第26話 再会《ナイジェリア》
サブタイにナイジェリアとありますが、あまり関係ありません。
気にしないで下さい。
今日も、読んでくれるかもしれないあなたに感謝を……
ありがとうございます。
「何だ、お前達は……」
まるで、狼に人の手足が生えたような黒狼の獣人が、ピートを睨みつける。強い敵意と警戒を宿した眼光の迫力に、ピートは軽くお漏らしをした。
「わ、私は、ディルハムからやって来ました。行商人のピートという者です」
ピートが震える声で答える。お漏らしでズボンの前がシミになって恥ずかしいが、今は我慢だ。
「商人? 後ろの二人もか?」
黒狼が後ろの男女に視線を移す。
「いや、俺達はハンターだ。人探しのついでに、この人の護衛をやってるんだ」
男が答える。
「この村にさ、聖女様……たぶんハルートって名前だと思うんだけど、いないかな?」
男の連れの黒髪の女が黒狼の獣人に尋ねる。
「貴様ら、ハルート様の知り合いか」
黒狼の視線が鋭さを増し、ピートの股間も冷たさを増した。
「友達……だと俺は思っているよ。それに恩人でもある。そんなに警戒しなくても、アイツをどうこうできる奴なんていやしないだろう?」
「ふん……貴様ら、名前は何だ」
「俺はアラン、こっちはミカだ」
黒狼の問いかけにアランが答える。
「ここで待っていろ、ハルート様を呼んでくる」
黒狼が、三人に背を向け歩き出す。
「やっと会えるな……」
呟くアランの目には、喜びの涙が浮かんでいた。
「ハルート……久しぶり」
そう告げる男の目には涙が浮かび、感動しているのか、あるいは尿意を堪えているのか、その肩はブルブルと細やかに震えている。
こいつ名前なんだったけ……幼女はとりあえず見覚えのあるその男の名前を思い出そうと、記憶の引き出しを次々とあけていく。
アモン……違うな。アムロ……これはパイロットだ。アライ……は野球選手だし、アカギ……は闇に降り立った天才だ。
「久しぶりだな、え……と確か……アポロ?」
幼女はちゃんと覚えていますよ、みたいな顔をして男に声をかけた。
「え? 俺、アランだけど……」
幼女の衝撃発言に、アランは冗談だよね、といった表情で返事を返す。
「知ってたよ……敢えて間違ってみたんだ」
幼女は表情を変えないまま、さらりと意味不明の噓をつく。
「え? どういうこと?」
アランは困惑の表情を浮かべている。
「まあ、気にするな、些細な事だろ」
幼女は面倒臭そうに答えると、アランの太腿辺りをバシバシと叩く。
「まさか、本気で間違えたのか……俺、ずっと探してたのに」
アランは泣いていた。
ピートやガラードも気の毒そうな顔でアランを見ている。
ミカは、必死に笑いを堪えていた。
「文字数は合っていただろうが……女々しい奴め」
メソメソと涙を流すアランに、幼女が南極の風のように冷たい言葉を放つ。
「で、何の用?」
さらに、幼女の錆びたナイフのような問いかけがアランの心をえぐる。
「お礼を言いたくてさ……ナイジェルの事、ありがとうな。これだけは、どうしても伝えたかったんだ。お前のお陰で、ケジメをつけることが出来た。ミハエルやアイルトンも浮かばれるはずだ。そういえば、ジェンソンは聖職者になったよ」
アランが涙声で幼女に語りかける。
「あっ……ハイ、その……どういたしまして」
どうしよう……全然分からない。
幼女は動揺していた。
ジェンソンは確か、電マみたいな男だ。
アイルトン……ミハエル……ナイジェリア?
国の名前かな?
ナイジェリアが聖職者になって、ヤムイモの生産量が減る……フフ、何の話だ……アフリカ経済かな。
「プッ、すみません、アフリカにはあまり詳しくないので……」
幼女の悪ふざけが始まる。
それに聖職者になったのは、ジェンソンである。
「……覚えてないの?」
アランは、地面に倒れ込み……マジ泣きした。
「あー面白かった」
ミカが笑いながら、アランの頭を撫でている。
彼らは、ハルートの家の客間に案内されていた。
アランはふて腐れた顔で、ハルートとピートの話を聞いている。
「では、ハルート村長、許可をいただけるのですね」
ピートが幼女に尋ねる。
「ああ、早い者勝ちだ。お前をこの村の専属にしてやる」
行商人は呼ぶ予定だったしな、と幼女が言う。
ありがとうございます、とピートがハルートに頭を下げている。
さすがは商人、幼女相手でも低姿勢である。
「早速だが、村の連中に商品を見せてやってくれないか」
「わかりました」
幼女の要望に快く返事をすると、ピートは素早く準備に取りかかる。
「利益をあげるのは構わんが、あまりぼったくるなよ」
「もちろんです。クローナ村の皆さんとは、良いお付き合いをしていきたいですから」
そう答えるとピートは外へと駆けだしていった。
嬉しそうなピートの背中を見つめながら、アランは幼女に尋ねる。
「なあハルート、お前が村長……なんだよな」
「うむ、見ての通りだ」
いやしい幼女は、ピートからのお土産をひたすら物色している。
「一緒にいた時は、言葉も話せなかったのになあ」
「共通の言語を話せなかっただけで、知能や知識は大して変わってはいない。貴様こそ、どこぞの誰かを殺すと息巻いていただろう。今頃は牢屋の中だと思っていたが……」
「えっ! ナイジェルは、お前がやったんじゃないのか?」
「ナイジェリア? それ国じゃないの? 人口一億七千万を超える、アフリカ屈指の経済大国だろう」
幼女がとぼけたことを言う。
「ナイジェリアじゃない、ナイジェルだ。ヒゲの、胸に七つか八つの傷のある男で、口癖は俺の名を言ってみろって奴……罪人の壁に焼き付いてたんだけど……」
アランがナイジェルの特徴をハルートに伝える。
「ああ、あのアル中か! 殺した、殺した!」
やったね幼女、思い出しました。
しかし、嬉しそうに、殺した、を連呼する幼女……マッドである。
「喧嘩売ってきたからな、爆熱ゴッ○フィンガーで燃やしてやったんだ」
あれがそうなら逃げる必要もなかったな、と幼女が通り魔みたいな発言をする。
「偶然殺したのがナイジェルだったの?」
ミカが驚愕の声を上げる。
「そうだな、まあ、死ぬべき者が死んだだけだ。外道は滅びる、それ即ち、運命である」
幼女が何か悟ったような台詞を言う。
機嫌が悪いときに、難癖つけてきたから殺しました……とは言いにくいのだろう。
「それはいいとしてだ、お前達はこれからどうするのだ」
この話を続けていると殺人鬼扱いされそうだからか、幼女が話題を変える。
「ねえ、ハルートちゃん、しばらくここにいても良いかな?」
ミカがハルートちゃんに尋ねる。
「別に構わんよ、空き家はまだいくつかあるから、好きに使うといい」
「なあ、ハルートちゃん、ここには、獣人しかいないのか?」
アランもハルートちゃんに尋ねる。
「あと、エルフが一人いるな……それとお前、今度ちゃん付けしたらサツガイするからな」
殺人鬼の殺害宣告である。冗談とは思えない。
「マジか! エルフといえば美形だよな」
ニヤケ顔のアランの足をミカが蹴り飛ばす。
アランは足をおさえて、何やらブツクサと文句をいっている。
「でもさ、ハルートちゃん、獣人ばかりの村って領主的には大丈夫なの?」
「問題無い、クローナ自体がハーンズの基地みたいなものだからな。ウチの住民はほとんどがハーンズの正規兵なんだよ」
領主直属のな、と幼女が棚からウサギの腕章を取り出しアランに手渡す。
「どういうことだ?」
「言葉通りだ、このクローナ村は、ハーンズ北部を魔物から守る防壁であり、獣人達はそこを守る守備兵だ。当然、魔物だけでなく人間同士の戦争にも介入する。その際は遊撃隊として動く事になるがな」
「ちなみに私が隊長だ」
幼女が胸を張る。
もちろんペタンコである。
「なあ、ハルート、その部隊に俺も入ることはできるか?」
獣人じゃないけど、とアランが言う。その表情はいつになく真剣だ。
「ふむ、お前の腕なら大丈夫かな、覚えてないけど……」
幼女が適当な返事をする。
「しかし、お前……兵士になりたいのか?」
「兵士じゃない……俺は、騎士になりたいんだ」
幼女の問いにアランが答える。
騎士になる……それは、アランの子供の頃からの夢だ。
「騎士ね……まあ、近い内に戦争になるから、そこで手柄の一つも立ててみろ。そしたら領主に口利いてやるよ」
「出来るのか!」
アランが興奮気味に叫ぶ。
「ああ、ハーンズ卿とは親しくしているからな」
「ちょっ……ハルートさん、あんた何者だよ」
「何者か……だと、フフ、ある時はカワイイ」
幼女が面倒くさいリアクションをとろうとした瞬間、黙って話を聞いていたミカが口を開く。
「ハルートちゃん、戦争ってどういう事?」
「え……あっハイ、レナードが攻めてきますよ」
不意を突かれた幼女の言葉使いがおかしくなる。
「マジ?」
「本気だ……春くらいの予定だな」
本気と書いてマジである。
幼女がマジ顔で答える。
「そうか……ヨッシャ! 俺はやるぞ!」
アランが気合の叫び声を上げる。
戦争を大喜びするとは、危ない男だ。
「そっちの娘はどうする。ハンターなら戦えはするよな」
「うん、私もやるよ……腕はアランより上だから大丈夫だよ」
ミカが遊びに行くようなノリで答える。
最近の娘は、戦争もファッション感覚なのだろうか、怖ろしい時代である。
「分かった……二人とも、今日からハーンズ北部守備隊の隊員だ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします。ハルート隊長!」
幼女の言葉に、二人の元ハンターは、慣れない敬礼で応えた。
最近、腹筋ローラーを使っています。
近いうちに、私の腹筋は板チョコみたいになるでしょう。
バレンタインに間に合えばいいけど……
はい、今回もありがとうございました。




