第7話 「裁縫部屋」
フレアはお城の裏口に向かった。
そこには2人の衛兵が立っていた。
「すみません。裁縫部屋へ行きたいのですが……」
「それなら地下にあります。あの階段を下りなさい」
「わかりました」
フレアは裏口を入ってすぐの右手にある階段を下りていった。
下りた先の小さな空間には明かり取りの窓があり、目の前に小さな扉があった。
フレアは扉をノックした。
――トントン!
「はい!」
すぐに腰の曲がった小柄な老婆が出てきた。
メイド服を着ている。
「あの……クロエさんですか? ゼペットおじいさんからお聞きして、このドレスに薔薇のコサージュを付けていたたこうとお願いに参りました」
「まあ! もしかして……シャルルさまの側室になられるフレアさまですか?」
「はい、そうです! よく、おわかりで?」
「1週間前に行方不明になったとき、人相描きが出回りました。赤い髪にグレーの瞳だと」
「そうでしたか」
「フレアさまは、ドレスをどのようになさりたいのですか?」
「シャルル……さまの婚約祝の舞踏会に出たいので、薔薇のコサージュで破れや汚れを隠したいのです」
「わかりました、なんとかいたしましょう! 他には何か足りない物はございますか?」
「リボンと靴も欲しいのですが……」
「ああ、そうですね! リボンはその髪を縛っている麻紐に薔薇の花を付けて誤魔化しましょう。ですが、靴は商人でないと扱っていないのですよ……あとは手袋も必要ですね」
「そうでした! 手袋が……そういえば! ゼペットおじいさんからお借りした軍手を返すのを忘れていました。これです……」
「まあまあ、すみません。では、これはわたしから主人に返しておきますね。ところで、フレアさまはお金はお持ちですか?」
「それが……何もないのです」
「それは困りましたね……では、こちらでわたしの仕事を手伝ってください。わたしがフレアさまのレースの手袋を舞踏会までに編み上げましょう」
「本当ですか! それは助かります! どうもありがとうございます! わたしに出来る仕事とはなんでしょうか?」
「糸紡ぎです。糸車をグルグル回していただければよろしいです。1つ糸玉ができる度に銅貨を1枚差し上げます。10枚銅貨が集まれば銀貨1枚分に。銀貨が10枚集まれば金貨が1枚分になります。それで舞踏会の靴を買うとよろしいでしょう」
「本当ですか! どうもありがとうございます! それでは、早速、お手伝いいたします!」
「さあ、こちらへどうぞ!」
フレアは明かり取りの窓が1つあるだけの狭くて小さな裁縫部屋へ入れてもらった。
そこには大きな四角いテーブルが置いてあり、その上にはさまざまな裁縫道具が並べられていた。
フレアは裁縫部屋に生まれて初めて入った。
これらの道具を使い、フレアたちの豪華で繊細な衣装が作られていたのか。
フレアは感動を覚えた。
部屋の奥の台に小さな糸車が1つ置いてあった。
「あれがそうです。均等に引っ張りながら、踏み板を足で踏んで糸車を回しながらデコボコの糸を平に撚るのです」
「わかりました。やってみます!」
「がんばってくださいね」
フレアは懸命に糸を撚った。
暗くなると窓から差し込む月明かりを頼りに夜通し。
昼は食事をする間も惜しんで。
クロエは夜になると金髪碧眼になるフレアに驚きながらも、食事を分け与えレースの手袋を編み続けてくれた。
そして、フレアは遂に10個の糸玉を作り上げた!
「おめでとうございます。フレアさま! 糸玉を10個完成させたので、銅貨10枚を差し上げます。そしてこれが、編みあがったレースの白い手袋です。どうぞ、お納めください」
「ぐすっ、クロエさん……どうもありがとうございました」
「さあ、早く西の門へ行かないと商人が帰ってしまいますよ!」
「はい!」
フレアは銅貨10枚とレースの白い手袋をクロエから受け取った。
初めての給金に感動したフレアの目から涙が零れた。
フレアが生まれて初めて仕事で稼いだお金だ。
この経験は一生、忘れられないだろう。
フレアの白魚のように美しかった手は荒れてガサガサになっていた。
ところどころがササクレ、糸の摩擦で切れた指が痛む。
それでもフレアはうれしかった。
1人前の人間になれたような気分だった。
フレアは意気揚々と裁縫部屋を後にした。
この地下室を訪れてからすでに5日が経過していた。
久しぶりにまともに見る太陽はまぶしくて、フレアの目がチカチカとした。
鐘楼の鐘が6時を告げている。
寝不足と疲労でフラフラとしながら、フレアは西の門を目指した。




