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エピローグ

 後宮から礼拝堂へ向かう花嫁姿のフレアに、段々と人が付き従いはじめた。

 城の中にはフレアの進行を妨げる者は誰もいない。

 それはまさに一国の姫の輿入れの行列のようで、人の波が大きなうねりとなって城を覆い尽くしていった。


「これが、野ばらさんの言っていた人の持つパワーなのね。より多くの人々の心が合わさることで、魔法にも勝る力となるのだわ。野ばらさん、どうもありがとう。フレアは国の平和のためにがんばります!」

 

 フレアの元に伝令が寄ってきた。


「フレア姫! すでにすべての城門を軍隊が包囲しています!」

「どうもありがとう!」


 フレアはジャンヌダルクさながらに一行を従え、更に城の奥へと進んでいった。

 大きな礼拝堂に辿り着いた。

 中へ入ると、今まさにネリーとシャルルが誓いのキスをするところだった!


「その結婚に意義あり!」

「なんですって!」

「フレア!」


 ネリーとシャルルがキスを止めてこちらを振り返った。

 ネリーが花嫁衣裳を蹴散らしてこちらに走ってくる!

 フレアに掴みかかろうとするところを、衛兵たちに押さえ込まれた!


「ちょっと! おまえたち! 離しなさいよ!」

「ネリー……もう観念しなさい。城の周りは完全に包囲されているわ!」

「なんですって! 小娘の分際で生意気な!」


 突然、ネリーが髪を逆立て、目も口も真っ赤にして恐ろしい形相で衛兵たちをなぎ倒した!

 うしろから押さえつけたシャルルも跳ね飛ばされた!

 恐るべきパワーだ!

 ネリーはどうやら、悪い心が凝り固まって、魔そのものに取り込まれてしまっているようだった。


 突如ネリーがフレアに飛び掛かってきた!


「キャアアアアーッ! 助けてー!」

「おのれーっ! おまえさえ、いなければ! わたしは幸せになれたのに! シャルルと結婚できたのに!」


 ネリーがむちゃくちゃに腕を振り回し、フレアの長いベールを引き裂いていく!


「キャアアッ!!」

「くそうっ! おまえさえ、いなければ……!」


 そして、フレアの首を強い力で絞めつけはじめた!

 周囲の人間が止めようにも、見えないバリアのようなものができていて2人に近づくことができない!


 フレアの意識が段々と遠のいていく。

 絶体絶命でも、フレアは満足だった。

 国を救えた。人々を解放できた。シャルルが無事だった。

 それだけでフレアは生まれてきてよかったと思った。


 薄れゆく景色の中で、ステンドグラスのまばゆい光だけがフレアの瞼に刻み込まれていった。


「神さま……」


 フレアがもうダメだと思った瞬間!


「ネリー……もうおやめなさい……あなたは後宮ですら、入る資格がない人間だわ!」

「ギャアアアアーッ!」


 あの女性だった!

 地下室の暖炉の前で出会った、かつての後宮の女性。

 今は亡き彼女の亡霊が、ネリーの手を掴み、フレアの首から引き剥がしてくれた。


「おのれ! 後宮の分際でわらわを邪魔立てするとは!」

「フレア……どうもありがとう。誰にも返り見られなかったわたしのお墓をあなたは大事にしてくれた……」


「ギャアアアアーッ!」


 彼女はそう言って寂しそうに笑うと、ネリーと一緒に消えていった。



「フレア! 大丈夫か!」


 シャルルが駆けつけ、フレアを抱き起こしてくれた。

 2人ともボロボロだった。


「ハアハア……シャルル……ケホッケホッ……わたしは大丈夫。シャルルこそ……」

「ぼくは大丈夫だよ。フレア……よければ、このまま国民のために結婚式を挙げよう」

「シャルル……そうね。わたしでよろしければ……」

「もちろん! ぼくの花嫁はフレアだけだ!」


 フレアとシャルルはそのままバージンロードを進んだ。

 そして神に永遠の愛を誓った。

 2人は誓いのキスをすると、腕を組み皆の祝福を受けながら礼拝堂を後にした。

 

 フレアとシャルルは城のバルコニーへと進み出た。

 城の庭には門から入ってきた民衆と軍隊で溢れていた。

 皆がフレアとシャルルを見つけ一斉に歓声を上げた。

 

 それは2人の結婚を祝福すると同時に、国の安泰を確信した勝利の雄たけびだった。

 フレアとシャルルは民衆に手を振りながら、2人の幸せを確認していた。


「フレア……よかった。君のお蔭だよ。これからは力を合わせて明るい国造りをしていこう」

「シャルル……本当によかったわ。わたしもあなたとの国造りをお手伝いさせてください。2人でこれからもがんばって生きていきましょう」

「フレア……」

「……シャルル」


 2人は改めて国民の前で誓いのキスをした。


「バージニア国の繁栄を!」

「シャルル王! フレア妃! 末永くお幸せにー!」


 民衆が沸き立つなか、2人は永遠の愛を誓い合ったのだった。



 


 ネリーは城の外で倒れているところを発見された。

 彼女はそのまま両親が監禁されていた南の屋敷へ連れて行かれ、生涯そこから出ることは許されなかった。


 フレアは毎日、あの後宮の亡霊の墓へ薔薇を捧げた。

 彼女は賢夫人として有名だった側室で、国王にたいへん寵愛されたが、若くして病に倒れた。

 皆に病気を移したくないと、あの地下室で最期を遂げたそうだ。


「フレア……またここにいたんだね?」

「シャルル……ええ。彼女のお蔭でわたしはこうして生きていられるから……後宮だった女性を忘れたくないの」

「ぼくは後宮は作らないよ! 安心して!」

「シャルル……ありがとう。わたしも側室はもう、こりごりよ!」

「そうだね……君には辛い想いをさせてしまった……」

「でも、シャルル……わたしはあの出来事がなかったら、こんな風に国や民衆を理解することは出来なかったわ。辛い経験だったけど、わたしには必要な出来事だったと思えるの」

「フレア……君は強い。大人になったね」

「後宮で精進させていただきました! ときに苦労も、人には必要なものなのね」

「それはその人の心がけ次第だよ。フレアのように前向きに対処できた人は珍しいよ。よく、がんばったね」

「ええ……あなたと結婚したい一心だったわ。シャルルのお蔭よ!」

「幸せになろう、フレア!」

「はい。それが国民のためでもあります!」



 フレアはシャルルと力を合わせ立派な家庭を築き、素晴らしい国造りをしながら、生涯しあわせに暮らしたそうだ。

 


(後宮より愛を込めて おわり)

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