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なんで勇者がこんなところに?!  作者: 糸以聿伽
第一章 魔女の日常
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勇者の初めの一歩

 私は工房の簡易な給湯場で、かちゃかちゃと蓋をならす小さなケトルを前に、ビギナーパーティーがお茶を飲みながら談笑するカウンターをそれとなく伺う。


 紹介状にかけた不正防止の魔法陣はもう少しで許可待ちになる。


 おどろおどろしい店内は、クエスト終了と共に普通に明るくして、くつろげるように優しい光で満たしている。

 彼ら(ヴァル以外)は素行も良いので無駄な緊張はもう必要ない。


 とりあえず、私もフードは浅くして裸眼で彼等に目をやる。

いちいちヴァル・ガーレンと目を合わせるのは心臓に悪いからね。


「ナーシャのヒールがちゃんと効いてよかったぜぇ」

 ヒュゥと口笛を鳴らして、額を手の甲で拭い汗をふくふりをするリーダー剣士。ひひひっと笑ってアコライトをからかう。


 ナーシャと呼ばれたアコライトはぷいっと剣士とは反対を向いて、隣に座る金髪碧眼の少年の頭を優しく撫でながら、

「ルアーブ君、ビンスの足元のルナビットに気がついて偉かったね♪ あんなとこでボーッとしてるから、よわよわのもんふたーに噛まれるのよねー」

 とリーダー剣士にイヤミで応酬している。


「ビンスは緊張してたんですよ、ナーシャ」

 と魔術師君がお茶を一口飲んではふーふーと冷まし、また一口飲んでは冷まししている。

 猫舌か?


「うっせーギリク! お前だって魔法陣、途中で一回消えてたろがぁ。描き直してる間に俺囲まれたんだよ!」

 と、魔術師ギリクに噛みつきながら「でも」とビンスは続ける

「ルアーブ、あん時は助かったよ」

 席を立って金髪をくしゃくしゃと撫でてお兄ちゃん的な優しい微笑みで誉めている。


「ギリクのファイアーボルトでの止めも、ナーシャのヒールもまじ助かった」

 満足っという笑みでパーティーを見回すリーダービンス。

 突然、誉められたギリクは照れてナーシャはにっこりした。


 ちゃんとリーダーしてるんだね。

 このパーティーはビンスがまとめていて、これからの活躍に期待できそうだと微笑ましく思う。


 ──追加指導は必要なし!

 一安心だね。私は自分用のお茶の準備をするためパーティーから目を離した。


 しかしと白い湯気を注ぎ口から、ほそっほわっそと吐き出し始めたケトルを見ながら思考する。


 ヴァル・ガーレンも一緒にくつろいでますけど?!

 ちょっ…おまえぇ説明いつくんの?

 はぁ……と音なくため息をつく。


 そう考えるとヴァル・ガーレンはとてもリーダーとは言えない態度だったなーと、今日は碧い瞳がギラギラと光る銀色だった事を思い出す。


 たしか、ヴァル・ガーレンが初心者(ビギナー)として、ここ【初めの魔女(ビギノジャニター)】の扉を叩いたのは15歳だった。私は18だったかな?


 その頃はまだフードは被らないでお婆ちゃんのお古の深い蒼のローブを羽織っていた。普通の白のブラウスに水色の膝下丈のスカートをはいてエプロンをしていた。髪はサイドから編み込んで後ろでまとめる。


 どこからどーみても、普通の村娘でローブの分だけ魔術(マギ)系の人なんだなって思われる程度な格好。


「そろそろやってみるかい?」

 とおばあちゃんは言って【初めの魔女(ビギノジャニター)】として新人冒険者の対応をさせてもらえることになった。


 初めて対応すると言っても、ビギナー対応は15で弟子入りしてたから三年間、しっかり側について見ていたので流れはわかっている。


 相手は初心者。余裕だ、修行より楽でいいや。

 なんて考えが吹き飛んだのは、


 ──バーーーーーン!!!

 突然響く破壊音……


 文字通りうちの店の扉が吹き飛んできたのを、お婆ちゃんの魔法がふっとそれを受け止めた時だった。


 初心者のヴァル・ガーレンがうちの扉を蹴破ったのだ。

 そして、彼は開口一番

「なんだよ? ババァと小娘じゃねーか!」

 とのたまった。


 彼が持ってきたクエストは、

☆【緑陽草】×10と【狂狐(マッドフォックス)】×1


 【狂狐(マッドフォックス)】は、その名の通り、狐のような外見ではあるものの、牙に毒があって噛まれると嘔吐と下痢になるという魔物だ。アコライトがいれば、浄化(キュア)で即解毒できる、そんなに怖くない魔物である。


 元勇者と知らなかったとしても、本当に小娘だったとしても、依頼主である人物に対するには最低の態度の当時のヴァル・ガーレンは、さらに最悪を重ねていった。


「このクエスト、パーティーじゃないと受けらんないんだろ? アコライト必須だし、これクリアしないと次のクエスト受けらんないって言われたんだよ」

 横柄な15歳のビギナーは、一人でも出来たしこんなクソ簡単なクエスト受けなきゃいけねーなんて面倒だといい放った。


 さらに、後ろで所在なくおろおろしてるパーティーメンバーを顎で指して、

「こいつらが薬草をとるから俺は狐ね。狐取ってきたら俺、次いくから、あいつらに紹介状わたしといて」

 と紹介状をカウンターへ放り投げた。


 初めての依頼(ビギノクエスト)はもちろんだけど、ギルドは基本パーティーにしかクエストを依頼しない原則だ。

 相当の力をもっていて信用できる人にしかソロのクエストは依頼しない。


 ギルドがパーティーを組ませるのは、将来大きなクエストを受けるときに協力や連携が必要になるから、それを最初から身に付けさせる為だと、何度もお婆ちゃんが言っているのを聞いていた。


 もちろん、仲間はそれ以上に大切なファクターだ。

 それを説明をしようとする私にやつは言った。


「俺、強いから」

 説明をぶったぎって鼻で笑われる。


 腕輪を渡すと「おーい、一番弱いおまえ、これ」とやはり説明を遮り、私から腕輪をとって一番弱い呼ぶ軽装の猟兵(レンジャー)と思われる男の子に投げた。


 とりあえず、他のメンバーへの説明をと話し出すと


「ちっ、狐一匹余裕だよ! なんの説明だよ?」

 とまー横暴の限りだった。そして、一人で出ていく始末。


 パーティーメンバーは、実はたまたまギルドにいて剣士を探していたのを脅されつれてこられたらしい。

 とりあえず、お婆ちゃんの判断で残されたパーティーメンバーに「ギルドには話しておくから帰ってちゃんとした人を探してまたおいで」となった。


 彼は15歳の時点で、そうとう期待される新人だったらしい。

 幼いころから才能が認められちやほやされ、剣の天才とか勇者候補とか言われて、実際彼の周りの大人は彼には勝てず。【武の国 カフスターク】へ行くために冒険者として名を上げるつもりだったらしい。


 だがしかしだ!

 冒険者になるなら、理由はどうあれ冒険者として依頼をこなさなければならない。


 それは、無謀な行動で命を落とさない為の措置でもある。

 魔王はいずれ現れるのだ。

 優秀な人材を失わない為にも最初の一歩をきちんと導かなければならないのだと、お婆ちゃんは常々言っていた。


 かくして、横暴な新人ヴァル・ガーレンに追加指導が決定した。


 素行の悪い新人は数は少ないがいるのだ。

 だから、追加指導を初めの魔女(ビギノジャニター)は行う。冒険者は依頼人あっての生業である事やパーティーを組むことの大切さをわかってもら為に。


 今回のように言葉で通じない輩には、拳と拳で分かりあう!


 そんな思い上がった新人に、話を聞いてもらう為の戦闘訓練は私もしていた。お婆ちゃんのかけた強化魔法を(まと)って戦う訓練だ。


 どんな凄い才能をもった剣士でも、まだ奴は経験のないひよっこだ。とはいえ才能は本物だという。

 油断は禁物!

 だから、丹念に計画をたて罠をはる。


 そして、なんとか準備が整ったところで奴がマッドフォックスの尻尾をもってズルズル引きずりながら帰ってくる。

 それを裏庭で待ち構えた。


 私は低姿勢に実力調査のレポートをギルドへ送るため手合わせお願いしたいと申し出る。これもクエストの一貫ですのでと推し進める。


「はぁ?聞いてねーし……まーでもババァでもお前でも、たかが初心者相手しかしねぇ魔女なんて一瞬で終わらしてやる」


 たかが初心者相手……その言葉に私の心がザワついた。

「私はまだ修行の身ですので、師匠に強化魔法をかけてもらうのですがよろしいでしょうか?」

 勝手にしろと言ってだるそうに地面にあぐらをかく。


 お婆ちゃんが練磨杖(スタッフ)を構えると私の回りに7つの魔法陣が許可待ち状態で展開する。

 私はタクトを降ってそれを繋げていく。そしてお婆ちゃんにうなずいた。

「許可する」と優しい声が聞こえると体に力が満ちた。


 最後に魔法の盾の魔道具を改造したカチューシャをつけた。

 マナを流すと頭の上に天使の輪っか見たいに輝く魔法の盾が現れた。


 その頭の上の魔法の盾をさして私は言う。

「この盾に一撃当てて壊してくれれば終りです」

 ヴァル・ガーレンはひよいっと身軽な動作で立ち上がる

「面倒だし、さっさっと終わらせるから怪我しても恨むなよ」

「ちなみに怪我したとしてもギルドから最高級ポーションを支給されてますので安心して全力だしてください」


 まー材料提供されて自作ですけどね。


 のそりと立ち上がりにやりと奴が笑う。

 私は、呼吸を整えてぎっと睨む!

 相手が油断している隙をつくために最大限に集中する。


 お婆ちゃんの「初め!」の声を耳に捉えた瞬間私は飛び出す!


 身体強化された足が大地をけると景色が後ろに飛んだ。

 目的の場所、ヴァル・ガーレンの背後!

 そして今、その黒髪の後頭部が私の目の前にある。


 私のおこした風が彼の頬をかすめ髪を揺らすのを目の端でとらえ、剣を構えもしなかったその左手を掴む。


 しかしそれは叶わなかった。


 さすが勇者候補と期待される逸材だ。

 たぶん本能と、もって生まれた身体能力が反応したんだろう。

 前方へ転がり私から逃げる。


 が私はそれを許さない!


 彼の前方へ移動して中腰で待ち構え、前転から起き上がろうとした腹めがけて膝を叩き込む。


 ──ガッ!!!!


 と、骨と骨がぶつかる音がする。

 両手で私の膝を受け止めた奴の銀色の目が燃えるようにギラギラと光る、私の顔を見ようと振り向く。

 そこに私は右の拳を叩き込むが、膝にあった手を突きだし体勢を屈める奴の髪のをかすめるだけだった。


 体勢が悪いので、バランスを崩す前に距離をとった。


 ヴァル・ガーレンは悔しそうに肩で息をしている。

 脂汗があどけなさの残る端正な顔の少年のこめかみを伝う。

驚きと屈辱で顔が赤い。

 それを映してか、瞳も赤みを帯びた鈍色(にびいろ)に見えた。


「剣をぬかないの?」


 私はトーントーンとジャンプしながら、ヴァル・ガーレンに猶予を与える。これで奴のプライドはかなりダメージを受けているはずだ。


 この時点でほんとは膝をつかせていたかったけど、さすがとしか言えない。私はあんなに厳しい修行を積んでまだここだと思い知らされる。


 でも、反省は後でする!

 そう、今しなきゃいけないのは彼の心を丁寧に折っていく事。


 私は目的の場所に、あいつと距離をとりながら移動する。

 そこには、背の高い草の中で発動待ちまでこぎ着けた魔法陣がきらめきだしたところだった。


「これ以上の強化なんてさせるかぁーーーー!!!」


 怒りに任せて剣を抜き私へ向かって俊足の跳躍で走り来る!

 しかし、強化された私の視力には彼の動きはスローモーションに見える。


 その剣は王都で売られている一般的なもの。

 手頃な価格の扱いやすい一振りだ。

 その中腹を両手の掌で包み、むんっと力を込める。


 ──ィン


 と澄んだ音をたてて剣は折れた

 奴の瞳がまた驚愕に震える。

 流れで剣先を投げ捨て彼の懐へ潜り足をかけ、胸元を掴んで地面に倒して組敷く。


「お願いします」

 素早く許可をだすと魔法陣は輝いた。


「ぐっがぁぁぁぁっ」


 ヴァル・ガーレンは私の仕掛けた麻痺陣(パラライズ)へ完全に捕捉された。


 私は立ち上がる。

 麻痺陣に捕らわれ仰向けに足掻く彼を見下ろして……


 激痛は初めだけ、今は痺れて動けないでいる。

 銀の瞳を見開いて私を睨む彼は痺れた手足をなんとか動かそうとしていた。


 解除(デスペル)の魔法陣を描いて私は口を開いた。


「剣の天才で後の勇者候補と言われているんでしょ? 才能にあぐらをかいて鍛練を怠り、慢心故に相手を見ず、事前に知り得た情報を無視して、頼れる仲間も一人もいない……そんなあなたは、たかが初心者相手の魔女──しかも、その弟子の小娘にさえ勝てなかった」


 私は彼の心をゆっくりと折る。

 放心する彼に私は追い討ちをかけた。


「上には上がいる。その上を知って、そこに立ってからなお、『俺は強い』って言えたら言いにきて……」


 そして、やっと許可待ちになったデスペルで麻痺をといた。


 でも、私も実はギリギリで極度の緊張や初の対人戦闘で精神がボロボロだった。


 それに気がついていたお婆ちゃんが後を引き取ってくれる。

 私はなんとかうちに入ってベッドに潜りこんで眠った。


 それから彼がどうなったのか知らない。

 ただ次に彼の名前を聞いたのは、史上最年少でカフスタークへ旅だった冒険者が出たと王都中で話題になった時だった。


 彼はカフスタークでもどんどんと名を上げて、世界を股にかけ依頼をこなす最強剣士になっていった。


 そして、彼は勇者になったのだ……


 な・の・に・だ! 彼はなんでかここにいる?!


 それも、ちんまい可愛いお子さまになって私の入れた茶をのんでいるのだ。


 意味がわからないのですよ。

 そりゃ、もう今やだれも文句のいいようのない最強ですから『俺は強いから』って言っていいです! はい!


 私は私用の紅茶の入ったカップを持ってカウンターに戻る。

 許可待ちになった魔法陣に許可を出して、紹介状を完成させる。


 わちゃわちゃと楽しそうに話すビギナーパーティーと茶をすするルアーブ。

 突然、ビンスが立ち上がる。


「あ! 大事な事だからちゃんと皆に言っておく!」

 胸をこれでもかと張り宣言した。

「俺はビンスではない! ヴィンスだ!」

 は? 書類ではビンスだよ? どーした?


「ビじゃなくて、ヴァル・ガーレン様と同じのヴ! だからな! 間違うなよ」

 おっと!? 突然、名前を出された本人扮するルアーブ君がお茶でむせる。

 私も、口をつけた紅茶がカップからこぼれそうになる。


 パーティーメンバーはハイハイっという感じで流しているが、調子にのった()ンスはルアーブに

「ルアーブもヴァル・ガーレン様にならってルアーヴにしよーぜ!」

と言った。


 まてまて、そーしたらほんとまんまだから、ひっくり返したら、まんまヴァルになっちゃうぞ!

 私は紅茶を素知らぬ顔で飲みながら、ルアーブの反応を伺うと、澄んだ碧眼が私をガン見してくる。


 は? 何? なんでこちらをガン見してんの?

 まさか、正体見破ってるってわかってるとか?

 まてまて、だったらなんのアイコンタクトなんですか?

 解らないよーだれか読心術スキルプリーズ!

 等と混乱していると、ビンスは私にさらに追い討ちをかけた。


「そういえば! アグリモニーさん! ここでヴァル・ガーレン様も俺たちのうけた依頼を受けたんですか?」


 そこくる?!

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