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なんで勇者がこんなところに?!  作者: 糸以聿伽
第一章 魔女の日常
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仕事に戻ろう

 なんなん? なんでおいでましたか?!!


 私の頭は大混乱中。フード越しとはいえ、ここにいるはずがない──いたらおかしい人物を睨みつける。

 しかし、態度には一切出さぬよう腕を組んで新人達を見守る姿勢風をとる。


 すまぬ、ビギナーズ……書類が見つかったらちゃんと対応するからのぉ。わしは今、この、このなんでいるんだマンのせいで──世界を救う旅に出た勇者様がここにいるせいで、とっちらかっちまってのぉ、ゴホゴホっ

 つか! 魔王はどーした? 今頃はタゴレの国境の港町で船とかに乗る準備とかしてんじゃないのかい??!


 あれか? なんか今回のミッションにこの超どビギナーパーティーがなんかかかわってるの??

 私はなんとか自分を納得させようと思考を回す。

 回してみたものの、結局、『なわけあるかーい!』と脳内でハリセンをボーッと立ってるヴァル・ガーレンへ向ける。

 が! しかしだ! 脳内ヴァル・ガーレンはひょいっとツッコミハリセンを避ける!

 くそ! 私の脳内なのにその身体能力のチートへの羨望がツッコミを許してくれないぃ! ちくしょー!!


 次々と溢れ出す疑問は、ブラウザークラッシャーで新規のウィンドウが大量に開かれていくように次々と思考を埋め尽くす。


 まてよ? となると、ここか?

 前勇者パーティーの魔術師(マギマスター)だったお婆ちゃんの持ってた魔道具なら確かに必要だとは思う。

 それか?!!! それが答えか!!


 やっと出た答えだったが、すぐにかき消される。

 だったら、わざわざ新人パーティーに紛れて認識阻害・変化・気配オフなフルコンボでひっそりやってくる意味がわからない。

 別にお婆ちゃんの遺品でも普通にいえばギルドを通して渡すことは全然可能だ。


 答えを探してさ迷う私の思考は、さながらオートマッピング機能の存在しなかった時代のRPGゲームの地下迷宮。

 ──ドムっ! とすぐに壁にぶち当たる……。

 右! ドムっ! 左! ドム! ドムドムドム!!


 なんーーーなん!?

 もーなんなーんわからーんわー!!!?

 ぎぎごーと脳ミソから異音がっ!!


 ヴァル・ガーレン、お前はなんで、ナンデイルンダ……

 ごーぎぎーごー……ああ、脳から煙がぁ……


 既に壊れかけた思考回路がついに止まった。

 正確には無駄としか思えない推測に疲れて思考を放棄する。

 こんなとこにいる理由を話せよー!

 なんか理由があるんだろーけど、つか!気がつかなきゃよかったー!! ちくしょーー!


 誰も答えることのない叫びは、私の脳にだけ派手な音を響かせて表れるエラー表示にようだ。

 そして、未だ紹介状を探し続けるビギナーズへの対応も放棄するほど私の脳みそのネジが飛ぶ。


 憎い!私の優秀過ぎる魔道具が憎い!!!

 そして、すごい!

 多分、パーティーメンバー協力の元のこのフルコンボ変身セットだろう。それを見破ってやったじょーおー!

 勇者パーティーの精霊使い(ルート)の認識阻害と魔術師(テオール)の変化の魔法と剣士(ヴァル)の気配0の技を見破ってやったわい!

 ざーまーざーまーふははは!

 ナチュラルボーンチートはナチュラルボーノチーズふははは!


 混乱した私の思考は空前のともしぴーーーーーーーーー思考が停止しました……


 視線はずーっと私を見つめるヴァル・ガーレンに固定され、少し長めの黒髪、その整った顔や厚めの唇、なによりも綺麗な銀の瞳を映し続ける。


 ……ふぅぃー。

 いやーヴァル・ガーレンは顔だけじゃなく、良い身体してんな。

 

 まぁ、ここにこうしてこんな眼福素材があるなら、もう観察しますよね。

 パレードの時は鎧きてたから、まー鍛えてるのは分かってたけどね。装備を外して薄い黒い生地のシャツを緩くきて、細身の黒パンツを履き編み上げの黒いワークブーツっぽいのをはいている。


 黒い!! 影かぁっ! お前忍びか?!

 しかし……胸板がしっかりあるのに腰は細めだ。

 これは脱いだら、こう筋肉のせんが……スイーと……スイートまっするぅ


「あ!!ありました!」

 リーダーの大きな声で、私の筋肉への熱い思いで危ない方向へ逃避しようとしていた観察ターイムは終了した。


「うむ」

 ぐらいしか言えないですよ。

 とりあえず、ぶっきらぼう演出内だからね。セフセーフ!


 ギルドからの 紹介状には特になんの問題もなかった。

 偽装されたメッセージもない……

 あいつ(ヴァル・ガーレン)の行動はギルドの管轄下ではないっということだ。


 とりあえず、このビギナーパーティー、謎のもう一人もパーティーメンバーなのかい?と紹介状を隅から隅まで目でなぞる。

 そこには、パーティーは三人とあり、彼らの夜営の依頼も書かれていたのだ。


 私はすこし大袈裟に声をシワがらせて聞く。

「三人だと?」

 その問に、はっ!! と気がついたリーダーがヴァル・ガーレン扮する謎メン(ナゾのメンバー)を探して後ろを振り返り、すぐ後ろにいて「のわっ! 近っ!!」と言って驚いた。


 だよね、完璧に気配を消しすぎだよヴァル・ガーレンよぉ。驚くわそりゃ……


 私はリーダーくんに同情しながら説明を促す。

 リーダーくんは説明をはじめる。


 王都から徒歩でここに向かって街道から脇道にそれたところで彼に会ったという。


「まだ小さいけど理由を聞いたら、何て言うか俺たちで手伝ってあげられなかなって……」


 小さい?……ダと?!


 私はあわててフードをすこしあげて裸眼で彼をみた。

 そこにはくるくるカールした金髪に碧眼のかわいらしい男の子が、そのままのリーダーとありのままのアコちゃんのうしろからこちらを覗いていた。


 うるうると揺れる碧眼。

 ぐふーメロ可愛いショタっ子ぉ!


 あわててフードを被る。

 どーなってんだ!


 私はフード越しに再度彼を見る。

 がたいのいい黒髪銀目のにいちゃんが、しかしうるうると私をみつめる。


 あーうん、これはこれで、なんつーか大型犬がクーンしてるときの可愛さがなきにしもあらず……

 いやー、まったくすげーな、ここまでの変化の魔法をかけられるなんて、さすが勇者パーティーだよね!


 認識阻害は子供としての違和感がなくなるようにかけてるのかな? ヴァル・ガーレンが多少おかしな動きをしても、子供だと疑われないように。


 つーか、勇者パーティーの多大な協力あってのこの状態だ。

 なにか、特別な依頼でも隠しもってるのか? と考えてしまうのは仕方ないと思う。

 勇者がこんなところにいるのはおかしいから、変装してきたのをたまたま初心者パーティーに拾われちゃったというところか?

いやいや、子供である必要ないだろ?

 ほんとわからない事ばかりでやはり答は出ない。


「彼の紹介状は?」

 とりあえず、水を向けてみるがヴァル・ガーレンは首をふる。


 という事はやっぱりこのどうみたってなんの変鉄もないパーティーになにかあるのだろうか?

 えー?……謎だ……謎しかない。


 私が(ハテナ)をフードにかくして量産してるなか、リーダーが勢いをつけて、「僕たちが守ります!!」と勢い込んで、彼の境遇を語り出す。


 彼の名前はルアーブ君というらしい。

 ヴァルを逆さ読みだよね? 分かります!


「ルアーブは親父さんに冒険者になることは反対されてるんだ。でも、頭っから無理だと言われると反発する気持ちはオレもわかる……んです!」


勢いで家を飛だしてきたルアーブ少年は、魔女の家で依頼を受けたら親父さんに認めてもらえると思ったと言う。


 いやいや、それなんてテンプレ? 分かりやすい設定だなおい!

 そんなんが序盤ででてきたら即効GM(ゲームマスター)に神託をお願いするね! この子は私たちに害を及ぼしませんか? ってね!


 もういいや、何かあるにしても完璧に変装してるし、私が気づいてるとは思ってないだろう。

 やっぱり、最終的には放棄するしかない。


 私はいろいろ諦めて、お仕事(チュートリアル)に戻ることにした。


 報酬は最初に決めているものしかわたせない事。

 夜の森は超初心者級といえども危険はある事。(まー、あのヴァル・ガーレンがいるなら超安心だけど)

 草の見分け方や乱獲しないこと。多くとっても一回の依頼でもらえる報酬額はかわらないからね。

 月色毛兎(ルナビット)の繁殖期後なので3匹までなら捕らえてくれたら報酬をだすよとサブクエストも伝える。

 ルナビットなら戦闘練習場的な意味でも狩るのもチュートリアルの範囲だ。


 最後に、

「これは防御が少しだけ上がる魔道具だ」

 そう言って石が2つ付いた腕輪を渡す。


「ルナビットは今は繁殖期で餌に飢えている。追い詰められた鼠は猫をも噛むという話があるんだよ。弱いと侮った敵にしてやられるなんて事はここではよく見るんでね。最弱の魔物で死なれでもしたら、いい迷惑なんだよ」

 吐き捨てる様にいいながら、お守りだよと言って腕輪をリーダーに渡す。


「あんたが着けて皆を守るもよし、アコライトのお嬢ちゃんにつけて回復役を確保するもよし、魔術師のあんた、あんたの詠唱を安全に行う為に着けるもよし。使い方はあんた達しだいさね」


 リーダーは宝物の様に腕輪を受け取った。

 装備品好きなんだねリーダー……アクセサリー欲しかったけど買えなかったんだよ的な瞳がキラキラしてる。


 実はこれは何かあった時に緊急出動する為の魔道具である。

 実際に防御が少しだけ上がる付与は腕輪自体に仕込んである。


 で、石のひとつは【遠見の水晶】の対の石である。この石を身につけている者を私の結界内で監視可能だ。

 つまり、チュートリアルの採取エリアやうちの周りにいるこの石を着けた人物をカウンターに置いてある水晶で監視できるというものだ。


 そして、もうひとつの石は【座標石(レコードストーン)】と言って、転移先の目印になる石だ。転移は一度行った場所を正確に思い浮かべることで転移する方法と、【座標石(レコードストーン)】を目標にして転移する方法がある。


 工房の床には既に腕輪の【座標石(レコードストーン)】へ飛べる待機状態の魔法陣が用意してある。

 不測の自体が起こった時はこれまたカウンター裏に仕込んである魔道具を装備して私が駆けつけるのだよ!


 ──あの時のお婆ちゃんのようにね。


 魔法陣は待機待ちの時にも実はマナを消費するけど、まーそれはほら自慢の蓄積野ですから余裕ですよ。


 ほんと、弱いもんふたーしかいないって思っても、私の時みたいなイレギュラーは起こる可能性はある。

 ほんと、チュートリアルで死人だせないしね(笑)


 新人には安全面で何重もの対策をお婆ちゃんはかけていた。

私はそれを誇りに思う。そして、受け継いだからにはちゃんとしなくちゃね!


 そんな安全装置をリーダー少年は、一番必用なのは弱いルアーブだからってヴァルに腕輪をつけちゃった……まてまて、その子に噛みついたルナビットの歯が欠けるに三ルナビットだ!!!


 うーん、まー……一番の安全装置(勇者)が側に居りゃ大丈夫かぁ。


 いってらっしゃーい!


 なんかもう、どーとでもなれと思いながら、いつものように彼らを送り出した。


  *  *  *


 おけーり……


 あっさり帰還されたよ、ビギナーパーティー+α。

 はいはい、ミッションコンプリート。


 もともと真面目な初心者パーティーきっちりと依頼をこなし、ルアーブ君も私からみたら不自然なほど邪魔にならず(笑)

 時々、リーダーはルアーブの存在を忘れるほどだった。

 だから気配を消しすぎで怖いよ。


 水晶玉覗くのがバカらしくなるほどのど安定ぶり。


 途中からポーション調合しながら、ながら監視しちゃったよ。

 ルナビットもリーダーくんが数ヶ所噛まれたぐらいでアコちゃんのヒールで難なく回復。

 魔法使いくんのファイアボルトできっちり3匹目を仕留めて帰ってきました。


 なんなんだ? 特になにもなく、終わったぞ?

 うーん……


 とりあえず、紹介状に必用なサインをして、規則だから報酬額の書面にごまかせないよう魔法をかける。


 その間、彼らにはお茶を出す。


 さぁ! 何かあるんならここからだよね??

 とりあえず、転移魔法陣は解除する。


 どんとこいだ! 謎解きお願いしますよ勇者様!

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