽りの動物愛を語る。
「コーホー」
ウォーズマン(仮)は、これしか言わない。
「なんか違う気がする……似てるけど」
「コーホー」以外話さないウォーズマン(仮)を幼女は怪しむが、万が一の可能性を考えると強気に出ることもできない。
彼女は企んでいた。もし、彼に取り入ることが出来れば、若干キャラが被っているミートを押し退け、正義超人の仲間入りが出来るのではないかと。
「あ、そうだ! ロビンマスクは一緒じゃないのか? いるなら是非会いたい。ロビンが駄目なら、他の超人でもいいよ。スペシャルマンとか以外なら――」
「コーホー」
「おい貴様、大概にしろよ。コーホーしか言えんのか」
「言語の類型に大きな差異があるため、意思の疎通は困難です」
「お、ようやく喋った……しかし、何を言ってるのかさっぱり分からんな」
ロシア語とも違うようだが、と幼女は首をかしげる。
ウォーズマン(仮)の喋った言葉は、幼女には理解できない言語だった。
「状況の異常性から、対象の転生者の可能性は高いと判断します」
「言葉の意味はよく分からんが……」
「これより、転生者確認テストを実行します」
「とにかく……知りたいことは分かったよ」
幼女は落胆の声を漏らすと、ウォーズマンもどきに対して、怒りの視線を向ける。
「その感情のない声……それは、彼のものではあり得ない。半分が機械の体、醜い素顔、正義超人になってからの勝率の低さ。彼は常に苦悩の中にあった。それでも彼は戦った。友のため、正義のために……」
幼女は、不遇の中で戦い続けたファイティングコンピューターの人生を思う。
「だが、貴様からは何も感じない。ロボ超人の苦悩も……そして、燃えるような友情パワーも!」
幼女は叫ぶ。
「つまり貴様は……ウォーズマンではない!!」
幼女は加速し、言葉を発しようとするウォーズマン(偽)の懐に潜り込む。
「疾きこと、風の如く!」
ロボ超人(偽)をダブルアームの体勢にとらえ、竜巻のように回転して投げとばす。
「徐かなること林の如し!」
ローリングクレイドルで空中へ上昇する……のは物理的に難しいので、一旦技を解き、放り投げる。
「侵掠すること火の如く!」
そして、空中でとらえたファイティングコンピュータ(偽)をパイルドライバーで地面に串刺しにする。
「よくも騙してくれたな」
理不尽な言いがかりを呟き、幼女はウォーズマン(偽物)を地面から引き抜いた。
「……転生者……確認…………テスト実行……」
「クク、喧しいぞ、今は肉体言語でお喋り中だろうが……」
幼女は笑う。
「さあ、フィニッシュだ。動かざること山の如し」
終いは、ウォーズマンのフェイバリットホールド。
「冥土の土産……パロ・スペシャル!」
黒い体がギチギチと悲鳴をあげ、鉄の仮面にヒビが入る。
「48の殺人技No.3、風林火山……死ね、まがい物が」
幼女は呟き、黒鉄兵の両腕を破壊した。
『黒鉄兵』
クロガネ兵とも呼ばれる魔物。
樹海でしか棲息が確認されていない希少種で、防御力が非常に高い。
基本的には大人しく、危害を加えない限り襲って来ることはないが、稀に狂暴化することがあり、その際には体が赤くなると言われている。
また、赤化する前には言葉を話すという噂もあるが、その姿を見て生き残った者はほとんどおらず、信憑性は低い。
当然、ウォーズマンとは何の関係も無く、まがい物でもない。
全ては、幼女による言いがかりである。
「…テ……ト開……始…」
立ち去ろうとした幼女の背後で、半壊状態のゴーレムが立ち上がる。
「しぶとい、さすがにウンザリだな」
幼女は振り返り、ため息まじりに呟くと、ゴーレムにトドメを刺すため歩き出す。
「ちびまる子……」
ゴーレムの声に、幼女の足がピタリと止まった。
「貴様、今なんと言った? さくらももこ……いや、ちびまる子と言ったのか?」
「反応……アリ、……再……テス…実行」
「どぉこでもドア~」
「……ああ?」
ゴーレムのモノマネに、幼女の表情が変わる。
「反応強、転生者の可能性大、処理モードへ移行」
「黙れ……」
ファイティングコンピューターもどきが、猫型ロボットのモノマネをする。
しかも、似ていない。
幼女は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐のファイティングコンピューターを除かねばならぬと決意した!
「レッグラリアート!」
怒声と共に、黒鉄兵の頭を幼女のあんよが蹴り砕く。
幼女の足元に横たわるゴーレムの残骸は、いつの間にか赤色(C:0、M:100、Y:100、K:0)に変わっていた。
元々このゴーレムは転生者の存在を匂わす為のものでしたが、色が黒かったせいで、いつの間にかウォー○マンになってました。
よくあることです。
では、スペシャルサンクス。




