表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんで勇者がこんなところに?!  作者: 糸以聿伽
第一章 魔女の日常
20/42

対決!?

2018/5/23

段落、改行、誤字修正作業中

 それなりには、そ・れ・な・り・に・は、急いで店内へ戻った私。


 明かりを付けるのを忘れていた店内は、月明かりに満たされている。そこに、調合中のマナポーションの煌めきが合わさり、幻想的な空間だった。


 私は安堵もあってフードを取って工房からカウンターへ進む。


 私はマナポーション作成作業中のこの空間が綺麗でプラネタリウムみたいで好きだった。

 その中に今、窓から入る月光を背にして容姿端麗な青年がソファーに座っている。


 濡れたように艶めく黒髪、薄明かりの中でもわかる整った顔。

 その銀の瞳が私をじっと見つめている。


 ──どきっ

 がふっ! 鼻血でるくない? あぁ、ダウンロードぉー! とか言えちゃう余裕が戻ってこられました!

 余裕さん、おけーりー。

 もー心配してドキドキしたわぁ、心臓に負担かけないでよね。


 私は遠目でみて、落ち着いているように見えるヴァル・ガーレンにほっとした。

 これなら、副作用なしのそこそこの中和薬でいけるね。


 カウンターに中和薬一式を置いて、そこそこ中和薬を選んで彼を見る。

 ヴァル・ガーレンはふらりと立ち上がった。


 自力で立ち上がれるぐらい回復したんだって思って、カウンターから出ながら薬を差し出した。

「もう大丈夫そうだけど一応、中和薬だから飲ん」

 ──カシャーン

 黒い影が瞬時に私の持っていた瓶を奪い投げ捨てた。

 そして、

──どんっ

 ちょうどカウンターから出てきた私は壁を背負い、顔の横には鍛えられ、頼もしい筋肉がすじをつくる腕が!

 私は行く手を阻まれた。


 壁ドン!!!!! キターーーーーーー!

 てかっ、誰がその割れた瓶、掃除すると思ってんじゃ!!

 ってどーした?! と彼を見ると……銀の瞳は欲望で潤み、妖艶な微笑みを私にむける。


「ずっと、夢みてた」

 ほとんど息だけで囁かれる台詞は甘く響く。

 その息が私の頬にかかるほど顔が……近い。


 でも、体温が高いのか熱がこちらまで伝わってきた。

 額にはじっとりと汗が滲んでいる。

 その潤んだ瞳がすこし虚ろなのが近くでみて解った。


 ──完全にのまれてるやーーーーーーん!!!!


 抵抗しろって言ったのに、完全に薬の効果にやられてしまっているじゃないかぁ!!


「アグリモニー……俺は……」

 呼び捨てされたーーーーーーー!!!!

 萌えシュチな筈なのに……私はなんだか段々と腹が立ってきた。


 普段の言動から考えて、今までのが演技でこれがシラフだってんなら、私はあんな選択肢を加えなかった。


 私は、私はこんな状況のヴァル・ガーレンから何か言われるのは、すっごく、すっごーーーく"嫌"だった。


 だから、私はここで突然現れた選択肢を選ぶことにする。


 ★戦いを挑む!!


 こっちにだってレア靴、履いとんじゃぁ!

 判断力もかなり怪しくなってると思われる勇者になら、この状況だったらやれるはずだ。


 すぐさましゃがんで、腕をすり抜け、相手の背後に回る。

 が、薬の影響下にあっても勇者だ。

 すぐに振り向き私の腕をつかもうとする。

 それをバックステップで交わす。


 しかし、俊足ではあちらに勝てなかった。

 すぐさま扉まで追い詰められる。


 狙うは顎。

 意識を刈り取るつもりで一撃を繰り出す。


 しかし、拳は相手の掌で受け流される。

 私はすぐさまその反動を利用して回し蹴りに移行する。

 それに反応してそれを受け止めようと手を出したところで、私はしゃがむ。


 蹴りはフェイントで、相手の足元にタックルをした。


 ──どさりっ

 仰向けにヴァル・ガーレンを倒せた!


 薬の影響下になければ、あんなフェイントなんかに引っ掛かるわけない。でも、コズルくてもなんでもいい。


 倒れたヴァル・ガーレンを組み敷き

 床に仕込んだ魔道具にマナを流す。


 すぐさま輝き出す魔法陣に驚愕するヴァル・ガーレンにマウントを取ったまま「お願いします」と唱えた。


「またっ……ぐぅ、かよっ!!」


 ビクンと体を反らし痛みに耐える彼は、もうビギナーではない。大人しく麻痺していてくれるのは、下手したら1分持たないかもしれない。


 私はすぐさま中和薬の箱から、1番効果が強く、しかし副作用も強い小瓶を取りだした。

 それの封を切り横たわるヴァル・ガーレンの頭を支え液体が飲みやすい様にする。そして、彼の口元に瓶を寄せる。


 しかし、彼は口を開けようとしない。

 頑なに薬を拒む。


「どうして?」

 そう問うと、

「……また何か……盛る気……うぅ」

 麻痺陣のショックからか、混乱している。

「あれ?……アグリモニー……さん……」

 それでも、彼は私を認識した。

 ふわっと、嬉しそうに微笑む。


 もう、ここでそんな笑顔みせないでよぉー……


「飲んで、中和薬だよ」

 私はぶっきらぼうに低く言い瓶を差し出す。

 だけど彼は口をむっと閉じる。

「もう、なんで?」

「夢なら覚めたくない……」

 乙女かぁ!!!

 どうせ夢と現の狭間で、そんな曖昧な場所で、彼は忘れてしまうのに、言葉を紡ごうとする。

「……俺は……あなたを……」


 私は彼の体の上へ素早く移動して再度マウントを取る。

 彼は忘れるのに……これから彼が発する、その言葉を……


 だから私はその言葉を──聞きたくない。

 持っていた中和薬を私は自ら口に含む。


 ヴァル・ガーレンは、私の行動に困惑しているようだ。


 飲まないなら、飲ませてみせよう──


 ヴァル・ガーレンの唇に私は──口づけた。


 え? と驚いて小さく空いた口の中へ私の含む液体を移す。

 ──こくり

 と喉がなったので唇を離す。


 彼は泣きそうな顔で「にがっ」と言った。


「良薬口に苦しってね。副作用は強いけどすぐ中和は終わる」

「ふ……くさ……よ?」


 すでに、副作用の強力な睡眠効果が現れている。

「そう、中和が進んで楽になってきたでしょ?睡眠効果があるんだよその薬」

「あ……うん……な……るほ……」

 そう、答えてコテンと彼の首から力が抜ける。

 ──すーすー

 と、安らかな寝息が聞こえる。

「おやすみ」


 私はそう声をかけて彼の上からどく。


 そして身体強化の魔法陣を描く。


 それが発動するまでに、寝室からクッションとお婆ちゃんが使っていた毛布を持ってきた。


 ちなみに、中和する成分が無ければ副作用は現れない。

だから、私はなんともない。

 そして、ヴァル・ガーレンには言わなかったけど、もうひとつ副作用がある。


 薬を飲む前の記憶は、曖昧になる。

 しっかり寝ちゃうから、あんな夢うつつの状態なら確実に朝起きたら夢と一緒に忘れてしまうだろう。


 こんなに引っ張っておいて、私とちゃんと向き合って。

 なのに、忘れてしまうんじゃぁ、それは水晶越しと何にも変わらない。


 そんなの……虚しい。


 私が、虚しい……


 ソファーにクッションを置いて毛布は、床で眠った彼にそっとかける。その横に私も座る。


 柔らかい黒髪は汗でしっとりしている。

 顔にかかっていた束をそっと払う。

 心地よさそうに眠る彼。


 マナポーションの鍋の様子も見なきゃなと、キラキラ輝くその幻想的な光をぼーっと見上げる。


 そして、はたと気がついた。


 ───のがぁぁぁあああ! 今世のファーストキスじゃねーーーーーーかぁーーー!!!


 私は頭を抱えた。

 まて……私の事はまぁいい。

 選択してそうしたんだから……


 でもこれって、はたからみたら、イケメンをむりやり組み敷いて唇奪う枯れ魔女じね?それって──


 完全にダメじゃんかぁ!!!

 うあーすみませんすみません。

 全世界のヴァル・ガーレンファンの皆様、ほんとすみません!

 土下座だ土下座ぁ!


 そんな困惑のなか身体強化の魔法陣が許可待ちになる。

 私は当初の予定通り、身体強化をかけて彼を横抱きにする。


 すみませんすみません。

 ヴァル・ガーレンをお姫様抱っことかすみません!!

 本当にすみませんと彼にも盛大に謝罪する。


 ソファーに彼を寝かし、毛布をかけて私はそそくさと、ニンジンを取りに外に出る。


 裏庭までいって叫ぶ。

「私も忘れさせてーーーーーーーーーー!」

 火照った頬に夜風が当たるが、それは焼石に水。

 唇にのこる感覚をごまかす為に、一心不乱にニンジンを掘り返す。

 埋まりたい! 私がニンジンの代わりに埋まりたいぃ!!


 朝まで眠れる気がしない。

 仮眠とか無理かもしらん……


 黄白色の月は私の頬の赤味を隠す気はないよっ☆ と煌々と輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ