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幼女オブトゥモロー  作者: オーロラソース
19/47

第19話 宴《J1GP》

今回は、前半と後半で少し雰囲気が違います。


きっと、私の中の何かが切り替わったのでしょう。


今週もあなたに良いことがありますように……

今日もありがとう。

 ジーン達はペンス村からの帰路に就いていた。


「しかし、腹の立つ男でしたな、あの村長は」

 レナード騎士団の古株、ダスティンがジーンに話しかける。


「そうか? 私はむしろ感心したくらいだよ。領主の息子相手にあれだけの皮肉、中々言えるものではない」

 部下にしたいくらいだ、とジーンは笑いながら答える。


「冗談はやめて下さい……事情が事情なだけに我慢しましたが、何度首をはねてやろうと思ったことか……」


「それだけの怒りだということだ……フランク村長は、我々にそれを伝えたかったのだろう。彼の軽口にはそういう覚悟が感じられたよ」


 ニヤケ顔をしながらも、フランクの足は震えていた……あれは、彼なりの戦いだったのだ。


「あの長がいるなら、ペンス村が反乱の火種になることはあるまい」

 村人の視線にも敵意はそれほど感じなかった。

 まあ歓迎もされてなかったが。


「しかし、ジーン団長、例の娘が本当に聖女なら……」


「ああ……担ぎだそうとする者が出てくるかもな」

 貴族に母を殺された、哀れな聖女……良い神輿だ。

 ジーンは顔をしかめる。


「確か、名はハルートといいましたか……」


「うむ……一応、教会にも問い合わせてみるが、領内の聖者にそのような娘はいなかったはずだ」


 教会塔には多くの聖者がいるが、各地の教会などで活動している者も少なくはない。

 マルティナのように、調査や情報収集を役目とする者もいる。


 神託をいち早く知ることの政治的なメリット故か、貴族達は聖者の囲い込みに非常に熱心である。


 当然、ジーンも領内の聖者のことは把握している。


「よその領地から紛れ込んだのでしょうか? 一人旅をするには、幼すぎると思いますが」


「彼女については、村長も村人達も、あまり語ろうとしなかったからな」

 迫害されていた訳ではないようだが、皆、彼女の話題を避けていたように思う。

 ジーンは、彼女の話をする時のフランクの不自然さを思い出す。


「そういえば……パオロが変な爺様に絡まれたと言ってましたな。ハルート様は守り神だとか、お前達には天罰が下るとか、意味不明な事を叫んでいたと」

 ダスティンが馬の手綱を放し、祈るようなポーズを取る。


「ハハッ! それは怖いな。しかしだ……聖女をそういう風に捉える人間もいる。やはりきちんと調べるべきかもしれんな」


 ジーンは、顔も知らない聖女に、微かな不安を感じていた。


「忙しいですな……色々と」

 ダスティンが苦笑する。


「明日は商会の連中との打ち合わせ、明後日にはシリングタウンに出発か……確かにな」


「まあ、聖女の件はさほど気にする事でもあるまい……正直、生きているかも分からんのだからな」


 ジーン達の目に見慣れた景色が見えてきた。


 じきに屋敷に立てられた、レナードの旗が見えるだろう。


 夕暮れの赤の中、ジーンは少女の事を思う。


 死んでいた方が面倒はない。


 けれど、生きていて欲しい……。


 そして、祈る。


 女神よ……憐れな少女を救い給え……と。




 その頃、その憐れな少女は飲んだくれていた。


 今日は、カサンドラの歓迎会である。


「フハハハハ! 我がクローナ村へようこそ、不運なエルフよ!」

 憐れな少女はすっかり酔っ払っていた。


「私がこの村の支配者、つまり村長のハルートちゃんである。年はたぶんよっつだ!」

 衝撃の年齢発表である。


 ハルートちゃん四才でした……たぶん。


「さあ! お前も自己紹介するのだ! エルフよ!!」


 挙動不審のロリータコンプレックス・レズビアンエルフがお立ち台に立つ。


「カ……カサンドラです」

 カサンドラは緊張で震えている。


「おっと! カサンドラ選手! 足が……足が生まれたての小鹿のようだぞ! 緊張してるのかぁ! ブルブルだーブルブルブルブルアイアイ……ブルベリアイ!」


 幼女の悪ノリに獣人たちも乗っかる。


「変な耳!」

 猫耳の少女が叫ぶ。


「変な耳!」

 犬耳の男が叫ぶ。


「変な耳!」

 ウサ耳のおっさんも叫ぶ。


「スタートレック!」

 誰かが叫ぶ。


 カサンドラは怒りと屈辱に震えていた。


 どう考えてもお前らの耳の方が変だろう。 

 この畜生どもめ……!


「何歳ですか!」

 ウサ耳男が手を上げる。


「ねえ年は? ねえ年は? いくつ? ねえ」

 ウサ耳は色々しつこいようだ。

 ねちっこく質問してくる。


「ごじゅ……う……くらい」

 カサンドラがボソボソと呟く。


 エルフは長命である。

 人間では熟女でもエルフの五十才は思春期真っ只中だ。


「ババア! ババア! ババア! 熟女! 熟女! 熟女!」

 獣人たちが煽る!


「やめろ! やめるんだ! フランクがくる! フランクがくる!」

 憐れな少女が叫ぶ。


「フランクがくる! フランクがくる! フランクがくる!」

 獣人達も一緒に叫ぶ。

 彼らは当然、フランクの事は知らない。


「この……! 誰が……ババアだ!」

 それにフランクって誰だよ!

 カサンドラはキレた。


 風が吹き荒れ……ウサ耳を吹き飛ばす。


「みんな! 逃げろ! カサンドラの中のウイ○ル獄長が目覚めたぞ!」

 憐れな幼女四才(仮)はキャッキャッと喜んでいる。


 宴が異様な盛り上がりを見せる中、幼女が壇上に立つ。


「さあ皆さん……盛り上がって参りました……! 続いては第一回! カサンドラ記念! J1グランプリinクローナ!」


 突然、謎の大会が始まり、獣人達の歓声が上がる。

 彼らは騒げれば楽しいらしい。


「ルールは簡単……リングの上で戦い、相手を倒せ。10数える内に起き上がれなければソイツの負けだ。ただし投げ技、寝技、絞め技、武器の使用は禁止。つまり……立ち技最強の獣人を決めるのがこの……J1グランプリだ!」


「優勝者には、貴族も滅多に食べられないキマイラのお肉をたくさん、副賞と致しまして、わたしハルート様が匠の技で作り上げた、ガラス製カサンドラちゃん人形をあげよう」


「あっ熟女もJだから参加できます」


「ウオー! キマイラ! キマイラ! カサンドラ!」


 獣人達は狂乱している。


「レフェリー兼実況はわたくしハルートちゃん、解説は、雰囲気だけは長老っぽい、見た目は老いぼれ、頭脳は俗物、ハーマンさんでお送りします」


 そして……


 J1グランプリは、大変な熱狂を見せた。


 元々好戦的な獣人は、格闘技に向いていたようだ。


 いくつもの名勝負が生まれ、勝者にも、敗者にも惜しみない拍手が送られた。


 途中、乱入して死にかけたハーマンには、ひどい罵声が浴びせられた。


 第一回優勝者は、前評判通りの強さを見せたガラード。


 準優勝は、ウッドの兄のケンであった。


 また、初戦でガラードをギリギリまで追い詰めたサラには、敢闘賞が贈られた。


 残念ながら熟女カサンドラは参戦しなかった。


 そして、獣人達の要望により、早くも第二回大会の開催が決定する。


 そして、宴はつづく…… 


 ハルートは獣人達から離れ、夜空を眺めていた。


「この世界の星座は一つも分からんな……」

 太陽らしき物も、月のような物もあるが、どこか違う。


「異世界……か」

 幼女の姿、竜の力、かつての自分を思い出す。

 見た目は随分変わったが……


「ククク……」

 幼女は笑う。


「あとはたいして変わらんな……」

 許せないものを許さず、愛しいものをただ愛する。

 それだけだ。


 それだけは、たとえ神にも邪魔はさせない。


 ハルートはこの世界の神を思う。


 おそらく争うことになるだろう。


 あれと私はわかり合えない。


ひざまずかせてやる……」


 幼女は獰猛な闘志を燃やす。


 殺し屋みたいな殺気を放つ幼女を呼ぶ声がする。


「ハルート……どうしました、怖い顔して」


 そこには美しい……少女がいた。


 五十路の……。


「ここは、良いところですね……みんな楽しそうで」

 カサンドラが駆け寄ってくる。

 随分と飲んだのだろう、顔は赤く、足もとはフラフラだ。


「ここでは、笑って過ごして欲しいと思っている」

 せめて、戦場以外では……


「私も……ここにいていいですか?」

 カサンドラは、幼女の小さい体を後ろから抱きしめる。


「ここは戦士の国だ……お前が私のために戦うなら、私がお前の居場所になろう」

 幼女はカサンドラの手を握り、ふと思う……自分はどう見ても幼女のはずだ……と


 しかし、この感じはラブっぽい。

 いや、100%ラブだろう。


 だとすると、このエルフ……大した変人だ。


「分かりました……この身とこの力、あなたに捧げます。だから……ずっと一緒にいて下さい」

 カサンドラは幼女を強く抱きしめる。


「確か、エルフの寿命は随分長いのだろう……」


「三百とか……四百とか……でも……ハルートが死んだら、私も死にますから……」

 耳元で沈んだ声がする。


 また重たい人だ……幼女は思う。


「心配いらん……私の母は千年生きた。おそらく私も同じくらい生きるだろう」


「千年……? あなたは人ではないの?」

 カサンドラが尋ねる。


「私は竜だ……」

 

 幼女の答えにエルフの少女は首をかしげる。


「竜ってなに?」


 そして、幼女は思い知る。



 この世界の竜の知名度の低さを……。




Q.スタートレックと言った人は転生者ですか?


A.もちろん悪ふざけです。


では、サンキューでした。


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