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幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
22/47

第22話 幼女プラント《挫折》

こんにちは。


ここまで来てくれただけで嬉しいですが、読んでくれるともっと嬉しいです。


あと、ブックマ……いや、何でもありません。


今回もあなたに感謝を……


ありがとうございます。

「これが……」


 ハルートが包みをほどく。


「我がハルート工房の作品だ……」


「うわっ! すごいキモい!」

 レオンが叫ぶ。


「え……? キモ……今、キモいって言わなかった?」


 幼女は動揺していた。


 この幼女、大抵のことには動じず、常に自信に満ちているのだが、自分の作品の評価には意外と敏感らしい。


「キモい……かな?」

 幼女は、シュンとしている。


 サラが必死に「キモくないでしゅよー」と赤ちゃんをあやすように幼女をなだめる。


 カサンドラは、普段は見られないシュンとした幼女にときめいていた。


 レオンの前には、ガラス製のグラスが並んでいる。


 ガラス自体は、この世界でも特に珍しいものではない。

 原料も普通に取れるし、加工も可能だ。


 貴族の間でも、装飾を凝らした物が流行している。


 しかし……


「何だこの……異様に複雑で、緻密な造形は」


 触ったら呪われそうだ。

 悪魔が生き血とか飲みそうな感じだ。


 ハルートが持ち込んだ物は、ガラス製のグラスに、同じくガラスで作った獣や鳥がいくつも飾りつけられたものだ。


 グラスの周囲に、狼に獅子、鹿や猪、鷹に、烏……などの頭部、顔がビッシリ並んでいる。

 さながら獣達のデスマスクコレクションである。

 しかも、そのすべてが恐ろしくリアルで……とても気持ち悪い。


「これは……君が作ったのか?」

 レオンも貧乏領主とはいえ貴族である。


 こちらでいうところのヴェネチアングラスの様なものはいくつか所持しているし、王室御用達の職人が作った物も見たことがある。


 しかし……これは、おかしい。


「うむ……加工が簡単なのもあって、ガラスをつかってみたのだ。私なら割れた屑ガラスからでも再生できるし、多少は知識もあるからな。色んな鉱物を混ぜて、硬さの調整や色付けも色々試しながらやってみた」


「造形は私の……センスだ」

 幼女は、ちょっと照れている。


 こういう顔をしていると、大変可愛らしい幼女である。

 作品は、可愛さとはほど遠い物だが。


「私は、あまり詳しくないが……そんな単純なものではないだろう。炉をつかったりもするのではないか?」

 それに冷えたら固まる物を、どうやったらあんな複雑な形に出来るのか。


 地獄から召還したグラスだ、とでも言われた方が納得がいく。


「ああ……魔術みたいなものだが、私は熱を操れるからな。実際、鉄でも銅でもすぐ溶かせるし、急速に冷やす事も出来る。しかも私は熱さを感じないから、まあ、粘土細工みたいなものだよ」


 しかも、怪力……まさに人間プラントである。


 正確には、人間ではなく竜なのだが。


「それでハーンズ卿、それくらいの物なら一日で作れるが……売れるかな?」


 レオンは色々考えた。熱を操る……熱くない……しかも冷やせる。

 そして、しばらくの思考の後……レオンは、考えるのをやめた。


「絶対に売れる、しかもすごい高値が付くと思う」


 それは、間違いない。

 こんな技術を持った職人は、大陸中探しても見つからないだろう。

 この気持ち悪い作風も貴族には受けると思う。


「そうか! ならばこのハルート工房のガラス細工をクローナの特産品として売り出したい……どうだろうか?」

 幼女のテンションが上がる。


「ハルート嬢、クローナの……では、すぐに場所が特定されて騒ぎになるぞ」


 辺境の村の幼女がこんな物を作ってるなんて、何処のおとぎ話だ。


「ほう、そんなに評判になるかね」

 幼女は、満更まんざらでもない様子だ。


「なる、間違いなく国中の貴族や商人が欲しがる」


「ククク……そうか、ならばハーンズの特産にしよう。材料を仕入れてくれるなら、ハーンズ卿におろすよ。後はそちらでさばくと良い。ハルート工房は、ハーンズの何処かにある謎の工房ということにしておこう」


「いいのか! 感謝するよ、ハルート嬢」

 これは、絶対に儲かる。ハルートさん大好き!


「まあ、半分は趣味だからな。いくらかの収入になれば、それで構わん。むしろ、私のセンスが認められた事の方が重要だ」


 幼女は満足げに微笑んでいる。


「そういえばハーンズ卿、他にもいくつか作った物があるんだが……」


「おお……それは、是非見てみたいな」


「大した物ではないよ。モデルに似せて作っただけの物……絵でいえば模写だ。これには、私の芸術性がまったく反映されていない」

 魂のない人形だよ、と幼女が言う。


 そして、レオンの前に三体のドールが並んだ。


 カサンドラちゃん、サラちゃん、そして……ハルートちゃんである。


「つまらないだろう……まあ、その辺の土産物屋にでも――」


「素晴らしい!」

 レオンの声が響く。


「これは、すごい! なんという美しさだ! あんなキモいのより、ずっと良い!」


 興奮したのか、レオンの本音が漏れる。


「えっ? キモ……キモいのって」 


 幼女は立ちすくみ、言葉を失う。


 彼女の芸術家としてのプライドは、砕け散ってしまったのだ。

 そう……まるで、ガラス細工のように。



 金と銀の美女に手を引かれながら、幼女が屋敷の中を歩く。


「ふぇぇ……」


 幼女は、泣いていた。


「キモくないでしゅよー」

 サラがなだめる。


 カサンドラは、ニヤニヤしている。


 レオンの屋敷では、幼女の涙について様々な憶測が流れた。

 しかし……真実は誰にも分からない。


「芸術家としての私は……死んだ」

 幼女が呟く。


 そして、彼女は誓う。


 これからは、ただ金を生み出す為だけの、幼女プラントとして生きていこうと。




 昇ったばかりの朝日が、白銀の髪に反射する。


 色は暗めのネイビー、大きめのフードに、生地は厚手のメルトン生地、フロントにはトグル。


 ダッフルコート姿の幼女の前に、獣人の戦士達が整列する。


 全員が腕に、白いウサギが描かれた腕章をつけている。

 ハーンズの正規兵である証だ。


「似合うではないか……」

 しかし、何故ウサギなのだろうか……弱そうだし、PL○YBOYみたいだ。


「状況は……?」


「目標は、勢力を拡大しながら南下をつづけています。現在ブルーマウンテンゴリラが100、ゴブリンが50」


 幼女の問いに、銀狐の女戦士が答える。


「ゴブリンまで取り込みだしたか……」


「はい、ゴブリンの群れを襲って、力ずくで従わせています」


「随分調子に乗っているな……ゴリラ風情が」

 そろそろお仕置きしてやるか。


「聞いたか、お前達! 我らの狩場は今やゴリラの物だ!」


 幼女の青眼は獣人達をじっと見据えている。


「お前達が食うはずだった鹿も、猪も、全部奴らの腹の中だ!」


 幼女の言葉に獣人達が怒りの表情を見せる。中には唸り声をあげる者もいる。


「ガラードよ……なぜこうなった?」

 幼女が黒狼に問う。


「我らが敗れたからだ!」

 黒狼が咆哮のような声で答える。


「そうだ……では、ケンよ……なぜ貴様らは敗れた?」


「弱さ故に……だ」

 静かな声の中に、凄まじい怒りを感じる。


 それも当然だろう。ケンとウッドの兄弟は、以前ブルゴリに瀕死の重傷を負わされていた。


「その通りだ!!」


 幼女が吠える。


「知恵も! 数も! すべて力だ! そしてお前達は、その力で劣ったのだ! あのゴリラどもに! ブルゴリごときにだ!」


 幼女は一歩前に踏み出すと、獣人達の顔を見回す。


「そして奴らは今、我らの森を我が物顔で闊歩かっぽしている。獣人ごとき、恐るるに足らんとな……」


 戦士達の闘志が高まっていく。


「舐められている、舐められているのだ! 貴様らも! そして……この私も!」


「この屈辱! どうすればいい……!」


 幼女はうつむき、自分の腕で自らの体を抱きしめる。


「ゴリラどもをぶっ殺す!」

 ウッドが叫ぶ。


 次々に獣人達の咆哮が上がる……殺意の咆哮だ。


「クローナの戦士達よ!」

 幼女の声に一瞬で騒ぎは静まる。相変わらず、調教は完璧のようだ。


「あのゴリラどもは、我らの縄張りを侵し、我らの誇りに泥を塗った……」


「償わせなければならない!」


「オォー!」

 獣人達が雄叫びで応える。


「その命をもって!」


「オォ-!」


 幼女の体に、殺意が満ちていく。

その顔は、笑っているようにも見える。


「皆殺しだ!!」


 一番の歓声が上がる。


 ああ、なんてノリの良い連中だ。

 幼女はご機嫌である。


「ゆくぞ! 戦士達よ!」


「奴らに我々の怖ろしさを教えてやれ! その魂にまで恐怖を刻み込むのだ! たとえ、奴らが生まれ変わったとしても、二度と我らを侮る事のないようにな!」


「出陣だ!!」


「はーい!」


 獣人達から、イ○ラちゃんみたいな返事が帰ってくる。


 幼女は、鼻歌混じりに先頭を進む。


 その姿は、まるで遠足に向かう幼稚園児のようにも見えた。



 

 ゴリラ狩りへと出陣する獣人達、その後方で、騎士鎧を着込んだ若者が呆然と立ちつくしていた。


 彼の名はステイン、ハーンズに仕える騎士である。


「なんだよ……あれは」

 ステインは、先ほどまで行われていた謎の幼女による演説を思いだし、身震いをする。


 獣人の部隊を前にして、物騒な言葉を嬉々として叫ぶ幼女。


 マッドだ……


「この任務について、一切の口外を禁ずる」

 部隊長から告げられた言葉がステインの脳裏を掠める。


 任務の内容は魔王種の討伐、人員はわずかに五名。


 最初にこの任務を聞いた時は上司の冗談だと思った。

 冗談ではないと分かった後は、何か嫌われる事でもしたのだろうか、と真剣に考えた。


 騎士を辞めて、逃げようかとも思った。


 思いとどまったのは、この任務の指揮官があの人だったからだ。


 ディーノ隊長……騎士団でも指折りの実力者で、領主様の信頼も厚い騎士だ。


 あの人が指揮をするのなら、何か特別な任務かもしれない、そう思ったのだが……


「予感は、どうやら当たったみたいだ」

 ステインは呟き、戦地に赴く幼女の背中を見つめる。


 そして、彼は思う。


 やっぱり騎士を辞めて逃げるべきだった……と。




今回は話が進みませんでしたので、頑張って明日も更新できたらと思います。


平日なのでどうなるか分かりませんが、頑張ります。


では、サンクトペテルブルク!

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