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幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
21/47

第21話 魔王種《ブルーマウンテンゴリラ》

タイトルはゴリラですが、今回はあまりでてきません。


ゴリラが好きで仕方ない方は、次の更新までお待ち下さい。


一応、明日の予定です。


今日もあなたに心から、感謝を……

 「ハルート様……お腹、超痛い……」

 ウッドの内臓がビローンとはみ出している。


「うなぎ! うなぎ!」

 ハルートは、ウッドの腸を引っ張って遊びながら、その辺でウンウン唸っている重傷者を治し続けていた。


 クローナ村の特産品として売り出す予定のガラス製品を一人で黙々と作っていたところ、怪我人が出たから来て欲しいとガラードが駆け込んできたのだ。


「で、何があった?」

 治療を終えたハルートが、ガラードに尋ねる。


 獣人達が狩場にしている森には、それほど強い魔物はいないはずだ。稀に、群れからはぐれたワイバーンに出くわす事もあるが、それも大した脅威では無い。


「ブルゴリにやられた……」


「ブルーマウンテンゴリラ……略してブルゴリに?」

 ハルートが説明くさい反応をする。


「ブルゴリごとき、お前達の敵では無いだろう……油断したのか?」

 青山は腕力は強いが、とにかく頭が悪い。

 敵が目の前にいるのに、いきなりウンコし始めたりする。


「いや……油断したわけじゃ無い」

 ガラードが首を横に振る。

 リーダーとして責任を感じているのか、表情は暗い。


「群れからはぐれた青山を見つけたから、ケンの班とウッドの班に追わせたんだ。それで、ケン達が俺の本隊と離れて孤立したところを青山の群れに囲まれた」


「ケンウッド兄弟は、群れに気づかなかったのか?」


「木の上に隠れてたらしい……地面したと違って、上はニオイでは気づきにくいんだ」


 ガラードの言葉に、ハルートの顔色が変わる。


「まさか、群れからはぐれた青山は……」


「……おとりで間違いないと思う。しかもアイツら、手には武器……木の棒とか石とか持ってたらしいんだよ」


「馬鹿な!」

 あり得ない……あの青山が……それではまるで、知的生命体ではないか。

 あの、ウンコと交尾しか頭に無い、青山君が……。


「まさか……偏差値があがった……のか?」

 ハルートは身震いした。


「へんさち? よく分からないが、ケンの話じゃ群れの中に異様にデカイ青山ゴリラがいたらしい……多分ソイツがボスだと思う」


「ふむ、魔王種というやつだな。そいつがブルゴリ達に知恵の実を食わせた蛇と言う訳か」


 許せんな、青山君の馬鹿さは個性だ。

 唯一の愛されポイントを奪うとは……蛇め、その罪、万死に値するぞ。


「ガラード! そいつは私が殺――いや、ちょっと待て」


 確か魔王種の群れは、巨大化すると聞く……これは、チャンスかもしれんな。


 ハルートは少し悪い顔をする。


「ガラード君、しばらく狩りは休みたまえ……怪我人にも休養が必要だろう」


「怪我人は、全員ハルート様が治しただろう? 青山達を放っておくと他の獲物も食い尽くされるぞ……いいのか?」


「構わん……放っておくといっても数日だけだ。私は明日、領主に会いに行く、私が戻るまでブルゴリには手を出すなよ」


「了解! ハルート様には何か考えがあるんだよな?」


「まあ、そういう事だ。それに……お前にも時間が必要だろう? 愛しい恋人(無機物)との……な」


「確かに、最近忙しくてあんまり構えてなかったかも……」


 嘘を吐け!

 このペディオフィリアめ!

 お前、いつも持ち歩いてるだろうが!

 今も持ってるの知ってるんだぞ!


 ハルートは心の中で叫ぶ。


「そ、それはイカンな、女は一度ヘソを曲げると厄介だからな」

 幼女がどこかの部長みたいな台詞をいう。


「そういうものか……良し! 明日は二人でどこか出かけよう!」


 二人じゃない……一人だ!

 コイツほんとヤバイな……


「あの……じゃあ、カサンドラちゃんにもよろしく。私、行くから」


 早くこの場を離れたい……幼女はスタコラ立ち去った。



 幼女が屋敷の中を歩く。


 ハルートとレオンの関係を知るものは、レオンの側近とマチルダだけである。

 屋敷の中で働く者も、兵士達も、彼女が何者なのか知りはしない。


 時に一人で、時には獣人達を引き連れて、屋敷に現れる謎の幼女……レオンに仕える者達の間では、彼女の話題が最近のトレンドNO.1となっていた。


 そして今日彼女が連れているのは、何度か見た事のある銀髪の獣人の娘と……金髪のエルフだ。


 金と銀の美女を引き連れて、白い幼女が颯爽と歩いて行く。

 その威厳に満ちた姿は、思わず跪きそうになるほどだ。


 彼女達がレオンの部屋に入ると、彼らの間から溜息が漏れる。


「エルフ……初めて見た」


「また、すごい美人だったな」


「やっぱり王族だと思うわ……なんか、気品がすごいもの」


「王族は獣人やエルフを連れたりしないでしょう」


「でも、領主様もすごく気をつかっているわ。身分の高い方なのは間違いないはずよ」


「よその国の王族じゃないか? 獣人とも仲の良い国の」


「幼女最高! ペロペロしたい」


 どうやら、一人おかしな人間がいるようだ。雇用の際の面接はちゃんと行っているのだろうか。


 もっと、気を付けなければならない……変態というのは、普段は仮面を被っているものだから。


 そしてここにも、仮面の変態が一人いる。 


 尻に取り憑かれた男……ハーンズ領主レオンである。


「おお、君はエルフか、珍しいな」

 この尻は……カワイイ系だな。


 レオンはこっそりとカサンドラの尻を見ながら思う。

 カワイイ系の尻がどういうものかは、レオン以外には分からない。


「カサンドラと申します」

 美しいエルフがレオンに向かって頭を下げる。


「カサンドラ? もしや君は……森の聖魔術師、カサンドラ殿か?」


「それは……」

 レオンの問いかけに、カサンドラは困ったような顔をしている。


「ハーンズ卿、それは彼女が勇者のオマケだった頃の呼び名だよ。今はただのカサンドラ、いや……クローナ村のカサンドラだ」


 幼女がエルフに代わって口を開く、クローナ村の……ということは、彼女もクローナ村で暮らしているという事だろう。

 

「そうか……しかし彼女がいるなら、以前言っていた勇者をよく知る人物というのは必要ないんじゃないか」


 彼女は、勇者の恋人のひとりだと聞いている。確かにこの美しさなら、勇者が惚れるのも無理はない。


「いや……カサンドラの勇者に関する話には感情が入りすぎている。できれば、もう少し客観的な意見が欲しい」


「まあ、男女の仲だからな……色々あるだろう。勇者はかなりのプレイボーイらしいし……ナタリア殿下との婚約にショックを受けた者も少なくないだろう」


 レオンの言葉には、その中にカサンドラも含まれるだろうという響きがあった。


「私は……」

 レオンの言葉に、カサンドラが反応する。


「私は、あの男に好意を持ったことなど一度もありません」

 その目には、強い怒りがあった。


「カサンドラ……ここは、そういう話をする場では無い」

 ハルートがカサンドラをとがめる。


「すいません……」

 エルフの長耳がシュンと下を向く。


「申し訳ない、ハーンズ卿……やはり勇者の件は引き続きお願いしたい。あの存在はすべてをひっくり返しかねない。絶対に放置は出来ない」


「分かった、なるべく急ごう……しかし、そうすると今日はカサンドラ嬢の紹介に来たというわけでは無いのだな」


「うむ、一つはまあ、商談のようなものだ。もう一つはちょっと嫌な話になるかもしれんが……放っておくともっと嫌な話になりそうだな」


「えー嫌な話は聞きたくないなあ」


 レオンが、駄々っ子のような口調になる。

 こういう目立つ口調の時は、大体、誰かの尻を盗み見しているのだ。


「大した事では無いよ、クローナの北で魔王種が発生した……それだけだ」

 幼女が愉快げに話す。


「ああ! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞いてない!」

 なんてことだ。レナードだけでも困ってるのに……ウチの領地は呪われているのか。

 レオンは耳を塞いで頭を振る。


「ブルーマウンテンゴリラだ。……まだ群れの規模は小さいが、すぐに膨れ上がるだろう」


「間違いない?」

 噓だと言ってよ、ハルートちゃん……


「間違いない。ウチのワンニャンどもが死にかけた。普通のブルゴリに出来ることでは無い」

 幼女は断言する。あれは、魔王種だ……と。


「分かった……兵を出すよ、仕方がない。被害が拡大する前に手を打たないとな」


 群れの規模にもよるが、相手が魔王種となれば数百規模の派兵になる。ハンターを雇う手もあるが、魔王種討伐となるとかなりふんだくられるだろう。金にしろ、兵にしろ、相当な損失を覚悟しなければならない。


 そして、得られる物はゴリラの肉だけ……なんて馬鹿らしいんだ。


「魔王種にはセオリーが通じないからさ、よく兵士が死ぬんだよ。レナードとの戦を前にして困ったな……ああ、ほんとに困ったなあ」


 レオンはわざとらしい溜息をつきながら、幼女の方をチラチラッと見る。


「分かったよ、ハーンズ卿……魔王種は我らで片づける。その代わり、こちらからも一つ頼みがある」


「出来ることは何でもするぞ!」

 さすがハルートさん頼りになるな。


「我らをハーンズ北部の正式な守備隊に任命して欲しい。ただし、領主直属の部隊としてだ」


「つまり……私、正確には君の命令でのみ動く部隊ということか? しかし、それは今とあまり変わらないと思うが……あっ給料欲しいの?」


「給料はいらない……いや、歩合でいい。欲しいのは金じゃなくて信用だ」


「十分、信用はしているが……ああ、そういう事か……」

 欲しいのは、私の信用ではなく、人間の信用か。そのために守備隊の肩書きが欲しいのだな。


「私は君を誤解していたようだ……何だろうな、少し嬉しく感じるよ」


 この幼女にとって、すべてはただの手段だと思っていたが、そうではないのだな。

 少なくとも、獣人達に対しては愛情を持っている。


「獣人が人間を憎むのは構わない。だが、人間とカロッツァがイコールになっているのは少し違うからな。彼らには人を正しく知った上で判断して欲しいのだよ。拒むか、共に生きるかを……」


「分かった。では、クローナ獣人部隊をハーンズ北部守備隊に任じる。部隊の任務はハーンズ北部の治安の維持だ」


「というわけで、例の魔王種の討伐と住民の保護を頼む……こちらからも何人か騎士を派遣しよう」


「了解した……ハーンズ卿の名前があれば、村民どもは我らを拒めん。後は、私がしっかりたぶらかしてやろう」

 幼女がニヤリと笑う。


「誑かすのか……」


「今のあなたと同じだよ。結果的には何も失わずに済む」


「……望む結果が同じなら、腹の内など知る必要もないか」


「そうだ……それに、我らとの関係が上手くいけば、北部は間違いなく豊かになる。獣人達は農業がまったく出来ないからな。うまい野菜と酒があるならワイバーンの革くらい置いていくよ」


「いや、ワイバーンとかは私のところに持ってきてくれよ! あとキマイラ! キマイラ欲しいです! 美容に良いとかで肉がすごい値上がりしてるんだよ!」


「ハーンズ卿……お金ないの」


「大侵攻のせいで今期の税収がな……」

 レオンは遠い目をしている。


「ふむ、ならばちょうど良い。力になるかは分からんが、見て欲しいものがある……サラ!」


 幼女が呼ぶと、サラが布に包まれた何かを慎重に運んできた。


「そういえば……もう一つの話は商談といっていたな」


 中々の大きさだ、九十センチくらいはあるだろうか……



 レオンは、サラの尻のサイズを目測していた。


 彼女の持つ荷物は、その三分の一ほどの大きさだ。


「なんだい、それは?」

 この幼女が持ち込むものだ……きっと、この尻にも負けないくらい魅力的なものに違いない。


 おそらく、この幼女は人ではない。

 悪魔かもしれない。


 しかし、彼女といると実に楽しい……。


 レオンは、思う。


 どうやら自分は、女神に祈るよりも悪魔と悪だくみをする方が性に合っているらしいと。




はい、ありがとうございました。


明日、続きを更新する予定です。


まだ何も考えてませんが、今回が中途半端な終わり方でしたので、とりあえず続きから……と思っています。


いつもこんな感じですから、多少の矛盾は見なかったことにして下さい。


お願いします。


では……また読んでくれたら、うれしいな。











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