やり過ぎ注意
突然名前を叫ばれて、え? と驚くイケメンに私は言葉を投げつける。
「パレードだって見たし、その前からギルドに変装して受付とかの椅子に座ってるの見たことあるし」
ぎょっ!? と大きく目を開くヴァル・ガーレン。
とどめだぁ!!
「つーか、15歳のあんたがそこの扉、蹴破って入ってきてからの追加指導までを、忘れろってのが無理でしょ?」
ヴァル・ガーレンは、『あ』とも『う』とも『お』ともとれる口を開けてふるふるしながら銀の瞳を潤ませ私をみる。
私はフードを取ってしっかりその瞳を見返し、ニッコリ営業スマイルで言う。
「どーも、当時"小娘"だったアグリモニーです☆」
──どしゃぁぁあ!
ヴァル・ガーレンが膝から崩れ落ちる。
"orz"←イマコレ
「ついでに、ギルドへは連絡済みね。あんた働きすぎだから、結界維持の譲渡が終わるまで、ここで迎えを待ちなさいってお返事来ましたよ。ヴァル・ガーレンさん」
立ち直れないでいる彼をみて、さすがにやり過ぎたかな? と思ってきたので、
「もう、お昼になるよね? ご飯食べる?」
……
"orz"←マダコレ
……返事がない。そこでそうされてると、こう邪魔っていうか……前言撤回、もう少しやってみる☆
「一応、ここ開店してるんですけど? ビギノクエストはお休みだけど、村人さんが突然振りだした雨に雨具を求めてくるかも知んないから、そこでそんな状態でいられると営業妨害なんですけど? せめて椅子に座ってくれない?」
しょぼんと落ち込んだ肩をそのままに、重たい足を引きずるように彼はカウンター前の椅子にちょこんと座った。
が、突然
──がばり!!
と素早く背を伸ばして私を見た。
「む……むら、び、と?」
「あーもしかしたら、ポポラホさんが超級の追加注文でくるかも? いやいや、ルアーブ君が『あの時はお世話になりました』って」
「しってる……って──うわぁぁぁぁああああ!!」
頭を抱えてヴァル・ガーレンは叫ぶ。
──どしゃり……
カウンターに頭をぶつける勢いで崩れる。
まーそこならいいかぁ。
今度こそ、やり過ぎてしまったようだ。
勇者ヴァル・ガーレン←A
ヘンジガナイ タダノ イケメンノ ヨウダ
まぁ、完全な八つ当たりだって事はわかってんだ。
さっき、ヴァル・ガーレンが出て行こうとした時──私は怖かった。このまま、アイツが帰ってこなかったらって思うと、背筋が凍るほど、
……怖かった。
もちろん、簡単にいってしまうような玉じゃないって解ってる。でも、大切な物預かるとか、終わったら話すとか、覚悟を決めるその瞳とか……もう、乱立する死亡フラグが……
いや、相手は勇者だ。
信じてる。
でも……と、ほんと自分の気持ちが揺れまくりで、嫌だ。
それに、可能性として、すべて終わったらやっぱり姫のがいいやってなるかもしれない。
その時、ちゃんと忘れられる大人でいないとね。
どーなるにしろ、こんなにいろんな事があったんだ。覚悟しなきゃ……なんだよね。
「このフードは特注品でね。フォーサイシア師匠と作った『真実の姿を見る』事ができる魔法が仕込まれてる魔道具なの。だから、ルアーブ君の時はびっくりしたよ」
相手が勇者だと素性を言ったらな、私もタネアカシしないとなって思った。
「本人が目の前にいるのに、扉蹴破ったとかいえないでしょ? ビンス達に」
でも、さすがに水晶を覗いて知り得たあの告白に関しては言えないから
「なんでここに来てたのか不思議だったけど、あんたが働きすぎで、ちょいちょいここに送り込まれて休憩してたって、今回の報告上げたときギルマスの返事に書いてあって謎が解けたよ」
と、言っておいた。
もぞもぞと黒い頭が動き、ゆっくりと持ち上がった。
まだうつ向いてはいるけど、少しは立ち直ったかな?
「さて、迎えはまだ1日以上は来ないみたいだから、ご飯にしよ」
黒髪がふるふると震えていたけど、コクンと頷き小さな声で「はい」と聞こえたので、店に落ち込むイケメンを残し私は台所へむかった。
* * *
カウンターで向かいあって、葉野菜サラダとカルボナーラ風パスタを食べる。
ヴァル・ガーレンは皿が並ぶまで落ち込んでいたけど、湯気の上がるパスタを前に食欲には勝てなかったのか「ありがとうございます」と言って食べ始める。
食べ出すと「うまっ」といいながら、気持ちいいほどバクバクと口に運び、あっと言う間にたいらげた。おかわりが有ることを伝えると遠慮がちではあるが、嬉しそうに皿を差し出した。
うぅ、味とか適当なのにそんな風に食べられると嬉しいじゃないか。
お皿が綺麗に空っぽになったので、「ごちそうさま」と言って、手を合わせる。それを見てヴァル・ガーレンも同じように手を合わせて「ごちそうさま」と言った。
ヤバい……少し心がほんわかしてしまった。
なんやかんやで、ヴァル・ガーレンと向かいあって食事したりお茶を飲んだりしてきた。
それを自然と受け入れている自分がいる。
ヴァル・ガーレンのお茶のおかわりを入れて、皿を片付けてカウンターをふく。
まだ、そこに置いてあったペンダントに目が行く。
「これ、魔工石でしょ? 加工してないのになんで装備してたの?」
満腹で表情が緩んでいたヴァル・ガーレンは、少し困ったような照れるような顔をする。
「あ、その……色が、好きで」
なるほどね。
彼は"黒の稲妻"とか"孤高の黒狼"とか、なかなか香ばしいふたつ名を持つほど、その装備を黒で統一している。黒髪と合って、とても似合っている……
うう、カッコいいんです! ハイ。
「見つけて手にいれてから、いつか……なにか付加しようと思ってる内にあわただしくなってしまって」
そうだよね、魔王討伐以前から勇者級だった彼は依頼が引く手あまただったろう。溢れる激レア装備に特に加工を急ぐ必要もなかった訳だ。
「何か付けたいものある?」
錬魔技師として、純粋に高級なその石を加工してみたいという気持ちが持ち上がって来た。
とりあえず、今日1日あれば私の鬼遅魔法陣でも迎えが来るまでに最上級のエンチャントは出来る。
そんな、職業病みたいな乗りで提案が口をついてしまったが、ヴァル・ガーレンからの返事がない。
そこで、私なんかよりテオール・アイヒホルンに頼めばあっと言う間に出来上がるだろうことに気がついた。
あ、ちょっと調子に乗ったかな?
「まぁ、なければ無理にとは言わないよ、仲間に頼めばいいんだしね」
「あ! お願いします」
慌てて彼は頭を下げた。
そして、頭を上げてキラキラした瞳で私を見てくる。
おっ……おう、すっげー喜ばれてる。
でも、その後しょぼんとして
「あ、そうすると中和薬の保証が……」
そこにまだこだわるかい?
私も出来れば、勇者に装備されるエンチャントをしてみたいと思っている。
もちろん、錬魔技師として、最高の栄誉が目の前に転がってる訳だし、少しでも今回の魔王討伐に役立ちたい。
なんとか、彼の了承を得たいと頭を捻る。
そうだ! と思い付いて、私はわざとらしく盛大にため息をついた。
「【初めの魔女】の所にきて、まだここにいられるなら、やることは決まってるでしょ?」
ん? とヴァル・ガーレンは私をみつめる。
きょとん顔ヤメテぇー、わんこかぁ!? わんこなのか?!
わしわしその頭を撫でたくなるじゃないか!
「クエストしなさいよ! 今夜は【日の満月】間近だから、【月下魔花】が蜜を落とすんだよね」
【日の満月】とは、白黄色に輝く満月の事で、青い満月は【月の真月】と、この世界では呼んでいる。
日の満月が近くと【月下魔花】という魔素を養分にして咲く花が蜜を落とすのだ。それは高級ポーションの材料になる。ただ、その花は森の中腹にあり、その蜜の香りにつられて中級冒険者対応の魔物が集まってくる。
「いつもなら、身体強化かけて採りにいくけど、マナも要らない発動まで時間もかからない勇者級な護衛がいれば楽でいいよね?」
おお! とまた目を輝かせるヴァル・ガーレン。
「どうせ、休んでろって言ったって鍛練とか言って体動かすんでしょ? だったら中級者対応の魔物なら準備運動ぐらいにはなるでしょ?」
へへへ、とヴァル・ガーレンは、耳の上あたりをコリコリとかく。
私はニヤリと魔女笑いして
「追試だよ? ヴァル・ガーレン」
そう言うと彼は「はい!」と言って嬉しそうに姿勢を正した。
「うまくできたら、その石にエンチャントしてやるよ。中和薬と合わせてビギノクエスト報酬さね。ひひひ」
あの時のやり直し。
それを交渉に持ち出すのは、勇者となった彼には失礼かもしれない。でも、私達の始まりはそこで、大切そうに初心者用の腕輪を抱きしめた彼はきっと、ずっと後悔してたんじゃないかって思った。
「クエスト受けます!」
眩しいほどの笑顔につられて、私も笑った。




