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なんで勇者がこんなところに?!  作者: 糸以聿伽
第一章 魔女の日常
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ビギノクエスト

 本日の初めてのお使い(ビギノクエスト)は?

 てーってててーん♪

☆【星屑草】×10と【月色毛兎(ルナビット)】×3


 星屑草は少量のマナ回復力のある薬草。この草を夜に採取してもらうクエストだ。

 見た目はペンペン草だが、月明かりを受けてほんのりと光る。その光ってる草がマナ回復に効果があるのだ。成長段階の光らないのはただのペンペン草に似た草で薬効はない。


 勇者パレードが昨日。冒険者ギルドが通常営業になったのは今日の昼頃だった。


 夜のクエストは昼のクエスト(体力回復効果のある薬草【緑陽草】採り)よりほんの少しだけ報酬が良くお得だ。夜は魔物が活発に動き出し、危険度は昼よりも高いからという理由で報酬が上がるのだか、他にも我が【初めの魔女(ビギノジャニター)】社には、お得なプランがござおますのよ?


 宿に泊まるお金のない初心者は、クエスト終わりでうちの庭で夜営する事もできますわよ。

 焚き火も可能で煮炊きできます(食材はお持ち込み下さいませ。魔女がお作りするプランもございますが報酬は無しになります)

 お手洗いは無料でお使い頂けます。

 女性限定でお風呂も貸し出しいたしますのよ。


 しかも、【初めの魔女(ビギノジャニター)】特性の結界内になりますので魔物の心配なくお泊まり頂けますが、見張りを立てない夜営なんてございませんよね?

 もし、見張りが寝ていた場合は、魔女からの手厚い目覚ましサービス──手酌で額をカコーン攻撃をお見舞いしております。悪しからず♪


 ねー、いたれり尽くせりの安心クエストでしょ。

 さすがチュートリアルです。ここで死んでもらっても困るので念には念をいれてます。


 しかし、パレードの昨日の今日で早速クエストを受けるなんてねぇ。きっとお祭り騒ぎの影響で宿が取れなかった新人に、ギルドが勧めたのだろう。


 まー安全面では宿とさほど変わらないよね。

 風邪ひいたらポーションで治してあげるよ? 有料だけどね、ひひひ。


 【月色毛兎(ルナビット)】は月色とはいうものの、ふわふわの白い毛の魔物だ。そう、魔物なのだが兎とあまり変わらないぐらい弱い。

 夜行性で星屑草が好物なのでよく薬草採取エリアに入ってくる。そして魔物の性で人間がいると足に噛みついて血液の中のマナをウマウマする、もふもふのよわよわもんふたーだ。


 余談だけど、最弱争いをしているペソというゼリーみたいな固さのスライム的なもんふたーがいるが、うちの近くにはペソはいない。


 しかし、どんなよわよわもんふたーでも数が増えると面倒だ。

 いつもは星屑草のある場所でまふもふしてるが、増えると人里までやってくるのは、どこの世界でも一緒だよね。

 そして、農作物や人にも被害が出る。


 つうわけで、繁殖期を迎えたルナビットも狩って頂く。


 そろそろ日も暮れはじめて、夕空に薄い月がかかる。

 こちらの月は右上に穴が空いてる。五円玉の穴が右上に寄った感じかな?

 なんでも、何代か前の魔王と勇者の戦いで空いたらしい。

 すさまじいな、オイ……


 私は漆黒のローブをまといそのフードを目深にかぶる。

 クラシカルな黒の長袖のブラウスに飾り気のない踝まである長い黒スカートに黒い靴。


 工房の黒い鍋にはいつものように初級ポーションを作成中だが、無駄に煙が出ている。狼煙(のろし)の魔道具を調整してドライアイスのように吹き出るようにしてみた。魔法の煙は成分も影響ないですし!(どやぁ)


 工房内は明かりを落とし、所々に紫とか橙色に輝く灯りの魔法を仕込む。怪しげでしょう?

 さらに、カウンターにはドクロとかトカゲとホルマリン付け的なもの(実は夜が元気になるお薬の材料♪)あとは人の頭ぐらいはある水晶玉を飾っている。

 窓にはボロ布をカーテンにして昼でも薄暗くして、今は夕方なので店側の室内の明かりは蝋燭っぽい橙の光を浮かべる。


 そうやっておどろおどろしい雰囲気を演出していく。


 ここまでやれば通りすがり的な私をよく知らない奴等にちょっかいをかけられることもない。


 いかにもな内装、いかにもな服装。


 この真実をみせてくれるフードもとても便利だ。

 事前に変装してるのが分かれば、発動の遅い魔法陣の準備も出来るし、ローブの中に魔道具を仕込む事も可能だからね。


 ときどき、貴族のお坊っちゃんの戯れ冒険に変装した従者がついてきてたり、要注意人物にギルドの上級シーフが監視でついていたりするので訳あり新人を判定できたりもする。


 ──さぁ、準備万端!


 お婆ちゃん秘蔵のお菓子レシピを真っ黒なおどろおどろしい革のブックカバーで覆ったものを読んでいると……


 遠慮がちにうちの扉をノックする音が聞こえた。

 数人の気配がする。

 さぁお仕事の始まりだよ、ひっひっひぃ。


「開いてるよ」

 とわざとぶっきらぼうに声をかけると、そろりと扉が開いて怖々と中を除く新人登場。


 薄暗い室内は不気味だろう? そのびびった顔がなんとも初々しいじゃないかぁ。


 パーティーのリーダーらしき少年剣士が私の姿をみる。そして硬いがハキハキとした大声で「おじゃまします!!!」と声をかけてくる。

 うむうむ、礼儀はちゃんとしているね。


 私はわざとおどろおどろしくしながら手順通りに進める事にする。

「ぼーとしてないで、全員入って扉を閉めるんだよ。そんな所に突っ立てられたら迷惑だ。そしてさっさとギルドからの紹介状を出しな」


 ギルドからの正式な依頼であるときは、紹介状をみせるのが最初の手順である。


 リーダー少年剣士があわててバタバタと店の中に入ると、びくびくと後ろからパーティーメンバーも入ってきた。


 リーダーはカウンターまでやって来て、紹介状を探し始める。ガキ大将の面影がのこる少年はあたふたと背負っている道具袋をおろし、床に置き袋の中をかき回している。


 彼がかがんだ時に、革の胸当ての内側からちらりと見知った冒険者ギルドの封筒が見えたが──本人が気がつくまで放置するとこにする。


 その間に目線が見えないのをいいことに、新人観察ターイム♪


 新品の革の胸当てや籠手は買ったばかりのピカピカおnew! 腰にさしてる剣の柄も鞘も傷ひとつない。

 THE! ビギナーオブビギナー!!


 懐かしいなぁ……なんとか用意した最初のお金で装備を揃え過ぎて、宿代が無くなって、敵の強くなった夜のフィールドをびくびく歩きながら朝を待ったことがあったなー。

 まー前世のゲーム内の話だけどね!(笑)


 まだ、入り口入ってすぐの扉の前でもじもじしてる他の面子も真実アイで観察ターイーム♪


 いやいや、変態ぽいけど大切なのよ観察ターイム。

 ここで変装してる奴とかいたらさ、魔法陣とか魔道具とかね?

 いやはや、初々しいのみてると心が和むね……あ、本音でちゃった(笑)


 新品の杖と帽子を装備したビギナー魔術師(マギマスター)の少年、ローブだけはお古なのかくたびれている。サイズが違うのであつらえたものではなく譲り受けたか安く買ったものだろう。それがなんともアンバランスで初々しい。


 キョロキョロと店内を見回しているが、杖を両手でしっかりすぎるほど握りしめている様は緊張感がにじみ出てて可愛い。


 さらに魔術師の横にぺったりくっついてプルプル震えながらすでに涙目の聖職者見習い(アコライト)だ。

 白いローブには可愛い刺繍が施され、それが手作りであることがわかる。リーダーを不安そうに見つめて、左手で魔術師のローブを握りしめている。


 なるほど~これは三人は幼なじみ的な関係かな?

 などと当たりをつけて、初々しいパーティー編成にニヤリとしたところで視界に何かが映りこむ。


 え? 三人編成だよね??


 なかなか見つからない紹介状に業を煮やし、魔術師が意を決してアコライトとリーダーの所にやって来た。

 相変わらずアイテム袋の中という見当違いを探ってあたふたとしているリーダーの後ろに、三人が立つ。


 は? なんで魔術師とアコライトの後ろにもう一人いるの?!


 そこには、防具さえ着けずつったている青年がいる。鍛えられた厚い胸板がアコライトの頭越しにみえ、私は冷や汗をかく。


だって、こんなひよっこばかりのひょろひょろパーティーにあまりにも似つかわしくない鍛え抜かれた体型。黒いラフな服をきていてもそれはわかる。

 いやそれどころじゃなく、私が冷や汗をかいているのは、


 ……まったく気配がないことだ。


 お付きの人や監視役にしたって、こんなに綺麗に気配がけせる人はいない。それが目の前で起こっている。


 強力な認識阻害の魔法がかかっているようだ。さらに変化の魔法、あと本人の完璧な気配を消すスキル。


 つーか気がつけなかった自分の不覚!! くそー!!


 視界に入ってる筈なのに動くまで気がつけなかった。

 ぎりっと奥歯を噛み締めて、場合によっては魔道具と魔法陣の準備だ。とりあえずすぐ何かしそうでもないので、そいつの顔をじっくりとみてやる! と集中力を高める。


 認識阻害はよく見ればちゃんと認識できるのだ。

 誰だぁ? お・ま・え・はぁ!!!


 そこには、銀色の瞳があった。

 その瞳は光によっては色をかえる──そんな至近距離で一度覗いたことがあるその瞳がそこにあった。


 私をじっと見つめて、ローブ越しだというのに目が合ってしまったような気がして、心臓がトクリと小さく跳ねた。


 ……

 …………ってか?! はぁ?!

 な、なんでなんでなんで?!なんなんなーーーーぁぁぁぁ!


 そこにいる人物を認識したとたんに私の脳みそは混乱した。

 新人たちはあーだこだーと自分達の荷物を探してる。

 普通だったらそろそろ指摘してあげるのだか、ちょっとごめん、今それどころじゃないのじゃー!


 だって、だって!

 そこにいたのは、まさに昨日。世界の平和を背負って旅立った勇者が一人


 ──ヴァル・ガーレンがうっすらと青い光を全身にまとって立っていたからだ。


 思わず叫びそうになりながら、必死で声を抑える。

 飛び出しそうな心臓や荒くなりそうな息を気力で抑えた。


 それでも、心のなかでこう叫ばずにはいられなかった!


 おぉぉぉぉぉぉいぃぃぃぃぃぃぃ!!


 なんで勇者(あんた)こんな(チュートリアル)ところにいるだよーーーーーーー?!!!!!


 心の叫びは月にもうひとつ穴を空ける勢いだった。

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