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なんで勇者がこんなところに?!  作者: 糸以聿伽
第一章 魔女の日常
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まー来るよなぁ……。

 錬魔技師(マギノダージニア)を生業としている人は、冒険者を引退した魔術師(マギマスター)がほとんどだ。例えば年齢を重ねたり、結婚や妊娠・子育てなど戦闘が厳しくなったり、他の生き方を見つけた人たち。

 そんな人たちのお手軽なお小遣い稼ぎに丁度いいのが【マナ玉】作成である。


 マナ玉の原材料は、魔道具を作る時の必須アイテムで魔法陣を書き込む【魔工石(マコウセキ)】の欠片を集めてビー玉位の大きさにしたもので、これを【空玉(カラダマ)】という。

 空玉は無色透明の球系をしているのが一般的である。錬魔作業をして、ある程度蓄積野にマナを貯め、マナ出力魔法陣の上にこの空玉を置いておくと半透明の乳白色になる。


 ミルキークォーツだったかな? たしかそんな名前のパワーストーンがあったよね。マナを貯めたマナ玉はそんな感じ。


 マナの電池みたいで、マナが無くなると透明の空玉になるから、それを回収して、またマナを入れマナ玉をつくる。

 リサイクル完璧でしょ?

 しかも、作れる人が多いから安価で流通してる。


 ──コロロ、コロコロ、コロン。

 うちの工房にも作業棚の一角にマナ玉作成用のスペースがある。

 そこにおいておいた瓶にはすでに色のかわった玉が詰まっていた。私はそれを持ち上げて傾けたり、回したりして全ての玉の色を確認する。


 魔法陣は今日もピカピカとマナを出して、それを受け取った乳白色のマナ玉がキラキラしてる。


 よし、全部満タンですな♪

 私もマナ玉リサイクルしてますよ♪ エコエコぉ~☆

 マナ玉満タン瓶にコルクで蓋をして、別の瓶に貯めていた空玉瓶をまた魔法陣においた。


 店のカウンターにマナ玉満タン瓶をもっていく。


「マナ玉クエストですか?」

 カウンター越しに問われ、私は瓶を置きながら「ええ」と答える。


☆【マナ玉クエスト】とは、王都のご家庭に転がっている空玉を集めてここに持ってきて、マナ玉一瓶と交換してもらうという、シティアドベンチャーシナリオみたいな感じだ。


 私は自分が飲んで空にしたカップに茶を注ぎながら、カウンター内にある椅子に、仕方なく座る。

「ビギノクエストの時にリーダーのシーフが倒れちゃってね。代理のリーダーがパーティーを引き連れ別クエストに変えてここにきたんですけどね……」

 そう言って肩をすくめ会話を再開した私を見て、「あぁ~あはは……追加かぁ」と、人差し指を黒髪に埋め、こりこりと耳の上あたり掻く声の主。

 困ったように眉を潜めるが、銀の瞳はくすぐったそうに笑っていう。

「再試って訳ですね」

「そ、代理リーダーが暴走してね~」

 暴走と聞いて「たはは」と今度は片目をすぼめる。


「全快したリーダーのシーフには街中めぐって空玉集めるとか得意分野だし、仲間の協力があれば報酬は上がる。ビギノクエストをクリアしないと次のクエスト何時までも受けられないですし」

 私はカウンターの上にある満タンマナ玉瓶に目線をやり、横に空玉を回収する籠を人差し指でコツンと叩く。


「体調不良になった汚名返上、リーダーの腕の見せ所でしょ?今日中には来るってギルドから連絡きたんです」

 うんうん、と頷く商人風の男……


 ええ! いますよ?

 きっちり3日後に、来ましたよ……って誰がって?


 ───ヴァル・ガーレンだよぉお!!!!!(キレッ)


 ギルドから魔法便で勇者用超級ポーション×20と来たときに、正直、奴がくるってなると面倒だからギルド経由でお願いしますと言おうか迷った。

 でも、きっと、また来るって言ってたからには、なんとしてでも理由つけてやって来そうな気がした。


 その辺、勇者だもん。

 じゃぁ超級マナポーションだなんだと、理由はありまくる。

 逃げようにも、私はこの家から離れる訳にもいかない。


 だから、さっさと終わらせた方が逃げるより面倒は少ないって思ったんだよね。


 そして、約束の時間きっちりに現れたポポラホさん(中身、ヴァル・ガーレン)。


 来るか?! くるか?!! と身構えながら超級ポーションを渡し、茶を淹れ、今か? 今なのか? と待ち構えるのだが。


 ──ずずずずずー。

 まったりとのんびりと茶をすする音。

「はぁー、落ち着きますね」

 と、無精髭がちょぴり生えてきた小疲れしたイケメンが、リラックスしたわ~とふにゃりと笑ったら?

 あんた、どーします? ねぇ! どーするの?


 できねぇ……おら、いえねーよぉ。

『あなた、もしかしてワタクシの事が好きなんじゃありませんの? ワタクシそのつもりはありませんの! 用が済んだらお帰りくださいませぇー↑』

 なんて……いえねぇだよーーーー!


 と、不正防止の魔法陣の許可待ちタイムを持て余した私は、工房へ逃亡してマナ玉みたり、マナ玉みたり、あと、マナ玉みたりしてたの。

 今日はポーション作成作業も運悪く一段落して、特に急ぎの仕事もなく、それぐらいしか工房に逃げる理由がなかったんだぁよぉ。

 

 そして、今に至ると……


 魔法陣はまだ輝かないのに、ポポラホきどりのヴァル・ガーレンのカップが空になっているが目に入った。

「おかわりいります? 時間大丈夫ですか?」

 魔法陣に許可が出せなきゃ依頼状渡せやしないから、はよかえれ! とも言えない。

「すみません、頂けるなら」

 そう言ってカップを差し出される。


「時間は、あと二時間ぐらいはって……はは、そんなにいませんけど……平気ですよ?」

 ぼくいていい? クーン……って聞こえそうな瞳で私をみないで!!! なに? なんなの?

 え? これは告白? 私の事好きなの?


 あ……この人、私の事スキダッタワー……。

 これは、鈍感ヒロインではないよね?

 でも、これで『お断りします』って言たりしたら、やっぱ可笑しくない??


 つか、今いったら飲み物のおかわりを断る事になるわ!


 あぁーーーーめーんーどーーーくーーーさーーーー!


 はいはい、思考やめますたー☆


「甘いの平気ですか? 蜂蜜にレモンの皮ごとつけたのあるんですけど、お湯で割ったの飲みます? 疲れとれますよ?」

 なるべく事務的に言う。

「蜂蜜はポーションで飲むから味は慣れてます。レモンかぁ、いただきます」


 ……ああ、ちょっと想像した。

 つまり、回復担当の癒しが間に合わないほどの戦闘があるということ。


 ──彼は魔王討伐の真っ最中なんだ。


 押し寄せる魔物を先頭で叩き切る。

 盾役は聖騎士フォスター・オルロフだろうから、癒しはそちらを優先するはずだ。


 きっと、癒し手に負担をかけないように彼はあの甘いポーションを何本も飲むのだろう……


「冷たいのもありますけど? そっちのほうがスッキリするかも」

「あはっじつは喉が乾いてて、冷たいの嬉しいです」

 へへっと笑う彼。


 平和過ぎて忘れそうになる……

 守られてるんだってこと。

 守る為にその皮膚がさけ、血を流すがそれを薬や癒しで塞いでまた剣を振るうのだろう。何度でも……


 目頭がじわんと熱を持つ。


 私はカップだけみることにする。


 空いたカップをもって、工房から奥の扉を出て台所へいく。

 食器棚からなるべく涼しげで量がたっぷり入るグラスを選ぶ。

 お風呂上がりに飲む用にピッチャーに作っていた蜂蜜レモン水を、品質保存が常時かかってる箱の中にある砕いた氷をいれてからグラスに注ぐ。


 ──かららん。

 涼しげな音をたてて氷がまわる。


 グラスとピッチャーを持って帰ってくると、『かえってきたーー!』という感じのすっごく嬉しそうな顔でニッコニコされた。


 ずるいよな、イケメンはさぁ……

 そんな顔でニッコニコされたら、はふーん♪ってなるやろがぁ!


 グラスを受けとると一口飲んで。

「うま!」

 と言ったあとゴクゴクと音をたて一気にグラスを空にするヴァル・ガーレン。


 上下する喉仏とか、飲み終わって上唇についた水滴を下唇で受ける仕草とか、全然、ぜーえーんぜーーーーんみてないんだからね!!!!

 まーったく、セクシーぃーとか思ってないんだからね!!!


 みましたぁ!!!

 ガン見してました!!!


 そんで、2杯目を飲み干したところで光る依頼状。


 そして、安定の退場。


 なんか、身構える自分がアホらしくなってきたよ。


 また、来ますって元気に無邪気に言う"あれ"の目的が私にはわからなくなってきた。タイミング狙ってるとか、とても思えない。


 ……ほんと、あんた何しに来てんだよ。


 ──から、らん。

 飲み干されたグラスの中で氷が私の思考に答えた。

 でも、残念ながら私には氷語は理解できなかった。

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