第20話 超越者《ガラード》
少し短めです。
だって平日は忙しいんだもん。
週末は二回は更新したいな、と思ってます。
今日も心から感謝を……
ありがとうございます。
「美しい……」
何という美しさだろう……まさしく神の御業、奇跡の造形美だ。
ガラードは、カサンドラちゃんドールに見とれていた。
彼の元にカサンドラちゃんがやってきてからというもの、ガラードは彼女に夢中だ。
「じゃあ、行ってくるよ」
ガラードはカサンドラ(無機物)にキスをする。
……キモい。
「いってらっしゃい、気をつけてね(裏声)」
なんと、一人二役です。
カサンドラちゃんがガラードの声で返事をする。
何というキモさ……これは酷い……まるで地獄だ。
ガラードの禍々しいまでのキモさは、この世に地獄を生み出した。
愛しい人……型の無機物と別れ、朝の狩りへと向かう地獄の住人に、一人の女が声をかける。
「おはようございます。気をつけて下さいね」
美しいエルフが微笑む。
男なら誰もが魅了されるであろう、天使の如き微笑である。
カサンドラちゃんを愛するガラードにとっては、尚更だろう。
「ああ……」
しかし、照れているのだろうか、ガラードの返事は素っ気ない。
いや……これは違う、そうではない。
このケダモノの目に、あの美しいエルフは映っていない。
この男、本物には何の興味もないらしい。
そう……彼の愛は、次元を超えたのだ。
狩りを終えた超越者は、今日も家路を急ぐ……ああ、一刻も早く、彼女に会いたい。
「ただいま!」
勢いよく扉を開けると、ガラードは愛しい彼女に駆け寄る。
「お帰りなさい、大変だったでしょう(裏声)」
そしてまた……地獄の扉がひらく。
「ハーマンの奴がやらかしてな……」
「ウフフ……仕方のない人よね(地獄ボイス)」
そして今夜も、狂気の宴は続く。
彼の名はガラード、地獄の住人……魔道を征くものである。
それは、誰とも交わらぬ孤独な道……それでも、彼はゆく。
この愛の為に。
ハルートは、先日完成したばかりの工房で、クローナ村の経営方針について考えていた。
まず、獣人達は農耕に向いていない。
飽きっぽいというか、変化が無いのが堪えられないらしい。
一度、手順を教えてやらせてみたが、いつの間にか土を投げあって遊んでいた。
これでは、ジャガイモさえ作れない。
狩猟時には、獲物を追って何時間も身を潜めることが出来るのだから、集中力が無いわけではないだろう。
おそらく、興味の無いことはやりたくないのだ。
まるで子供だ……と子供村長は思う。
しかし、わざわざやりたくないことをやらせる必要もない。
出来ることで補えば良いだけだ。
幸い、彼らの狩人としての能力は高い。
あの大侵攻以来、魔の領域は人の生活圏へと侵食してきている。獣だけでなく魔物も狩れるのならば、それは大きな収入源となる。強力な魔物から取れる素材は、高価なものが多いからだ。
クローナの獣人部隊なら、キマイラやワイバーンでも狩る事が可能だ。
「問題は……取引先だな」
ハルートはハーンズの地図を見る。
クローナ村は北の果て、魔物の生息域との境界にある。
現状、取引が可能なのは領主のレオンだけだが、やはり遠すぎる。価値の高いものは、まとめて買い取ってもらうよう話はついているが、大した価値の無い毛皮や肉は難しい。運ぶ量にも限界はあるし、輸送にも時間がかかりすぎる。
「さて……どうするかな」
ハルートは地図を眺めながら思案する。
行商人の中には「相手が獣人だろうと魔物だろうと、儲かるのなら関係ない」という奴はいくらでもいる。
連中は利益の為なら、差別や偏見さえ利用するものだ。
クローナに来る者は、簡単に見つかるだろう。
だが……先のことを考えるなら、近隣の村々との交流も持ちたい。
辺境の村というのは、基本貧しい。
しかも、魔物の生息域に近いとなれば尚更だ。
かつてのクローナ村が廃村になったのも、大侵攻で魔物に蹂躙され、復興するだけの力も無かったからだ。
クローナには、金を稼ぐ手段がある。
魔物を退ける力もある。
良い関係が築けるはずだ……。
人が獣人を恐れず、獣人達が人を憎んでいなければ、の話しだが……
窓の外からは、獣人達の笑い声が聞こえている。
幼女は彼らの未来を思う。
不器用な連中だ……放っておくとすぐに滅んでしまうだろう。
「私が一肌脱がねばなるまい……」
可愛いワンニャン達の為だ。
幼女は颯爽とコートを羽織る。
色は暗めのネイビー、大きめのフードに、生地は厚手のメルトン生地、フロントにはトグル。
ダッフルコートである。
「さあ、貧民どもよ、待っているがいい……偉大なる聖女、ハルート様が降臨してやろう」
幼女は思う。
まるで、ファルティナのようなやり方だな……と。
ここはハーンズの中心、ディルハムの街。
「本当に、いいのかい?」
ピートは目の前の男に尋ねる。
「ああ、こっちもついでだしな、馬車に乗せてもらえて飯もタダなら悪くない」
男が頷く。
「でもさ……死んでも絶対に守る! なんて約束はできないよ。護衛任務ってわけじゃないんだから」
隣のエロスな女が、再度確認をとる。
これは、仕事ではないのだと。
「分かってるよ、これは正式な依頼じゃなくて、利害が一致した者同士が一緒に行動するだけだ」
「それなら良し! なんかあって、ハンター首になったら洒落にならないからね」
「けどさ……腕の立つハンターなら、甲冑イノシシくらい訳ないよな?」
ピートが不安そうな顔をする。
「まあ、一匹なら余裕だよ。群れなら逃げるけどな」
男は、笑いながらピートの肩を叩くと、荷物を馬車に積み込む。
「けどなピート……獣人と揉めるのは無しだぞ。俺は一人、獣人のハンターを知ってるけど、鬼みたいに強かったからな。あんなのと揉めてたら命がいくつあっても足りやしない」
「ああ……レベッカね」
女も同意見のようだ。
「揉める訳ないさ。これからお客さんになるんだから……情報が確かなら、すごい上客になるかも知れないんだよ。とにかく急がないと、他の奴に先を越されちまう」
「じゃあ、行くか……ミカ! 早く乗れ!」
「待ってアラン! これで最後っ……と」
ミカは荷物を荷車に押し込むと、馬車に乗り込む。
「いざ、クローナ村に……しゅっぱーつ!」
ミカのかけ声と共に馬車は走りだす。
アランは、ユニオンの支部で聞いた噂を思い出していた。
ハーンズの北、辺境の地に聖女が舞い降りた。
彼女は、獣人達を率いて魔物から村を守り、傷ついた村人達を癒したという。
「ハルート……」
アランは、あの幼女の顔を思い出す。
楽しそうにジェンソンを振り回す、あの幼女の笑顔を。
ようやく5000PV行きそうです。
すべては皆様のおかげです。
では、サンキューでした。




