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幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
27/47

第27話 違和感《謎》

思わせぶりなタイトルですが、そう大した話ではありません。


それでも、読んでくれるあなたは、素晴らしい人です。


そんなあなたに、心から感謝を……

ありがとうございます。

 男は夜を駆ける。


 これが正義などとは、もちろん思ってはいない。

 さびれた街の裏通りで、男は金貨をばらまいた。


 誰かを救いたい訳ではない。

 何かを変えたい訳でもない。


 ただ……奪いたいのだ。

 彼らがそうしたように、自分がそうされたように。


「失う痛みを、奪われる痛みを思い知れ……」


 呟くと、残りの金貨を小さな教会に投げ込んだ。手元には僅かな小銭が残るだけだ。


 男は今日も、盗んだ獲物を夜の街に置いて行く。


 闇を駆け抜けた先……街から離れた静かな丘で、一匹の虎が月に吠える。


 何かが変わる訳では無い。

 大切なものは戻らない。


「シーナ……ハルート……」


 男は虎の仮面を脱ぐ、あの日以来、彼のモミアゲは生えてこない。


 義賊マスクドタイガー……かつてモミアゲと呼ばれた男。


 現在、指名手配中である。



 クローナ村の片隅で、三人の娘が話をしている。


 女三人寄ればかしましいの言葉通り、話題は尽きることがないようだ。


「ミカとアランは、恋人同士なのか?」


「うん、そうだよ。付き合って一年くらいかな」

 銀狐の獣人、サラの問いかけにミカが答える。


「恋人……馴れ初めとか教えて欲しいです」

 自身も恋の真っ最中であるエルフの娘は、恋愛話に興味津々である。


 その恋の相手には、性別や年齢等、色々と問題があるのだが、彼女はあまり気にしていないようだ。


「最初は何とも思ってなかったんだけどね。一度、危ないところを助けてもらってからかな、意識し始めたのは……」


「ほう……もう少し詳しく」

 ミカの話にカサンドラが食いつく。


「樹海で、黒ゴーレムに襲われてさ……もうダメだ、と思ったところにアランが突っ込んできたの」


「それで、魔物をやっつけたんだな!」

 サラが興奮気味に言う。


「イヤイヤ、私達にゴーレムは手に負えないよ。なんか赤くなってたし……」

 ムリムリとミカが言う。


「じゃあ……」


「逃げたよ、アランが私を…………お姫様抱っこしてね」


 おぉ……と二人が同時に感嘆の声を上げる。


「お姫様抱っこ……あの伝説の」


「アラン、恐るべし」


 サラとカサンドラは、ミカを羨望の眼差しで見つめている。


「アランは、ちょっとドジなところもあるけど、いざって時は頼りになるの」


 ミカが照れくさそうに、黒い髪を弄りながら微笑む。


「いいなあ……私も……」

 エルフが小さく呟く。


「なに、誰か気になる人いるの? やっぱり、勇者……?」


 いいえ、四歳児です。


「え……なぜ?」

 ミカの問いに、異常性癖カサンドラは戸惑いの声をあげる。


「アランが言ってたよ、カサンドラは勇者の元カノだって」


「違います! あんな男、前からずっと大嫌いです!」


 エルフの豹変ひょうへんぶりに、ミカとサラは顔を見合わせる。


「その話、もうちょっと詳しく」


 二人の声は同時だった。


 少し渋ったものの、二人の勢いに観念したのか、エルフの少女は重い口を開く。


「……面白い話ではないですよ」


 そう前置きしてから、カサンドラはポツポツと話し始める。

 彼女が勇者と共にあり、森の聖魔術師と呼ばれていた頃の話を……


「なぜ、それほど嫌悪していた相手と……その……肉体……関係を?」

 意外に初心うぶなキツネが、顔を真っ赤にして尋ねる。


「そういう契約だったんです。私がローデン王国と交わした契約書に、勇者の要求にはすべて応えるべし……とありましたから」

 話しているうちに暗黒面ダークサイドに堕ちていったのだろうか、エルフの口元には暗い笑みが浮かんでいる。


「契約書?」

 獣人には馴染なじみのない言葉にサラが反応する。


「はい、内容は、勇者への絶対服従、戦闘への強制参加、契約について口外しない、その他諸々です。もし契約に違反した場合は、私とエルフの里に多額の違約金を請求する……と」


「ああ、あとは死んでも文句は言わない、といった内容の誓約書も書きました」

 ダークエルフの目は完全に死んでいる。


「何それ! 滅茶苦茶じゃん、何でそんなのにサインしたの?」

 まるで奴隷契約だよ、とミカが叫ぶ。


「どうしようもなかったんです……狭い部屋に閉じ込められて、兵士に周りを囲まれて……契約書だって、わざと分かりにくい文章で何十枚も……帰りたいって言っても、聞こえないふりして無視するんです」


 カサンドラの目から涙がこぼれる。


「兵士達に……エルフはこんな事も分からないのかって……何度も言われて、馬鹿種族って大声でののしられて……いつまで待たせるんだって……」


「もう分かったから……」

 たまらずサラがカサンドラを抱きしめる。


「ゆ、床や壁を……剣で叩くんです。兵士が皆で……何度も、何度も……私がサイン……するまで」

 カサンドラは泣きながら震えている。


められた訳か……」

 サラが呟く。


 カサンドラはうなずきながら涙をぬぐっている。


「他のエルフは助けてくれなかったの?」

 ミカが尋ねる。


「契約書に長老のサインがありました。お金を貰って書いたのか、私みたいに脅されたのかは分かりません。この契約の内容をエルフが承諾した事になっていたんです。あとは誰が選ばれるか……それだけだったんです」

 泣き止んだカサンドラが冷静に答える。


「クソみたいな話だな」

 まったく人間は……と言った後で、サラがミカを見て気まずそうな顔をする。


 そんなサラに対して、ゴメンねのポーズをしていたミカが、突然何かに気付いたように、あっ!と叫ぶ。


「この話、私達にしても大丈夫なの? 契約違反になるんじゃ……」


「フフッ、大丈夫ですよ、キリューとナタリア王女が婚約して、私は用済み……というか邪魔になったみたいで、お姫様自ら、契約書を破ってくれました。キリューにだけは言うな、と脅し文句もつけてですが……」

 わざわざ脅さなくても誰が言うものですか、とカサンドラは笑う。


「勇者は知らなかった訳か……」


 サラの言葉に、カサンドラが頷く。


「もしキリューが知っていたら、大騒ぎになったと思います。彼はこういう事をすごく嫌いますから……」


「んん? それって、勇者……良い奴なんじゃないの?」

 ミカが首をかしげる。


「ええ、善人ですよ。彼……勇者は、無責任で、考えの浅い……善人です」

 カサンドラが苦笑する。


「もし、契約書にキリューが気付いていたら、きっと彼は私を解放して、エルフの立場を改善するよう国王に進言したでしょう。国王も、勇者の言うことなら聞いたかもしれません」


「おお……いいじゃん、それ」

 ハッピーエンドだよ、とミカが言う。


「そして、数ヶ月後くらいに、カサンドラは不幸な事故で死亡して、何故か急に反乱を企てた疑いで、エルフはローデンに滅ぼされる……」


「え……?」


 ポカンとするミカの後ろから幼女の声がする。


「さすがハルート……正解です」

 エルフの少女が、泣き顔のような笑顔を見せる。


「ククク……そんなにあてにならんか、勇者殿は」

 幼女が笑う。


「……人助けが大好きで、綺麗事ばかり言う人間です。仮に私が死んでも、ローデンが事故だと言えば、その話を信じるでしょう」


 そういうと、カサンドラは大きなため息をついた。


「エルフはローデンに友好的で、勇者がエルフを望んでいると聞いて、喜んで私を派遣してきた……そんな馬鹿な話を本気で信じているような男ですから」


「エルフを呼んだのは勇者なのか?」

 カサンドラの話を聞いて、サラが顔をしかめる。


「そうです……私は最初、勇者はエルフが魔術に長けているから、その力を望んだのだと思いました」


「違うのか?」


「勇者に私の力など必要ありません。彼は神の力を持つ者ですから……私なんか、ただの足手纏いです」


「じゃあ、なんで……」

 サラが疑問を口にする。


 おや……!?

 カサンドラのようすが……!


「どうしても、エルフに会ってみたくて……俺もこっちに来て長いけど、エルフには会ってなかったからさ。美形が多いと聞いたから、若い女の子をお願いしますって陛下に頼んだんだ。勇者の仲間にエルフは付きものだろ? 俺のいた世界ではそうなんだよ。ああ、心配しなくて良いよ、魔物とは俺が戦うから、君達は危ない事はしなくていい……それより俺と一緒に冒険を楽しもう。その為に呼んだんだ。他にも俺のパーティには、王族もいるし、平民もいる。でも、俺の前では身分なんか関係ない、平等だ。もちろんエルフも差別しない。皆、俺の大切な仲間だ。一緒に楽しくやろう……だそうです」


 話を終えたエルフの目は、光を失っている。


「なんだそれは……そんな理由で、カサンドラは連れてこられたのか」

 サラが愕然とする。


「うわあ、典型的なあっちの人間だ」

 ミカが呟く。


「ミカ……お前」


「ん? ハルートちゃん何か言った?」


「いや、別に……何でも無い。さて、そろそろ狩りに出た連中も戻ってくるだろうな……つまらん男の話はこれくらいにして、帰るとするか」


「はーい!」


 三人娘が揃って返事をする。



 帰路につく三人の娘達、その中の黒髪の背中を見つめながら、幼女は呟く。


「黒髪……ミカ……確かめる必要があるな」


 幼女の目は怪しく光っていた。



今回は、どこにでもいそうな人が、実は一番めずらしい存在かもしれないという話です。


なにを言ってるか分からないという人は、第三話とか読んでくれたらと思います。


では、ありがとうございました。

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