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幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
24/47

第24話 決戦《後編》

昨日更新の予定でしたが、出来ませんでした。


今話からは、高機能フォームを使っています。

字が大きくて良いですね。


今日も、読んでくれるあなたに感謝を……

ありがとうございます。


 青い絶望がドラミングの轟音と共に迫る。


「皆、すまん……奇跡は……起きなかった」

 もう、どうすることも出来ない。


 ギルバートは、諦めの言葉を口にする。


「ギルバートさん……まだだ!」

 若い村人が声を張る。


「そうだよ! 騎士様も来てくれたんだから! 兵士だってくるかもしれないよ!」

 怪我人の手当をする娘が叫ぶ。


「指示を出してくれ村長! 俺達はまだやれる!」


「ギルバートさん!」


 まだ、諦めていないのか……ギルバートの目に、村人達の姿が映る。


「あんたへの三十四年分の信頼はこれくらいじゃ無くならねえよ」

 最後までギルバートに反対していた男が彼の肩を叩く。


 ギルバートは唇を噛み締め、ラッツ村での日々を思い出す。


 ローデンに裏切られすべてを無くした男が流れ着いたのは、東の辺境の小さな村だった。

 人々は貧しく、魔物の脅威に怯えながら暮らしていた。


 何も無い村だった……。


 荒れ地を耕し、魔物と戦いながら森を切り開いた。

 少しずつ、少しずつ豊かになっていった。


「もう、四十年か……」

 王都にいた時間よりずっと長い……


「ここが……俺の国だ」

 あんなものに、潰されてたまるか!


 ギルバートの瞳に闘志が宿る。


「声を出せ! 相手はゴブリンどもを矢面に立たせて隠れていた臆病者だ! 傷を負う覚悟もない連中だ! ありったけの大声で怯ませろ!」


「オォ-!」

 村人達が全力で叫ぶ。


 突っ込まれた瞬間にすべてが終わる。できるのは、それまでの時間を稼ぐことだけだ。


「騎士達よ! 我らの壁になってくれ!」


「承知した!」

 ギルバートの叫びに、ディーノが応じる。


 四人の騎士が、村人と魔物の間に入り、ゴブリン達を斬り倒す。


「やはり……!」

 ギルバートは確信する。


 あの騎士達には、勝算がある……この状況を変えうる何かがあるのだ!


「隊長! もう無理! 死んじゃう! 帰りたい!」

 ルースが半泣きで叫ぶ。


 右手の剣は、しっかりとゴブリンを串刺しにしている。


「ハハッ! 領民の盾になって死ぬなら本望だろう!」

 ディーノが笑いながら答える。


「いや! まだ死にたくない!」


「結婚とかしたい!」


「安心しろ、ルース……この戦、我らの勝ちだよ。お前が結婚できるかは分からんが」


 ディーノは、ブルゴリの群れに迫る獣達の姿を見つける。


「さあ、見せてくれ……ハーンズの救世主達よ。無傷の千人殺し、不死の獣軍の力を……」





「いくぞ……!」

 もう限界だ。


「あれれ~? 背後を突くんじゃなかったの~?」

 突撃の合図をだそうとするガラードを、幼女が見た目は子供の名探偵のモノマネで茶化す。


「今、出てったら側面攻撃になるなあ……あれれ~? 背後を突くんじゃなかったの~」

 幼女はしつこい。


「こ、小細工は好かん」

 ガラードは、幼女と目を合わせない。


「ガラードはやく……!」

 他の獣人達もソワソワしているようだ。


「それはないな……絶対助けない」

 幼女が、ガラードのモノマネをする。


「こ、これは……違うんだ!」


「ガラード!!」

 ウッドが叫ぶ。


「もういいだろ! 子供とかもいるんだから! 助けないとダメだろ!」


「ハイハイ……私は今回、口出ししないことになってるからね。好きになさい」 

 ガラードの叫びに幼女がニヤケ顔で答える。


「それと、怪我は治してやるから、死にそうになったら私のとこに来るんだぞ」


「はーい!」


「良い返事だ……さあ、我が愛し子達よ、私にお前達の勇姿を見せてくれ」


「任せろハルート様! これより、ゴリラどもを殲滅する! それと気が向いたら人間も……助けて良し!」


「クローナ獣人部隊、いくぞ!!」


 ガラードの声を合図に、獣人達がブルゴリの群れに突撃する。


 戦場に獣の咆哮が響く。


 幼女は彼らをニコニコ顔で見送ると、エルフの少女に手招きする。


「カサンドラ、我らも行くぞ……今回私は戦闘無しだからな」


「はい、聖女っぽくいくのですね」


「うむ、色々癒しまくってやる」


 戦場へと向かう幼女の顔には、詐欺師のようないやらしい笑みが浮かんでいた。



 ギルバートは、その光景に目を見張った。


 ゴブリンの集団を切り裂き、獣の軍団が姿を現す。


 絶望のドラミング音が、彼らの咆哮で掻き消される。


「ぶっ殺せ!」


 雄叫びをあげて、獣人の部隊がゴリラの群れへと一気に斬り込む。


 その数はおよそ百人……数の上ではブルゴリに劣る。しかし、側面からの不意打ちにブルゴリ達は対応できていない。


 ゴリラの青い毛皮が次々に血の赤に染まっていく。


「あれは獣人か?」

 なぜ、獣人が……?


 ギルバートの目の前で魔物と獣の死闘が繰り広げられる。


「村長! ゴブリンが!」


「ちっ!」

 騎士達は手練れだが、数が少なすぎる。

 村人全員を守る事は出来ない。


「すぐ行く! 慌てるなよ! 一匹ずつ囲んで倒すんだ!」


 指示を飛ばすギルバートの背中に、鈍い痛みが走る。


「なっ……」

 ゴブリンの投げた鉄の棒が、ギルバートの体を貫いていた。


「こんな……ところで……」

 今、倒れる訳にはいかないのだ……生き延びる道が見つかったのだ……今、俺が倒れたら……村が……俺の……村が……


 薄れゆく意識の中で、ギルバートは祈った。

 誰でもいい……女神でも、魔王でも構わない……村を……


「村を……守って……くれ」


「わかりました……その願い叶えましょう」


 声がした……幼い……少女の声だ。

 女神か……それとも……


「天……使……」


 ギルバートの目に幼い少女が見える。

 その背中には白い光の翼がある。


「よく頑張りましたね……勇敢なラッツ村の戦士達……」

 少女が優しく微笑み村人達に語りかける。


「呪文は……長いほうがいいか」

 人々の注目が集まる中、天使系幼女は小さく呟く。


 そして、ギルバートと村人達を光の炎が包み込む。


「寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の、水行末 雲来末 風来末、食う寝る処に住む処、藪ら柑子の藪柑子、パイポ パイポ パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーのファルティナの力を借りずに……今、必殺の!」


 幼女すごい、全部言えました。

 最後は少し違うけど……


 ギルバートだけでなく、他の村人達の傷も癒えていく。


「さあ、立ち上がりなさい……もう大丈夫です」


「聖女……いや、天使だ! 天使様が我らを助けに来た! 奇跡だ! 奇跡が起こった!」


 村人達が狂喜するなか、ギルバートは立ち尽くしていた。

 体に空いた穴は、完全に塞がっている。


「あり得ん……」

 確かに奇跡を望んだが……これは、あまりにも非現実的だ。もしかして俺は、死んで夢でも見ているのか? 


 ギルバートは目の前の少女……いや、幼女を見る。

 白い……そして美しい幼女だ。行為だけでなく、容姿も人間離れしている。


 それに、さっきの呪文のような言葉……まるで意味は分からなかったが、ファルティナの名だけは聞き取れた。


 天使……本当に女神の使いなのか?


 ギルバートはその幼女に向かって、祈りの言葉を呟いた。




「クク……予定通り」

 

 幼女は笑っている。


 なんてチョロい村人どもだ……あとは、優しい言葉をいくらかかけてやれば、コイツ等は私の従順な子羊ちゃんと化すだろう。


 とりあえず暴力は厳禁だな、私は優しい聖女様なのだから……


「さあ、カサンドラ……邪悪なる者達を払うのです」


「はい、任せて下さい」

 カサンドラが幼女の前に立ち、ゴブリン達と向き合う。


「エルフだ……」


「なんて美しい……」


「耳でかっ!」


 幼女に従う美しいエルフに、村人達は目を奪われる。


「風よ……」


「おっ」

 カサンドラの風の呪文に幼女が反応する。


 エルフの呪文詠唱は初めて聞くな……今後の呪文の参考になるかもしれない。


 ちなみに、幼女の呪文はただの雰囲気作りである。


 そして、カサンドラの詠唱が始まる。


「体は風で出来ている……血潮は鉄で心は……」


「えっ! ちょっ……パクリ! それパクリ!」

 カサンドラの呪文に幼女が狼狽うろたえる。


「…………アンリ○テッド……ウインドワークス」


 カサンドラが呪文を唱え終わり、風の刃がバリケードを囲んでいたゴブリン達を一瞬で切り刻む。


「これは魔術! あのエルフかっ!」

 ディーノは、風の魔術の凄まじい威力に驚嘆する。


 そして幼女は、風の魔術の呪文の内容に驚愕する。


「なんて危険な呪文だ……」

 とても参考にはならん。


 しかし偶然の一致とは思えんな……あれをエルフに呪文として伝えた奴がいるのかもしれん。


「すごい! ゴブリンどもが真っ二つだ!」


「見ろ! ブルゴリの数もドンドン減っていくぞ!」


 村人達が歓声をあげる。


「怪我をしていますね……こちらへ来て下さい」

 幼女が汚いおっさんの頬を撫で傷を癒す。あえて汚いおっさんを選ぶあたり、幼女の心も相当に汚い。


「ああ、天使様……ありがとうございます」

 おっさんは、感動でぼろ泣きしている。


 順調だ……奴らは天使系聖女ハルートちゃんにメロメロだ。

 幼女はほくそ笑む。


「子羊達よ、何も恐れることはありま――」


「ガンッ!」


 ノリノリで演説を始めようとした幼女の頭に、ゴブリンの投げた石が直撃する。


「…………すぞ」


 天使が……悪魔に変わる。


「殺すぞ! うす汚い子鬼が!!」


 幼女は激怒した。


 怒りの化身と化した幼女が一匹のゴブリンの前に立ちはだかる。


「お前か……?」


 叫び声をあげて襲いかかってくるゴブリンを、幼女が蹴り飛ばす。 


 ゴブリンは……爆散した。


 幼女は、無言のまま次のゴブリンの元へと向かう。


「お前か……?」


 そして、悪魔系幼女の、恐怖の犯人捜しが始まった。


「お前か……?」 ゴブリンの首が飛ぶ。

「お前か……?」 ゴブリンの体に穴が空く。

「お前か……?」 ゴブリンが灰になる。


 真犯人は、最初に蹴り殺されたゴブリンである。


 つまり……この犯人捜しは終わることはない。

 すべてのゴブリンが死に絶えるまで……


「……クソが!」

 やってしまった……また、癇癪かんしゃくを起こしてしまった。

 これでは、まるでジョーペシではないか。


 幼女は悔やんでいた。


「いや、まだいける!」 

 今までの積み重ねは、これくらいで無くなりはしない。


 再チャレンジだ!


「もう大丈夫です……邪悪なる者達は去りました」

 幼女が全力の天使スマイルをくりだす。


「ヒイィ……幼女怖い!」

 村人は怯えきっている。


「ふぇぇ……」

 幼女はうめいた。


 その時、ブルゴリと獣人達の戦闘に変化が起きる。


 強烈なドラミング音と共に、一際巨大なブルゴリが姿を現す。


 魔王種である。


 ブルゴリの王は雄叫びを上げると、獣人達を跳ね飛ばしながら、真っ直ぐに幼女の元へと突っ込んでくる。


「白い悪魔! 樹海で殺された、弟の仇!」


 ブルゴリの王が叫ぶ。


「知らんな……喰らったエサのことなど一々覚えているかよ。それに、貴様らの見分けなどつく訳がないだろう。全部一緒のゴリ面ではないか、鏡見てみろよ」


「白い悪魔、貴様は……殺す!」


「フハハ、やってみろ……」


 幼女とブルーマウンテンゴリラの王、二人の強者が対峙する。


 緊張が高まるなか、ブルゴリの王の前に二匹の獣が立ち塞がる。


「ハルート様! ここは我らにお任せ下さい!」


 二つの声が揃う。


「ケン……それにウッドか」


「ハルート様! アイツは俺らがぶっ殺す!」

 ウッドが叫ぶ。


「女神ハルートよ……どうか、我ら兄弟に雪辱を果たす機会をいただけないか」

 ケンが静かな闘志を燃やす。


「いいだろう……ケンウッド兄弟、お前達に任せる。その五月蝿うるさいゴリラを黙らせろ」


「応!」


 獣人の兄弟が唸り声をあげ、ブルゴリの王へと向かっていく。


「邪魔だ、犬ども! 白い悪魔、俺と勝負しろ!」


「ククク……」


 幼女が、自ら積み上げたゴブリンの屍の山に腰掛け、笑う。


「私と戦いたければ、その二人を倒してみろ……ブルゴリの王よ」


 完全に悪のラスボスである。


 力と耐久力に勝るブルゴリに、ケンウッド兄弟は速さで対抗する。


「手数は多いが、致命傷にはほど遠い……このまま長引けば不利だな」

 幼女が両者の戦いを冷静に分析する。


「ウッド! あれをやるぞ!」


「了解! 兄ちゃん!」


 ウッドに合図を送ると、ケンは地面に仰向けに滑り込む、上に上げた状態のケンの足裏にウッドが飛び乗る。


 二人の足の裏同士が、がっちりと噛み合う。


「あれは……まさか!」

 幼女が驚嘆の声を上げる。


「いけ! ウッド!!」


 二人の足が同時に伸びきり、ウッドが凄まじい勢いで発射される。


「スカ○ラブハリケーン!」

 幼女が叫ぶ。


 そのあまりの速さに、ブルゴリの王は反応する事もできない。


 そして、ウッドの爪がブルゴリの喉を切り裂いた。


「ゴォール! 決まったぁー! ブルゴリ一歩も動けなーい!」

 幼女が大喜びで実況している。


「おのれ……白い……悪魔め」

 喉から血を噴き出し、ブルゴリの王が倒れる。


「ふん……貴様如きが、我らの女神に挑むなど千年早い」

 ケンがブルゴリに吐き捨てるように呟く。


「借りは返したぞ!」

 ウッドが胸を張る。


「二人とも良くやった! おいでおいで!」


「ハルート様!」


 幼女が獣人の兄弟を撫でまくる。


 王を失ったゴリラの群れは統率を失い、次々に獣人部隊に狩られていく。


 戦の終わりである。


「完全勝利だな」


「さあ! 我が愛し子よ! クローナの戦士達よ!」


「勝ちどきをあげろ!!」


 村中に獣人達の咆哮が響き渡る。



 その光景を見つめるギルバートの元へ、あの幼女がやってくる。


 色は暗めのネイビー、大きめのフードに、生地は厚手のメルトン生地、フロントにはトグル。


 もう、この幼女が天使に見えることはない。


「ラッツ村の村長だな。私の名はハルート、クローナの長だ。少し……話をしようか」

 

 ギルバートは思う。


 俺の願いを聞き届けたのは、女神でも、天使でもない。


 この幼女だ。


 ならば……報いねばなるまい、例え相手が何者であったとしても。



ようやくゴリラが終わりました。


当初は二行くらいで終わる予定でしたが、三話くらいかかりました。


上手くいかないものです。


では、今回もありがとうございました。

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