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なんで勇者がこんなところに?!  作者: 糸以聿伽
第一章 魔女の日常
10/42

ネタバレきた!

☆本日の茶番劇場【筋書きはこうだ】

 ルアーブ君はさる高貴なお方のご子息だった。

「坊っちゃん、旦那さんも言い過ぎたとおしゃっています」

 そう従者のナイスミドルは語る。

 成人までまだ数年ある、選択肢を狭めないでおくからよく考えて欲しいと最大の譲歩は引き出せたという。


 ビンス達は「やったー!」と湧くがルアーブの顔は優れない。

それに気がついてビンスはしゃがんでルアーブに目線を合わせた。

「良かったじゃないか。俺たちお前の事もう仲間だって思ってるんだぜ、なっ! 成人したらまた一緒にクエスト受けたり、いろんな所に行こうぜ! んで目指せ勇者だ、なっ!!」

 ナーシャもギリクも優しくうなずく。

 でも、ルアーブはうつむいた。


「どうした?」

 兄のようなビンスの声はルアーブの決意を確かなものにした。

「ビンスさん、僕にはやっぱり無理だとわかりました」

え?とざわめく三人


「僕にはビンスさんみたいな、リーダーシップもないしナーシャさんのような優しさもギリクさんのような観察力もないです」

 冒険者を体験してみて自分が未熟で、ただ父親への反発だけでここに来てしまったと言う。

「僕のすすむ道はここじゃないというのがわかりました」

 語るうちに決意をしっかり表すルアーブ。

 その顔は清々しく幼いながら何かを決めた男の顔だった。

「ビンスさんたちのお陰です! 僕、もっとちゃんと考えてビンスさんたちに恥ずかしくない自分になろうと思います」

 自分の分もビンスさん達には頑張って欲しいと。


 感動と別れの予感にうるうるとする素直なビンス達。

 従者がその後を引き継いぎ、

「坊っちゃんとは二度と会えないとは思いますが、どうか名を馳せて坊っちゃんの耳にもあなた方の活躍が届くよう精進してください」


「ありがとう!」何度もふり返りながら手をふって小さくなっていくルアーブ。

 ビンス達も手をちぎれんばかりにふる!

「絶対、お前の所に俺たちの名前、轟かせるからなー!」


 月明かりの中、星屑草の様にビンス達の瞳にキラキラと輝くものがあった。


~fin~


 遠見の水晶で見ていた私はマナの供給をやめた。

 水晶は何も映さなくなる。


 ……

 イイハナシダナー……

 開いた口が塞がらず喉がパリッパリッだった。

 顎がアングリモニー……orz


 は! 初心者向けシナリオですね、GM!!

 数セッション先にビンス達がピンチになったら、ここで築いた絆でダイスが増えて乗り越えられるーみたいな?


 ───って、ああ!!! ルアーブの奴、腕輪をもっていきやがった!

 私の敷地内からでると遠見の水晶の影響は薄れていくので、そしたらただの防御+1って感じの腕輪(アクセサリー)になる。

 水晶の欠片もレコードストーンも私には高価でもないから、出費としては痛くない。もともと良い子たちには序盤で役に立つアイテムとしてあげてるんだけど。


 勇者(おめー)がもってくなよー!!! 必要ないだろー!


 ビンス達は少し寂しそうにご飯を食べてる。

 でもその淋しさを乗り越えて未来を見つめ夜をこすのだろう。


 うん、初心者教育ありがとー……つか、ビンス達にはなんとなく迷惑料として防御+3ぐらいのあげるかな。朝までに倉庫で探しとこ。


 ──ってか謎が深まった!!!


 うー、ほんとは盗聴みたいであまり気は進まないけど……と、私は遠見の水晶へ再度マナを流す。


 まー水晶の効果範囲出る前に何かしら情報が聞けるかは運だと思う。喋んないかもだし、向こうには天才魔術師(マギマスター)がいるから何か喋るにしても転移してからって可能性だってある。


 そんな言い訳しながら、私はダメよ、ほんとはダメなの知ってるのよぉ~とか思いながら水晶を覗きこむ。


 水晶の効果は良好で映像はクリアだった。

 従者と坊っちゃんは連れ立って街道までの脇道を歩いている。

 坊っちゃんはしょんぼりうなだれて歩みが遅いので、従者は坊っちゃんが来るのを待つために立ち止まった。


 そして、坊っちゃんが目の前にくると、


 ナイスミドルなおじ様従者は、とたんにうーんと背伸びして手を頭のうしろに組んで軽い調子で声をかける

『んで~? さぐれたぁ?』


 きた! 効果範囲ギリギリ間に合った。

 それよ! それを聞きたかった。何を探ってたんだ?


 このモヤモヤした気持ちで、猜疑心溢れる中、ギルマスに根掘り葉掘り聞き出すってのも手だけど、とりあえず事情さえわかれば黙って知らんぷりできる。


 もしかしたら、事情によっては協力出来るかもしれない。

 まー錬魔技師(マギノダージニア)にできることは微力ですがね。


 盗聴まがいが誉められたことじゃないってわかるけど、魔王討伐の進捗だって気がかりだ。あれを討伐にでたあんた達がパーティー過半数を使って、ここで何をしてるのか知りたいのが人情というもんだろ。


 金髪の坊っちゃんはしょぼんと肩をおとして首をふる。

『覚えてさえいなかった』

『あははぁ~まじか~、じゃ諦めんの?』

『……られない』

『はぁ? 聞こえないなぁ~』


 それはあからさまにからかいを含んだ声だった。

 ナイスミドルな声で、しかしゆる~い口調で続く言葉。

『つ~かさ~、あんなオバサンよりピチピチで純粋なお姫様のがよくなぃ~?』

 これが本来のルート・ロロキだと思われる口調で喋るナイスミドルを坊っちゃんが睨んで

『よくない!』

 一喝した。


 う、話が見えない。オバサン? 私のことか?

 まー24歳ってこっちでは確かにイキ遅……いく気がないんだから遅れてるんじゃない!!!


 そんな魂の叫びなど関係なく会話は進む。

『つか、お姫ちゃんの何が不満なのぉ~? 若いし可愛いしリベルボーダの姫といえば世界が羨む美姫達の内の一人だよ~? ま~面倒くさそうだけどさぁ』

『不満はない、ただ、俺は、俺が一緒にいたいのは……』

 もじもじする金髪碧眼のショタちゃん、きゃわいい。

 水晶越しではフード効かんもんな、別にショタコンでは無いですが可愛いは正義、ちひさきものはみなうつくし!


 あっでも、あ!!──もじもじしながら金髪の坊っちゃんが移動しはじめた。

 わお、画像がだんだんと荒くなってきた!

 あーなんだよー結局真相わからず仕舞いかよ?!

 そして映像は不安定でノイズだらけになり、なんとか音声だけがききとれるかどうかな状態になる。


 坊っちゃんが、ザっと足を止めた音か聞こえて、水晶に耳を澄ませたその時。


 とんでもない内容が耳に飛び込んできた。


『俺は、アグリモニーさんが好きなんだ!』


「……はぁ?」

 一人の店内に私の間抜けな声が誰に受け止めてもらえる訳でもなく霧散した。


 水晶玉に耳を付け口を半開きにして固まる24歳の魔女……


 ぱ行の目立つ何がおこるかわからないあの呪文を唱えられたかのような状態だなーと麻痺思考がさらに混乱していく。


 そこに第3の声が登場した。

『はぁーい、タイムアーップだよん。お迎えに来ましたー♪ レイナちゃんの広域浄化作業が終わったよ。あと船の方も手配できたってさ。とりあえず、三日ぐらいは走れる範囲を浄化したって、すっごいよねって───あれ? ヴァルるん、だめだったの?』


 女の子の高い可愛い声が突然聞こえたかと思うとマシンガンのように話始めた。

 これは、ナチュラルボーン天才魔術師(マギマスター)テオール・アイヒホルンの声だろう。


『……そっか』

 沈黙のあとテオールが言う。

『で? どうする──ってちょっとまって! その腕輪なに?』


 あ! まずい気づかれたかな?

 盗聴がバレそうになってやっと思考が復活!

 私はあわててマナ供給をやめた。


 もう腕輪に着いてるのはただの飾り水晶と【座標石(レコードストーン)】だ。

 あっちと繋がってたマナを閉じたから大丈夫だとは思うけど。


【魔術学園都市 マギノダヴィニア】最高峰の天才研究者でもある彼女には、もしかしたら気がつかれちゃうかな?


 しかし、問題はショタ声でしっかりとされた告白? 宣言?

どー、どーなんだこれは?

──断るのか?

 いやまて、まず直接伝えられたわけじゃない。その上こっちが聞いてるなんて思ってもないだろう。


 そんな態度してたか?

 つーか、金髪碧眼の可愛い少年のうるうるな瞳と目が合うのをどーやって恋とうけとれと?!


 目があった! もしかして、私の事好き?!───ってそれ自意識過剰じゃん!!


 解れと言う方が無理じゃない?

 なんか意味深なこと呟いてたか? 私【主人公さん突然聞こえなくなりますよね? 鈍感ですか?】的なスキルは持ち合わせてないんだけど?


 結論──聞かなかったことにしよう。


 必殺技『え? ねぇ今なんか言った?』だ!!!


 つーか、私は覚えてなかったって事になってるだから、諦めてくれるよね?


 マナポーション鍋の様子を見ながら、火を調整してキラキラと微かに輝く青い液体を混ぜる。

 混ぜながら、思考をまわす。


 なんつーか、事情はなんとなく解った。

 レイナとはあのフォスター・オルロフの隣にいた修道女だろう。

 浄化作業しながらじゃないと進めない環境。

 その作業待ちの間にできた、待機時間にここにきたってわけだ。


 さらに、この国【初めの国 リベルボーダ】のお姫様自身か、はたまた王からの打診か。勇者で独り身なヴァル・ガーレンへのアタックがあったが、奴は私が好きだから、私の気持ちを探りにきた。しかし、私は覚えてなかったと。


 うーん、理由は解った。

 これから命をかけて全力で望まなければならない大仕事の前に、人はその旗を立てずにはいられない。


 そう!【俺、生きて帰ったらお前と結婚する】又の名を【死亡フラグ】


 ───って、うおぉぉぉぉおおおい!

 なんて物騒なものおったててきやがったんだ。

 あぶなーフラグ立たなかったよ。

 あぶなーあぶなー。


 ……冗談はさておき。


 ただなんのアクションもされてないし、そもそも、もうずーと昔のあの時から会ってもないし、話もしてない。

 そんな私のどこが?


 つーか、あの時の復讐にきましたとか、──あー勇者がチュートリアルの魔女に復讐って小さいか──まー俺は勇者になりましたけど? なにか?! ぐらいのざまぁーしにきたって言われたほうが納得いくのです。


 結果は、まぁ、なんもしないで帰ってたのですが。


 そこで、はたっと気がついた。

 私は飯を食べ終わってまったり焚き火にあたってるビンスパーティーを、横目にさっきヴァル・ガーレンが埋めてったものをみにいく。


 ものすごく高い技術で隠されてて、あの埋めてる作業に気がつかなければ絶対わかんない。


 ──そこには【座標石(レコードストーン)】があった。


 え? またくるつもり??


「アグリモニーさん?」とナーシャが声をかけてくる。

 私は、この辺りの草は食べられるんだ、朝食の粥に使うんだよと適当に草をつむ。


 ナーシャはうるうるしはじめた。

 あールアーブが草渡してたな。私は彼女のそれには気がつかないふりをしていそいそと家へ戻る。


 そして、祈った!

 どーか、討伐が忙しくなってそれどころじゃなくなりますように! そして、私の事は諦めてくれますように!!


 告白さえされてないのに、何これめんどくさい。


 男は前世でこりごりなんだな。

 魔法の世界楽しいし、【初めの魔女(ビギノジャニター)】は安定してて、やりがいのあるよい仕事だ。

 寂しくないって言ったら嘘になるけど、特に今は師匠のフォーサイシアお婆ちゃんの意志をしっかりと継ぐんだって思ってる。


 ──ほんと充実してるのさ。


 ぶっちゃけ、前世みたいなあんなドロドロしたこともういいよ。私は、色恋に関しては枯れているかもしれない。

 こんな枯れ魔女に勇者はなんで、ひっかかっちゃったのかなぁ。


 まー次きて、告白されたら断わればいい。


 そうなのだ、なんら混乱することはなかった。

 フラグもへし折れるし、面倒は既に解決済み。不意打ちで告白されて混乱することもない。もう答えが決まっててそれを、しかるべき時に出すだけた。


 店の明かりを消す。

 窓から入る庭の夜営の焚き火の光と、さっきよりははっきりしたマナポーションのキラキラが壁に映って踊る。


 疲れたけど、表面だけみれば【初めの魔女(ビギノジャニター)】の日常だった。


 だから、私は日常(いつも)通りの生活に戻る。

 台所でご飯を食べて、1日の疲れをお風呂で癒す。

 お風呂にはいりながら、ほくほくと気楽に思考する。


 考えてみたらと──今をときめく勇者の一人に思いを寄せられて、直接ではないにしろ告白されちゃった♪


 ──ちょっぴりにんまり、優越感にひたれた。

 私もすてたもんじゃないざーます!ほほほーほー♪


 なんて、現実味もなけりゃすっかり他人事な出来事にほっこりしてその日を閉じたのだ。

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