第18話 エルフ《カサンドラ》
今回は短めです。
なので、明日も更新出来れば……と思っています。
読んでくれるあなたに心から感謝を……。
「サラ! ハルート様が、ハルート様が!」
子猫系獣人のイオニアが慌てた様子で駆け寄ってくる。そのくりっとした大きな瞳には涙が浮かび、今にも零れてしまいそうだ。
「落ち着きなさいイオニア、ハルート様がどうしたの?」
サラはイオニアの頭を軽く撫でると、優しい口調で彼女に問いかける。
「ハルート様が流されて……」
イオニアがサラに縋りついたまま呟く。
よほどショックだったのだろう、その小さな体は今も小刻みに震えている。
「イオニア、よく聞きなさい。ハルート様は特別な方よ。世界に一つだけのフラワー的な、元々特別なオンリーワンなの。つまりね……流されたりはしないの、個性の錨がそれを許しはしないから……」
サラはフッとニヒルな笑みを浮かべると、ハルートちゃんに関する自らの哲学的解釈を披露する。
「え? なに言ってるの? 緊急事態なんだけど……」
「ああ、イオニアには少し難しかったかな? 要するにね、ハルート様の個性を錨に例えて、えーと、流行の荒波から――」
「要約できてねえよ!」
イオニアが叫ぶ。
「なにが”要するに”だ! 同じ言葉繰り返してんじゃねえか! それに、誰が流行りに流されたのを泣きながら報告してくるんだよ! お前、頭おかしいんじゃないのか!」
イオニアは激怒した。
「賢そうな見た目と口調しやがって! 馬鹿なら、ちゃんと馬鹿っぽい雰囲気だしてろよ! 顔に”私は馬鹿です”って書いとけ! 紛らわしい!」
「ヒィッ、口わるっ! 言葉汚い!」
普段は大人しい猫娘の豹変ぶりにサラはたじろぐ。
「なにが個性の錨だよ! ドヤ顔しやがって!」
怒りがおさまらないのか、イオニアは近くの木をひたすら蹴り続けている。
「あのイオニア……流行じゃないなら、何に……流されたの?」
サラは怒り狂う猫娘に、おそるおそる声をかける。
「川だよ! KAWA! RIVER!」
イオニアの息は荒い。
「リバァ-? リヴァ……フフッ、リブァーに流された? それって溺れたってこと? あのハルート様が? まさか……」
「とにかく来て! 溺れた訳じゃないけど……寝たまま、下流に流されていったの!」
イオニアは叫び、川の方角へと走り出す。
「寝たまま、流された?」
サラは思う。
状況はよく分からないが、多分大丈夫だろうと。
部下からの報告を受けて、シュライクは微かに笑みを浮かべた。
「これでようやく王都に戻れるな」
王都を発って一ヶ月……思った以上に時間がかかってしまった。
あの目立つ容姿だ。すぐに見つかると思っていたが、おそらくは人のいない地域ばかりを進んできたのだろう。目撃情報はまるで得られず、随分と遠回りをする羽目になった。
もしあのハンター達に出会えなかったら、今でも見つけられずにいただろう。
依頼主も相当に苛ついてるはずだ、急がねば。
「さあ、任務開始だ」シュライクは呟き、部下に合図を送る。
相手は勘の良いエルフ、気付かれずに近づくのは難しい。
ならば、正面から行くだけだ。
シュライク隊の格好は旅の商人に偽装してある。荷が少なすぎるなど不自然な点もあるが、ただ近づく分には大した問題ではない。
警戒させなければ、獲物が逃げることもない。
身を潜めるでもなく、部隊は標的に近づいていく。
「合図と同時に散開、そして包囲だ。相手は一流の魔術師、距離はとらせるな。それと……隣にいる小さいのも確実に始末しろ、逃がすなよ」
シュライクは部隊に指示をだすと、さらに標的との距離を詰めていく。
「こちらに気付いたな……チッ、服着るなよ、勿体ない」
慌てて服を着るカサンドラを見て、シュライクは舌打ちをする。小さい方は変わらず全裸だが、ロリコンではないので興味は無い。
「始めるぞ」
シュライクは呟き、表情をつくる。今の彼らは無害な旅の商団だ。スマイルを忘れてはならない。
「おーい! お嬢さん方ちょっといいかな! この辺に……あっ逃げた!」
うわ、足速い。しかもアイツ、幼女置いていったぞ。
作戦失敗だ……想定外の展開にシュライクは軽く動揺する。俯いているのは、部下の視線が気になるからだ。
「さて、どうするかな」
追うか……いや、駄目だ。敵だと認識されたら魔術がくる。魔術師相手に遠距離戦なんて、命が幾つあっても足りやしない。
「隊長、戻ってきました……」
苦悩するシュライクの耳元で、部下の一人が呟く。
「マジ……?」
ニヤリと笑うシュライクの視線の先では、カサンドラがキョロキョロしながら、全裸の幼女においでおいでをしている。
「なあ、あのエルフ、笑ってないか?」
なんだあのニヤケ面は、まるで不審者ではないか。
もしや、さっき一人で逃げたのは……
「間違いない! アイツ、幼女にイタズラしていたんだ!」
なんて奴だ、生かしてはおけん。
まあ、元々そういう任務だけど……
おのれ、変質者め……暗殺者が正義に目覚める。
「行くぞ! 変態を殺せ! 正義は我らにあり!」
シュライクが部隊に合図をだす。
隊長のおかしなテンションに若干戸惑いながらも、一斉に散開したシュライク隊は、素早くカサンドラを取り囲む。
「な、なんですか、あなた達は!」
「黙れ! 変質者め!」
シュライクはカサンドラを睨みつけ、怒号を飛ばす。
「えっ? ちがっ……私は」
状況が理解できていないのだろう。カサンドラは全裸の幼女にしがみついて、ひたすら首を横に振っている。
「いいから死ね、この世界に貴様のような変態の居場所はない」
「暗殺者か……狙いは私ではなくお前だな。心当たりはないか?」
今まで人形のように大人しくしていた幼女が、突然口を開く。
「暗殺者? まさか……ナタリア!」
「チッ」
カサンドラの口にした名前にシュライクは僅かに顔をしかめた。
「そういうことなら、遠慮はしない。来なさい人間ども……全員殺してやる」
カサンドラの気配が変わり、彼女の周囲に力の渦が巻き起こる。
魔力が高まっているのだ……
「くるぞ!」
カサンドラの魔力の高まりに応じて、シュライクは部下に合図を送る。
「風よ……」
そして、カサンドラが詠唱を始めた瞬間……シュライクは動いた。
「やれっ!」
シュライク隊はガスマスクのような仮面を被ると、黒い玉を一斉に投げ割った。周囲は煙に包まれ、視界が失われていく。
「なにごれ……目が……のどが……クッ!」
煙幕に包まれたカサンドラの詠唱がとまり、集まりかけた魔力が霧散する。
カサンドラを囲んだシュライク隊は、標的に向けて一斉にナイフを投げ放つ。
「アアッ!……カハッ……!」
黒煙のなか、獲物の断末魔と地面に倒れる音をシュライクは確かに耳にした。
シュライクは笑う、変態は死に……正義は悪に勝ったのだ、と。
晴れた視界の先、シュライクは血塗れのエルフの姿を見つけた。
体には何本ものナイフが刺さり、すでに意識はないようだ。隣には全裸の幼女が静かに佇んでいる。
「魔術師を殺すには、まず喉を潰せってな。そいつには毒がたんまり塗ってある……もう助からんよ」
シュライクは気の毒そうに幼女に告げる。
「どういう関係かは知らんが、お前も同じ所へ送ってやる」
これも仕事だ、とナイフを構えた瞬間、シュライクは異変に気付いた。
部下がいない……一人も。
どういうことだ……エルフには何もさせなかったはずだ。
シュライクは、部下を探し周囲を見回す。その彼の目に奇妙な物体が映る。
遠く離れた場所に、部下のようなモノが転がっていた。
いくつも……いくつも。
なんだこれは……えも言われぬ恐怖に、シュライクの足が震える。
「ククク……」
彼の目の前では、幼女が不敵に笑っている。
そのちいさな手は眩いばかりに光輝き、そこから放たれた光は倒れたエルフを包み込んでいる。
その異様な気配にシュライクは確信する。
コイツだ、コイツがやったのだ……と。
直後、シュライクは幼女に向かってナイフを投げ放っていた。
殺らねば、殺られる。コレはそういう相手なのだ。
「北斗○拳奥義、二指真……いや、これは前にも使ったから……」
幼女が何かためらう間に、ナイフは彼女の顔面に迫る。そして……突き刺ささることなく弾かれた。
「…………」
二人の間に奇妙な沈黙が訪れる。
「か……崋山○鎧呼法!」
沈黙を破り、幼女が突然大声で技名を叫ぶ。
シュライクはビクッとした。
「か……体が……硬くなる技だ」
恥ずかしいのか、幼女の顔は真っ赤だ。
「ぷっ、自分で技の説明してやがる……ダサッ」
それが、シュライクの最期の言葉になった。
羞恥と怒りに満ちた幼女の拳で、彼は星になったのだ。
暖かい光に包まれて、カサンドラは目を覚ます。隣には、あの可愛い幼女が座っている。
「貴女が助けてくれたんですね……」
薄らとだが、彼女の戦う姿をおぼえている。
「何処か、行く当てはあるのか?」
幼女の手がカサンドラの頬を撫でる。
「私は……」
もう故郷には帰れない。人間に汚された私を皆は受け入れてくれないだろう。
「私のところに来るか?」
幼女の声は、優しく温かい。
「迷惑に……なりますから」
きっとナタリアは諦めない……あの嫉妬深い女は、私が生きているだけで許せないのだ。
「別に構わんよ……国だろうと神だろうと敵に回す覚悟は出来ている」
幼女の言葉にカサンドラの胸は高鳴る。
これは……なに?
初めて感じる感情に、カサンドラは戸惑っていた。
「決まりだな。では行くぞ」
幼女が立ち上がり、手を差し伸べる。
躊躇いながらも、カサンドラはその小さい手を握った。
そして、エルフの少女は確信する。
これは……この感情は、間違いない。
これは……恋だ。
その日、救いようのない変態が生まれた。
ロリータコンプレックス・レズビアンエルフの誕生である。
二人はハルートの住む村へと歩き出す。どうやら、寝ている間に随分と流されたようだ。
「私の名前はハルート、君の名は?」
「カサンドラ……です」
幼女の問いに、ロリータコンプレックス・レズビアンエルフは答える。
「カサンドラ……鬼の哭く街か、哀しい名前だな」
幼女が呟く。
カサンドラは、そんな全裸幼女をじっと見つめていた。
もちろん……性的な目で。
崋山鋼○呼法は体が黒くなって硬くなるという、なんか卑猥な技です。
幼女は白いままなので、Verホワイトといったところでしょうか。
お気付きだと思いますが、あの幼女は技名を言ってるだけです。
あまり気にしないで下さい。
お願いします。