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夏、太陽と友達 1

 あの教室の一騒動以後、少しの間、私は時の人になっていた。

 私は平和な青春を過ごしたかっただけなのに、こんな風になるのを望んでいたわけではないのだが。

 美樹と杏奈は、あの日クラスにいなかったのだが、クラスの誰かから聞いたみたいで次の日の朝にはしつこい位の質問攻めに合った。

 また、昼にもなれば、昼食を食べるメンバーを中心に根掘り葉掘り聞かれることになると、ホントに散々な目にあった。

 そのおかげと言ってもいいのだろうか、その日のうちに何とかクラスの中限定であるが、誤解を解くことは出来たような気がする。

 ただし、同じ部活動の先輩等、距離のある人たちの誤解は大きな原因があって、なかなか解けない。

 その原因とも言える存在は、やはりと言うか、やっぱり、新田香織だ。

 クラスの中ではまだ、いつもの香織だからいい。

 誰からも話しかけられないし、話しかけないような置物みたいなものだから。

 ただ、部活動が問題だ。

 今の今まで、帰宅部だったくせして、いきなり私と同じ女子テニス部に入ってきたのだ。

 どうしてこんな半端な時期に入部してきたのかと詰め寄れば、今まで入る部活を探していたんだとか新しくやりたいことを探していたとか何も探してもいなかったくせにぬけぬけと私に言ってきた。

 次にテニスはやったことあるのかと聞いたら、入部する前日から練習し始めたと衝撃的な答えを聞いて、私は呆然とした。

 自意識過剰かもしれないが、私だけが目的でよくもそれで入ってきたものだ、と。

 そして、私とともに噂の中心人物である香織に、私とのことを聞いたりする先輩たちがいるみたいだ。私が直接見たわけでもなく、美樹や、杏奈が見たことの又聞きでしかないが。

 ある先輩は興味本位で、またある先輩は話しかけるきっかけにその話を振ったり等様々な状況で、だ。

 香織も香織で、しっかりと否定してくれればいいものを、何故か満更でもないような顔をしながら、曖昧な態度を取っていたらしい。

 これでは、誤解を解こうとして、色々と言っていた私が必死で誤魔化そうとしているだけに見えてしまう、と言うかそうとしか見えない。

 それを分かっててやってるのか――いや、分かっててやってる。

 あの女は、こういうことを計算してやっているはずだ。

 その彼女といえば、部活動でも相変わらずやる気があるのかないのか分からないような感じだ。

 だが、しっかりとやる事はやるので悪い目では見られていないと思う。

 悪い目で見られていないのならば、まぁ、いい。

 私達一年生が悪く見られないという意味でも。

 それに、同級生間でも美樹や杏奈曰く、話してみたら、話しやすいと悪くない印象を与えているようだ。

 途中から入ってきた香織を含めて、同級生間のまとまりという意味では出来ていると思う。

 こうやって、悪くなくどちらかと言えば肯定的な話が多いのだけど、私の中ではそれよりも私と香織の仲の話をする時の彼女の感じをもう少し否定してくれる雰囲気になってくれないものかと考えているのだが、彼女は一向にしてくれない。

 そんな鬱々とした気分も七月も中旬、梅雨が開けて暑く晴れた日が顔を覗かせいくと同時に少しずつ私の心も晴れていく。

 この頃になると流石に同じネタで私をからかうのも飽きてきたようであまり言われなくなったのもある。

 それと、学校行事で楽しみにしていることもあるからだ。

 期末テストも終わり、夏休みまで消化試合と化した残り3週間。

 インターハイ目前であるにも関わらず、行われる球技大会だ。

 女子の種目は、バレー、バスケ、テニス、卓球。

 男子だとバレー、バスケ、フットサル、卓球という具合だ。

 もちろん、私はテニスで、他には美樹、杏奈、そして、香織だ。

 出場ペアは各クラス二ペアで合計八ペアとなる。

 学年ごとに最初トーナメント戦をやって、学年トーナメント優勝ペアが最後のトーナメント戦に出場できるというものだ。

 最後のトーナメントは各学年トーナメント優勝した3ペアによるものなので、一ペアだけシード権が与えられる。

 このシード権は公平を期すためにクジで決められるらしい。

 試合ルールは三セットマッチのダブルスなので、ペア分けしないといけない。

 軽い話し合いの結果、ペア間のパワーバランスを取ることになり、私と杏奈、美樹と香織という分かれ方になった。

 香織は一緒がいいというようなことを言ってきていたがこの際無視した。

 話し合いの間、香織が色々と茶々を入れてきたりしてうるさかったのだが、私は悪い気分ではなかった。

 それよりも球技大会が待ち遠しかったから、香織のことが気にならないほど気分が良かったというのもある。

 部活動では、基礎練習は上級生に混じってやらしてもらえるのだが、その後の練習は基本的にインターハイに出るメンバーが中心で、練習であっても試合はやらしてもらえない。

 それだけ、力を入れて練習しているのだから、そのことに不満を抱いてるわけじゃない。

 ただ、久々に試合がやれると思うと、それだけで楽しみになるのだ。

 そして、ついでのように思い出す。

「ねぇ」

 隣で寝ている香織に声をかける。

「んー?」

 間を置かずに返事が返ってくる。

 最近分かってきたのだが、香織は結構寝た振りをしていることが多いということだ。

 腕を枕にして、机に突っ伏しているのだが、休み時間は結構それで起きている。

 何でそんなことをしているのかというのは私の知る由もない。

「まともにボール打てるようになったの?」

 別に公式の試合でもないから、出来なくても全く構わないのだが、一応聞いておこうと思ったのだ。

 ボールを打てないようなのと組ませてしまったのなら、美樹には悪いと思う。

「もう少しで仕上がるから、当日びっくりさせてあげる」

 そう言いながら、ニヤリとした笑みを浮かべた。

 その作った表情に少しだが、イラッとさせられる。

 これに限らず、イラッとさせられることが多くあるのは、香織のことが気に食わないのもあるだろう。

 そして、勉強にしても、スポーツにしても、様々なことをやる気さえあればこなせてしまう才能の塊みたいな香織に嫉妬しているんだ。

 人に嫉妬すること事態は、よくあることだ。

 私が負けず嫌い気質なのもあって。

 だからこそ人よりも頑張って、実力が上の人たちに食い付いていけていたんだと思う。

 それでも、香織と話す時みたいにこんな全面的に感情を出して話していたわけじゃない。

 ただ、彼女を前にするとどうにも隠せない。

「ボール打てるぐらいになった程度じゃ驚かないから」

「そんな低いレベルで見てたら、腰抜かすよ」

「私と打ち合えるぐらいにでもなるって?」

「私、天才だからね。運動も勉強も」

 この前テストが終わった時から、香織はちょくちょく自分のことを『天才』と言うようになった。

 天才であるかどうかはともかく、授業を聞いていないのに勉強が出来ると言うのは、私からしたら卑怯だとは思ってる。

 数日前のことを思い出す。

 数学の授業で、少し難しい応用問題を先生が出した。

 授業の終わりが近くて、進めてしまうとキリが悪かったんだと思う。

 しかし、これが意外と難しくてホントに今までの授業内容で解けるのかと思う難問だった。

 私を含めみんなが頭を悩ませているのに、いつも通り香織は寝ていた。

 いいご身分だ。

 しかし、教室が騒がしかったのもあるかもしれないがもそもそと香織が起きだして、私のノートを隣から覗き込んできた。

 二、三秒見ていただけだと思う。

 突然私のシャーペンを奪ってスラスラと答えを書き始めた。

 私が呆然と眺めていると、答えを書き終わり、また睡眠の体勢になった。

 間違っていたのなら良かったのだが、正解させていたのは、悔しかった。

 悔しかったがどうやってその答えにいき付いたのか、聞いてみたら、

「んー……今日の授業の内容聞いてたら分かるでしょ」

 小首を傾げながら返答を頂いた。

 可愛くないし、腹立たしいだけだ。

 この香織という人物の性格が全く読めない。

 今もこうして人を苛つかせる様な感じではあるが、時折違ったところも見せてくる。

 例えば、私が復習してると隣から覗き込んできて、「その問題、テストに出るよ」とか言ってくるのだ。

 どうしてそんなことを言ってくるのか。

 私が好きだから優しくされていると言うのは、寒気がする。

 普通に相手したら、私なんて相手にならない雑魚だから、ハンデのつもりで教えてくれているのか。

 どちらにしても、香織の行動の意図がよく分からない。

「天才だかなんだな知らないけど、昨日今日始めた香織ぐらい片手で捻ってあげるから、安心しなよ」

 昨日今日始めた香織に負けたくないのは本音だ。

 これで負けるのは私のプライドが許さない。

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