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幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
29/47

第29話 魔術師《魔眼》

できれば、もっと早く更新したかったのですが、平日が少し忙しかったので、今日になりました。


今回は前振りみたいな感じですが、読んで下さるとうれしいです。


今日もあなたに、心から感謝を……


ありがとうございます。

 漆黒のローブをまとった男がひとり、小高い丘に立っている。


「嫌な風だ……」


 そう呟くと、男は閉じていた右眼を開いた。

 その眼はまるで、血のようにあかく染まっている。


「やはり間違いない……闇の波動が強まっている」


 急がねば……男は丘を駆け下り、愛馬の元へと向かう。


「……ッ! 力を解放した代償か」

 男は苦悶くもんの表情を浮かべ、右の足首を押さえた。


 急斜面のせいで勢いがつきすぎたのか、足首をひねったようだ。


「魔力だけでなく、身体能力も低下しているのか……」

 男は右手の甲に刻まれた紋様をにらむ。


「呪いの刻印、ブラッドペインの紋章……死して尚、我を縛るか」


「アレイオン!」

 右腕を押さえ、足を引きずりながら、男は愛馬の名を叫ぶ。


「さて、エルフ達は期待以上だったが、彼らはどうだろうな……」

 男はかすかに笑みを浮かべると、愛馬がいるであろう方角をチラリと見やる。


 彼がくる気配は無い。


「アレイオン!」

 男は再び愛馬の名を叫んだ。

 額には汗が浮かんでいる。くじいた足がよほど痛いのだろう、身体は小刻みに震えている。


 奴はまだ来ない。


「この程度の傷、呪いさえ無ければ……」


 また、独り言である。


「アレイオン! 来なさい!」

 男は悲鳴のように叫んだ。


 あの馬、来ないな。


「アレイオン! 足が痛い! 歩けない! 早く来て!」

 なんか魔物の気配がする、と男は半泣きで叫ぶ。


 必死の叫びが通じたのか、少し太り気味の馬が面倒そうに、のそのそと男に近付いてきた。


「フッ、遅いぞ……友よ」

 呟いた男の片目から、何かが落ちる。


「待って! やっぱり来るな! アレイオン! ストップ!」


 男は素早く地面に倒れ込むと、何かを拾いあげた。


「あった……良かった、もう片方しかないからな。無くさないようにしないと」

 ほっと息をつくと、男は片足を引きずって、愛馬に近付いていく。


「よっこいしょういちっ……と」

 愛馬にしがみつき、何とかその背にまたがる。


「待たせたな、アレイオン……では行くとするか」


「敵はカロッツァにあり!」

 掛け声と共に、男は愛馬を走らせる。


 荒野を吹く風に、漆黒の衣と黒髪がなびく……。


 自らを、赤眼の魔術師と呼ぶ男……その魔術を見た者は誰もいない。



 早朝のクローナ村を、幼女がテクテクと歩いている。


 二メートル以上はあるだろうか、布を被せた巨大な物体を頭の上に乗せて、ゴキゲンな様子で村の広場の方へと歩いて行く。


「この辺でいいか……」

 幼女はキョロキョロと辺りを見回すと、頭の上の荷物を地面へとおろす。


「何という重さ、これは一人では大変だ。全然寝てないし……」

 幼女がわざとらしく、疲労アピールをする。


「ああ、誰か手伝ってくれないかなあ……重たいなあ……二時間しか寝てないんだよなあ」


「これはハルート様、珍しくお早いですな」

 幼女のウザい不眠アピールが聞こえたのか、ハーマンが家から顔を出す。


「さては、おねしょでもグハァッ!」


 幼女は、ハーマンを殴って失神させると、家の中へ放り投げた。


「引っ込め、お前じゃない……」

 口の減らない爺め……苛立いらだつ幼女の目に、二人の男女の姿が映る。


「来たか……」

 狙い通りだ、幼女は小声で呟いた。


「おはよう、ハルート」

「おはよう、ハルートちゃん」


 アランとミカ、二人が声を揃えて幼女に声を掛ける。


「おはヨーグルト、人間ども」


「フフ、ハルートちゃん、魔王みたい」


「だいたいあってる」


 確かに、大体合ってる。


「ハルート、このデカいのは何だ」

 アランが、布に包まれた物体を指さし尋ねる。


「ああ、これね、広場まで運ぼうと思ったんだけど、重くて、重くて、あんまり寝てないから力が出ないのかなあ。誰か手伝ってくれるといいけど……」

 幼女が二人に、チラチラと視線を送る。


「いや、お前ならこれくらい余裕だろう。さっきハーマンの事、片手でぶん投げてたし……」


「あんまり寝てない……」

 幼女は、睡眠不足による弱体化を主張する。


「別に手伝うのは良いが、一緒に広場まで運べばいいのか?」

 アランがハルートに尋ねる


「お前はいらん、手伝うのはミカだけでいい」

 幼女の冷たい返答がアランを直撃する。


 アランは絶望に包まれた。


「私?」

 腕力ないよ、とミカが首をかしげる。


 アランは絶望に包まれたままだ。


「この作業には、女性のこまやかさを必要としているのだ」

 幼女が適当なことを言う。


「なるほど、それじゃあ仕方ないな」

 アランは絶望を振り払った。


「なんだお前、まだいたのか」

 幼女の無慈悲な一言がアランを襲う。


 アランは再び絶望に包まれた。


「ミカはそっちを支えてくれ」

 幼女が軽々と荷物を持ち上げる。


「了解、あれ? ハルートちゃん、私、全然重さ感じないんだけど……」


「まあ、気にするな」


 そう答える幼女の顔には、不穏な笑みが浮かんでいた。




 クローナ村の通りを白髪の幼女と黒髪の女が歩いている。

 幼女の頭の上には布を被った巨大な物体が乗っており、女はそれを後ろから支えている。


 幼女の後ろを電車ゴッコのようにして歩きながら、ミカは目の前の幼女……ハルートについて考えていた。


 どう見ても幼女である。


 雪のような白い肌、髪は白く、瞳は透き通るような青色……まるで、天使のように可愛らしい美幼女である。


 だが、彼女の力……その知能や知識は、とても幼女のものとは思えない。なにより、彼女があの時口にした言葉、アフリカ、そしてナイジェリア……聞き間違いでは無いはずだ。


 ミカは幼女の背中を見つめる。


 やはり、彼女はあの人が言っていた存在……向こうの世界からの転生者なのだろうか。


 もしそうだとしたら、自分はどうすべきなのだろう……彼女の事は好きだし、アランの命の恩人でもある。

 私自身、彼女がナイジェルを殺してくれなければ、おそらく厄介な事になっていたはずだ。

 例え、それが彼女の気まぐれだったとしても、助けられたことに変わりは無い。


 話すべきだろうか……ミカは賢者の言葉を思い出す。


「転生者は危険だ。この世界は、彼らを排除すべき敵だと認識している」


 ……まったく意味が分からない。

 私が高校中退だからだろうか。


 私達も同じではないのか、なぜ転移者はよくて、転生者はダメなのだろう。 

 むしろ、私たち転移者の方が世界にとっての異物だと思うのだが……もしかしたら、女神あたりが絡んでるのかもしれない。


 そんなことを考えながら、幼女の後ろをトコトコと歩いていたミカだったが、ハルートの予想外の動きに思わず荷物から手を離しかける。


「おっと、あぶない。ハルートちゃん、広場へいくんじゃなかったの?」


 手を離したところで大丈夫だとは思うが、もし自分のせいで落としてしまったら大変だ。


「ああ、こっちだ。広場は目立ちすぎるからな、ついてきてくれ」


「うん、分かった」

 とりあえず今は様子を見よう。今のところ、彼女がこの事に気付いた様子は無いし、気をつけていれば私が転移者だなんてバレるはずが無い。


 ミカが自問を終えると同時に、彼女の前を歩いていた幼女の足が止まった。


「この辺でいいか、ミカ、手を離していいぞ」


「はーい、私、左手を添えていただけなんだけどね……」

 ミカが、どこかのバスケ漫画みたいな台詞を口にする。


「布を外してくれ、私は背が低いから難しい」

 うーんと唸りながら幼女が背伸びをするが、彼女の身長は物体の半分ほどしかない。


「うん、任せて……ヨイショッと」

 ミカが掛け声と共に一気に布を引きはがす。


「うわあ! 何これ! スゴイ! 超カッコイイ!」

 それを見たミカが歓声を上げる。


「これが分かるか、ミカ」


「そりゃ分かるよ! リュウでしょ! ハルートちゃんが作ったの?」


「そうだ……」


 物体の正体は、高さ2.5メートル程の竜の銅像であった。


 竜といっても、所謂いわゆる、東洋の細長い龍ではなく、たくましい体に大きな翼を持った竜……ドラゴンである。


 モデルはハルートの母親、偉大なるファルティナの白竜だ。


「でもこれ、なんで広場に置かないの? こんな誰も来ないところに置くの勿体ないよ。除幕式とかしたらいいのに……」


 芸術とかはよく分からないが、こんなにカッコイイのだから、皆に見てもらった方がいいに決まっている。


「ああ、実はな、後で広場に持ってく予定なんだ」

 ミカの疑問に幼女が答える。


「じゃあ、どうしてここに持ってきたの?」

 ミカは首をかしげた。


「人のいないところで見てもらいたくてな」


「誰に?」



「お前にだ……ミカ」


 幼女の気配が変わる。


「え、どういうこと」

 何この感じ……怖い、ヤバイ、コレって殺気? 何で? どうして?


 突然の幼女の変化にミカは困惑する。


「ミカ……もう一度聞く、あれは何だ」

 幼女が銅像を指差し、ミカに問う。


「何って……だからリュウでしょ、リュウの……あれ?」

 そういえば、リュウってこっちの言葉でなんて言うんだっけ?


 ドラゴン……は英語よね、ワイバーンはワイバーンだし……でも彼女にはリュウで通じて……あ……そういうこと……か。


 これは、確認だったのか……ミカの背中に冷たい汗が流れる。


「ハルートちゃん……違うの、別に隠してた訳じゃないの」

 いつからかは分からないけれど……気づかれていたんだ。

 そして、おそらくこの世界に竜はいないのだろう。

 早く弁明しないと……この状況は非常に危険だ。


 こういう時こそ冷静にならねばならない……ミカは深呼吸をした。


 ちなみに竜は目の前にいますよ。


「隠す? やっぱりお前……私のことにも気づいていたな……」


「ああっ! ち、違うの! 聞いて! 偶然なの! ハルートちゃんがアランと話してるの聞いて、それで、もしかしたらって!」

 ミカの冷静さは、何処かへ飛んでいったようだ。


「やはり、あの時か……」

 確かに、あっちの世界の言葉を使ったな


「そう、ハルートちゃんがアランに……」

 あっちの世界の言葉を使った


 二人の声が揃う。


「爆熱ゴッ○フィンガー……って言った」

「アフリカ……って言った」



「え、爆熱……? それはよく分からない」


 ミカが呟く。


 仕方ないね、女の子だもん。



眠くてどうにかなりそうです。


週末は、二話更新を目標にしてますが、無理かもしれません。


では、ありがとうございました。

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