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なんで勇者がこんなところに?!  作者: 糸以聿伽
第一章 魔女の日常
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大事、適材適所、大事!

 カウンターに置かれた【日色林檎(ヒイロリンゴ)】はクエスト前に渡した籠から溢れそうなほど大量だった。横に置かれた麻袋にはたっぷり【魔樹木(マギプラント)】の小枝が詰められており、戦果は上々だ。


 だがしかしだ、私はとても不機嫌であると身体中からにじみ出すように、わざとカツカツと音を立てて移動する。


 そして、扉の横にある長椅子に神聖力──魔術師でいうマナ──を使い果たしてぶっ倒れているアコライトの頭を支えて少し起こした。彼女の口に神聖力の【復活薬】をスプーンで流し込みながら、パーティーのリーダーである弓使い(アーチャー)を怒りを込めてひと睨みする。


 アコライトの頭を長椅子のクッションにゆっくり戻して、立ち上がって

「さて、回復役が倒れたのに何故戦闘を続けたんだい?」

 低く地を這うような声で問う。


 びくりと震え、しかし言い訳を口にするアーチャー。

「でも、その後すぐに【魔樹木(マギプラント)】に止めをさせたんですよ、なっ?」

 と、隣で縮こまっている剣士に同意を求める。アーチャーより身長の小さい彼は、実際年齢も下なのかも知れない。


 剣士はしかし、無言で俯いた。

 腫れの引いてない右目の上の打撲が痛いのか、切れている唇の横からはまだ流血していて、眉間の皺が深い。たぶん装備の下にも癒えてない傷があるのだろう。


 本日のビギノクエストは、

☆【日色林檎】の収穫と【魔樹木の小枝】拾い

 収穫量にて多少の追加報酬あり。

 サブクエストは【魔樹木(マギプラント)】討伐


日色林檎(ヒイロリンゴ)】は、【高級ポーション】の素材で、【魔樹木(マギプラント)】という森の木に擬態した魔物がつける実である。


 マギプラントは動かないので一般人には、普通の樹木との見分けがつきづらい。知らず目の前を通ると、それはそれは重い一撃をお見舞いされる。ただし林檎が実っていない時は普通の木と変わらず襲ってもこない。森を歩くとき林檎が実っている木には近づくなというのは、一般常識である。


 マギプラントの討伐は、遠距離攻撃ができればとても楽な部類だ。


 ただし、奴等とてただ遠距離からの攻撃を受けるだけは許しはしない。林檎を投げたり、枝をなげたり、捨て身の攻撃を仕掛けてくる。

 まー、枝や林檎だ。攻撃力はたかがしれてるが、それでも塵も積もればだから回復要素は必須ではある。


 だから、遠距離攻撃できないパーティーでもこのクエストは受けられる。少し傷物になるが林檎を全て投げてくるまで防御し、おとなしくなったところで、落ちた林檎と枝を拾い、それでクエストを完了してもよい。


 こちらとしては、ポーションの素材になる日色林檎と枝が欲しいので傷物とかあまり気にしない。そりゃぁ粉々になる物もあるから、討伐したほうが実入りは多い。魔物の脅威も減るしね。


 しかし、討伐するとなると樹木だけあって硬い。

 初心者にはちょっと時間がかかる相手ではある。


 まー対策や連携さえ上手くいけば、片手にポテチでクリックポチポチって、チガッウ……安全でおいしいクエストではある。


 そんな決して難しくない初心者クエストをアーチャーのいる状態のパーティーが、どうした? と思わずにはいられない。

 なぜ、アコライトは神聖力がつきぶっ倒れ、防御役の剣士はボロボロという事態に陥ってしまったのか。


 私は一部始終を水晶で見ながら憤っていた。


 アーチャーは始めこそ後ろでポチポチやっていたのだが、しばらくすると単調な仕事に飽きたとはっきり顔に現れだした。


 林檎や枝は剣士が防いで、ある程度ダメージが蓄積すると【治癒(ヒール)】(ヒールは少しだけ体力が回復する初歩的な神聖魔術だ)がかかる。アーチャーの攻撃の邪魔にならない程度に剣士は近接し、体当たりをかましてマギプラントの実をおとし、早く動かなくなるように行動していた。


 三人でできる、最適解である。

 よく調べてきたね♪ とほくほく見ていた。


 ところがだ、その攻撃の要であるアーチャーが突然、剣士の体当たりのタイミングで前に出て、ナイフを使ってマギプラントを叩き出したのだ。


 安定していた連携はとたんに崩れる。

 体当たりをキャンセルしてアーチャーをカバーリングする剣士。

さっきまで遠距離しか攻撃できなかったマギプラントは、接近してきた剣士をここぞとばかりに本来の攻撃力で叩く。

 フっとんでアコライトの前まで転がる二人。「いてー!早くヒールかけろよ!グズがぁ!!」と悪態をつくアーチャーに怯えたアコはしたがってしまう。


 そこに林檎や枝が降り注ぐ。

 防御に立った剣士にも続けてヒールをかける。

 しかし、あの余裕のあるルーティーンは帰ってこない。

 ギリギリの剣士にヒールをかけ続け、彼女はついに倒れた。


 それに気がついた剣士に、アーチャーは言った。

「もう、あと少しだ!ちゃんと防げよ」

 と……


 盾を構えた剣士があり得ないって顔で振り返った時。

 アーチャーの放った矢が、剣士の体当たりで弱くなった場所に刺さりマギプラントは断末魔のような音を立てながら崩れ去った。


 もし、あの一撃でマギプラントが崩れなければ、私は転移で飛んでいた。


 ギリギリ立っていた剣士がアコライトを庇うように、座り込むのを横目に見てたのに、やったーと歓喜しながらマギプラントの残骸に向かうアーチャー。

「お前ら拾わないなら、報酬は俺のものだからな。只でさえ俺の攻撃で倒したみたいなものだしな」

 そして、ほんとに籠いっぱいに林檎をもり、袋に小枝をつめた。


 ──はい!追加指導決定!!


 そして、今にいたるわけだ。

「その後、ボロボロの二人をほっておいて素材を拾ったのはなんでだい?」

「それは、兄貴が倒れて金がいるし、べつに他の魔物の気配はなかったし」


 そうなのだ、このパーティーはもともと四人でアーチャーの兄のシーフがリーダーをしていた。ところが、突然倒れたので急遽クエストを変えてここに来たのだ。


「おまえが感じられる気配をもった魔物がいなかっただけだ。そして、兄貴の治療代はパーティー全員が負担すればいい、それは報酬をおまえが独り占めする理由にはならん」

「だって、こいつら拾ってないし……俺がダメージ与えたんだし……」

 口を尖らせ本音がでた。


「おまえがそうやって元気で立っているのは誰に回復してもらったからだ? 」

 低く問う。声には感情はあえて乗せない。

「ひっ……だってそれがアコの仕事で──」

 遮るように、同じ調子で問う。

「マギプラントの一撃から生還できたのは誰に庇われたからか?」

「こいつは丈夫だから、当たり前だろっ」

 噛みつくように言いながら不満を貯める。


「おまえが飽きるほど単調に弓をうてたのは、誰が林檎と枝を防いでくれたからだ? それのダメージを誰が癒して戦線を維持していた?」

「だってそれが、役目だろ?!!!」

 キレたアーチャーは言った。


「役目を果たして報酬が貰えないのはなぜだ?」

 ねじり混むように心臓にめがけて声を放つ。


 うっ……うぐっ。と涙を流して俯くアーチャー。

「俺は兄貴みてーに頭良くないし、こいつみたいに丈夫じゃないし、神様にも縁なんてもてるわけねぇ。兄貴に俺だって出来るって見せたかった……」


 泣き出した劣等感の塊のようなアーチャーをびっくりしたように見る剣士。

 私は剣士と目をあわせ、なるべく柔らかく問う。

「まだ仲間でいられるかい?」


 その問いには後ろからぽわんとした温かい声が答えた。

「私はいられます」


 アコライトがさっき飲ませた神聖力が復活する【復活薬】の効果で回復し、気がついて話をきいていたのだろう。

 剣士もその声に頷き私の目をみた。


「この事は、ギルドにも詳細に報告させてもらうよ。もちろんあんたの兄貴にも」

 アーチャーは更に肩を落とした。


「あんたは、自分の弱い所をちゃんと解ってる。それを目下の者にいばり散らして誤魔化してないで、補ってもらっている事に感謝して精進すればいい」


 アーチャーは頭では理解しているのだろう、でもまだ心にこの言葉が落ちるのは少し先だろうと、その反抗的な瞳をみて思う。

 くそっと言いながら店を出ていく。


 私はさっきスプーンであげてた【復活薬】の瓶を渡した。

 残りをアコライトに飲むよう促す。

 剣士にはポーションを封を切り、それ飲めと有無を言わさず飲ませた。


「仲間は時に苦言も呈する。年上だろうがなんなだろうが冒険者になったんなら遠慮しない事だ。命を預け預かるんだよ。この場所で何が一番今必要か冷静に判断できなきゃ、理不尽な死が待っている」

 空になった小瓶を握りしめる二人に私は紹介状を渡して心から言う。

「生きておくれ」

 二人は頷いた。


「ほれ、リーダー代理を追いかけて守ってやんな」

 二人は見つめあって、こちらに笑顔を向けた。

 そして、走り出した。


 パタンと扉がしまる。


 本日の【初めの魔女(ビギノジャニター)】のお仕事しゅーりょーう♪


 私はカウンターにある日色林檎を一つ手にとる。綺麗な橙色をしていて、色合い的には蜜柑の色だ。

 香りをかぐと甘酸っぱい爽やかな香り、食べればちゃんと林檎の味がするしほんのすこし体力回復する。


 ポーション切れでどーしてもって時は、林檎をかじりながら耐えられるというなんて楽なクエストだろうか。

 まー私の目的は高級ポーションの上の超級ポーションなわけで、食べたらもったいないのでそのフレッシュな香りだけ楽しむ。


 さてさて、こちらも役目を果たさなきゃね。


 もうすぐギルドから超級ポーションを仕入れに商人が来る。もちろん鬼遅な私は、保存庫にある在庫を渡すだけだ。在庫を全てもっていかれるので、ストック切れだ。なので補充するのは当然のことですよ。


 まー大釜にはすでに高級ポーションが出来あがっており、ドライアイス風ノロシで煙を吐いている。あのノロシをとって、林檎と蜂蜜をいれて煮込みながら超級ポーション用の魔法陣を待機させとけば三時間もありゃ許可待ちになるっしょ。


♪林檎と蜂蜜まぜまぜとろぉり~できたのは~カレーじゃないよ♪

♪どっぽり回復するぅ~お値段高価な~超級水ぐぅすぅりぃ♪


 上機嫌に鼻唄を歌いながら、まだ彼らの背中は見えるかな?

 なんて窓の外を見た私は──ゴッ、ゴロゴロぉ──手にしてた日色林檎を落とした。


 庭の隅。

 (クサムラ)の向こうに突然人が現れたのを見た。

 私は、「あれ? 商人さんあんなとこから来たんだ」と考えたところで、違和感と既視感を覚えて──はっとした。


 あの庭の隅に埋められた【座標石(レコードストーン)】に思い至る。


 今日は、あの茶番劇からのネタバレ事件発生より3日たっていた。レイナだっけ? あの修道女が浄化した範囲を走りきったのか。


 彼は、認識阻害だけを纏って商人風の服装だ……

 でも彼は、まごうことなき


 ──ヴァル・ガーレンそのまま──


 でやってきた。


 まじか?


 ま、答えは【No!】

 私は転生してノーといえる異世界転生人になったんだ。どんないい身体してたって、どんなセクシーな声してたって! 顔さえ覚えてない事になってるんだぜぇ。

 この際、端正な顔とか関係ない!


 かもーん!フラグへし折ってやるぜ!

いつも評価、ブックマークありがとうございます。

忌憚ないご指摘お待ちしております。

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