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秋、二人の夜

 四人で仲良く談笑に耽りながら、家に帰った。

 こんな姿を親に見せたら、泣かれるかもしれないと思い苦笑を浮かべる。

 私が家に同級生を呼ぶなんて、ほとんどなかったせいだけど。

 明かりが点いたリビングに入るとそこには一人の男性がいた。

「お嬢! 遅いから心配しましたよ!」

「ヤクザの娘みたいに思われるからやめてって何度も言ったよね?」

 相手の言葉を無視して、無表情で伝える。

 私よりも少しだけ高い身長に、黒色の短髪。

 黒いスーツを着て、その言い方だからカタギの人間に下手すると見えない。

 顔に大きな傷だったり、入れ墨がないのが幸いだ。

 その男性は顔だけ見れば、若く清々しい印象を相手に与えるのだが、童顔で若く見えているだけで年はそこそこいってるし、清々しいのは第一印象止まりで接するとただ振る舞いがキザなだけだったりする。

 両手をガシっと強く男性に包まれた。

「お嬢に何もなくてホントに良かった! 何かあったら、俺……!」

 いつも思うが、なんでこの人はいつもリアクションがここまでオーバーで、演技っぽく話すんだろうか。

 たまに会うぐらいだからいいのだけど、同じ部署で働いているであろう睦月には少しだけ同情を覚える。

 後ろからは、

「お嬢? お嬢って?」

「新田さんってお嬢さんなの?」

「香織、知ってる人?」

 三者三様の疑問を放たれて、対処に困る。

 前門の荒木、後門の三者。

 逃げ場がない。

 どれを優先して答えるのがいいかと考えたが、目の前にいる男性から紹介していった方が何かと楽になりそうだと判断した。

 決して、比紗子のから答えようと思ったわけではないし、他の二人のに対して答えるのが面倒くさいとは思っていない。

「お父さんの秘書。荒木博之だっけ」

 父曰く、腕っ節はなかなからしい。しかし、現代では腕っ節が良くても披露する場面なんてそうそう訪れることはないから、完全に無駄である。

 じゃあ、何で雇ったのかというと、仕事が出来るからだ。

 事務作業に関しては睦月の方が出来るらしい。だが、私の親と出張に行くと、相手の会社の人と何故か荒木が仲良くなっているということがあると聞いた。

 人当たりもよく、懐っこい笑みを浮かべているから、相手としても接しやすいという話なんだと思う。

 その辺りは睦月には向いていないことだ。

 あの人は無愛想だし、人付き合いも事務的なところがある。

 仕事なのだから、営業用の愛想の良さはあるかもしれない。

 けど、あくまで営業用だ。

 それ以上の在庫は持ち合わせてない。

「やっぱり、新田の家はすごいね。広いし、イケメンもいるし」

 荒木がイケメンなら、今井さんの顔の基準は相当ハードルが低いのだろう。

 しかし、この場に荒木がいても邪魔だ。

 男手が必要な場面では役に立つかもしれない。ゴタゴタした状況であれば活用する手立てはいくらでもある。

 だけど、今この場にはその能力は必要ない。

 こういう時に睦月だったら、空気を読んでくれる。それに、さり気なく私のフォローに回る位置にいてくれて、やりやすいんだけど。

「荒木、みんなで食べるものがないから、とりあえず近くのスーパー行ってくれない?必要な物はあとでメールするから」

 こういう時、スッと買い物のメモを書き付けて出せれば良いのだけど、冷蔵庫の中身が不確かでそんなことが出来ない。

 昨日はあるものササッと炒めて焼いて食べていたのと、今日比紗子たちを泊めるなんて考えていなかったからだ。

 冷蔵庫にある実際の量と物が違ってしまう可能性もあるから、これがベストな判断だと思う。

 それに荒木を家から追い出せる。

「はい!喜んで、お嬢!」

 言いながら、もう車まで走っていく。

 ホント使いっ走りには便利だ。

 あのわざとらしい演技なような態度がなければ、尚の事いいと思う。

 だけど、あれを取ってしまうともしかしたら無個性かもしれない。

 それを気にしてあんな風にしてるなら、もっと別な感じにした方がいいと思う。

「変なのがいたけど、気にせず寛いでて」

 冷蔵庫を確かめる前に荒木がスーパーに付いてしまうような予感がするけど、それは気にしないことにした。


 荒木を使いっ走りにして買ってきてもらった食材で鍋にして楽しいご飯の時間も終わり、非常に残念で悔やまれるのだが、一人ずつお風呂に入ることになった。

 二人ずつ入ろうと提案した時に、今井さんはどっちでも良さそうだし、川上さんは顔だけは乗り気で口では一人ずつがいいと言っていた。

 だけど、比紗子は違った。

 思っていたよりも比紗子から反対された。

 ホントは二人ずつ入りたかったが、比紗子の強固な反対により断念せざる得なかった。

 絶対に今度二人っきりで泊まる時には必ず二人でお風呂に入ろうと強く心に誓った。

 ドキドキするようなお風呂イベントもなく、それぞれお風呂を済ませてしまった。

 けど、寝る服は全員用意出来ていなかったから、私が貸し出すことにした。

 用意する時間もなかったから、当たり前の話だが。

 今井さんと川上さんには、私が普段着ているTシャツにハーフパンツ。

 比紗子には昔着ていたちょっと薄めの白のワンピースを貸し出した。

 比紗子に貸したワンピースは、完全に私の趣味だが、良く似合っている。

 寝る場所については、新しく布団を出してこようと思ったら、どこに仕舞ったのか忘れてしまったため、すぐに寝る場所として利用できる私と親の部屋を使うことにした。

 もちろん、比紗子は私と一緒に私の布団で寝る。

 川上さんと今井さんには私の親の部屋で寝てもらうことにした。

 親の部屋と言っても、一年の間で、ほぼ使われることのない部屋だから、客室みたいに扱ったとしても文句は言われないだろう。それに今夜は親もいないから、黙ってれば気づかれることはないと思う。

 貴重品は別のセキュリティーのしっかりした部屋にあるため、何もしないと思うけど心配することはない。

 二人を親の部屋に行かせれたことで、今私は比紗子と二人っきり。

 部屋も暗くして、二人で布団に入っているという好シュチュエーション。

 暗くしているので、顔色まで見えないのがちょっとだけ残念だけど、そこは脳内補完でどうにかしておこう。

 例え何かあったとしても、すごい大きな音とか声を出さない限りは、親の部屋で寝ている二人には気が付かれないと思う。

 防音がしっかりしているわけじゃないが、部屋が離れているのが大きい。

 二階にあるトイレの反対側に親の部屋があり、私の部屋はその中間にある。

「絶対に変なことしないでよ」

 口を尖らせて、比紗子に上目遣いで見られている。

 これでホントに睨んでいるつもりなのか分からないけど、あまりにも可愛すぎて、このまま抱きしめて、色々としてしまいたくなる衝動に襲われているけど、ここは一先ず我慢。

「変なこと考えてたでしょ、今」

「考えてない、考えてない」

 考えていても言えるはずがない。

 プイッと顔を背けられたと思ったら、そのまま背を向けられてしまった。

 ちょっと残念だと感じたけど、これはこれで美味しい状況になったのではないかと考える。

 なぜなら、今なら比紗子にバレること無く、後ろから抱きつくことが出来るのでないかだろうか。

 それなら早速と、手を伸ばそうとした時だ。

「香織」

 小さな声で、比紗子が話しかけてきた。

「ん? どしたの?」

 伸ばした手を引っ込めた。

 バレてはいないだろうが、引っ込めておかないとその内にバレてしまうかもしれない。

「今日は……ごめん。それに……ありがと」

 お礼を言われるほどのことをした覚えはない。

「別にいいよ」

「それでも……ね」

 背中越しだから、比紗子がどんな表情か見えないのが非常に残念でならない。

「テニスの腕は勝ってるのに、心で負けてるなんて、ちょっと悔しい」

「テニスもすぐに追い抜くけどね」

「あんたには絶対に負けないから」

 声の調子がいつもの感じに戻ったよう気がした。

「じゃあ、私が頑張ったご褒美頂戴」

「はあぁ?!」

 意外と大きな声を出しながら、こちらに振り返ってきた顔は、沈んだ暗い表情でなく、いつものような恥ずかしそうに顔を赤くしているように感じる。

「それなら、さっきお礼言ったじゃん!」

「それはそれで嬉しいけど、やっぱり何かしてもらったりして欲しいかなー」

「だから、それなら、さっきしたし、どれだけ欲張りなのよ……」

「えー? けど、比紗子泣きそうになった時、私一人で頑張ってたんだよ?」

「それはそうだけど……」

「だから、何かしてよ、比紗子」

 比紗子が目を伏して何かを考えていたが、すぐに目を上げた。

「何かって、何よ……」

 比紗子の弱い部分を責めてみたが、案外今日は有効だったようだ。

「んー……キスかな」

「何言ってんのよ!!」

 こういうときの比紗子はいつもなら、耳まで赤くしていると思うが、見えないのがとても残念だ。

「出来ないよね、比紗子には」

「そんなこと! そんなこと……!」

 否定もしないが、肯定もしない。

「出来ないわけないじゃない……いつも香織がしてきてるじゃない」

「今日は比紗子の方からだよ」

 瞬間、比紗子の息を呑む音が聞こえた。

「そんな──っ!」

 今どんな顔をしているのだろうか。

 電気を点けて、ぜひとも確認をと思うのだが、そんなことしたら、親の部屋にいる二人が来てしまう可能性があるから出来ない。

 とてももどかしい。

「やっぱり、比紗子には無理だよね」

 フッと笑みを口元に浮かべて、体を起こした。

「ど、どこか行くの?」

 比紗子がきょとんとした顔でこちらを見てきた。

「え、トイレだけど、一緒に行く?」

「行かないから……」

「今日はホラー映画見てないしね」

 そう言ってベッドから降り歩き出そうとしたところ、比紗子が私の寝間着の短パンの裾を弱い力で掴んできた。

「さっきのこと、出来無いわけじゃないから」

「そっか」

 比紗子に笑みを向けて、裾を掴んでいた手を外し、前を向いて歩き出そうとした。

「え、あちょ──」

 しかし、再び歩き出そうとした時に、足を何かが滑っていった。

 そして、足が何かに引っかかり、バランスを崩して見事に転んだ。

 手をついて、体を起こした。

 足の方を見ると、短パンが足に引っかかるようになっている。

 それを掴んでいた比紗子が半分ベッドから落ちていた。

 まさか掴み直していたとは。

「比紗子、痛いんだけど」

 強く短パンにを掴んでいるのか、短パンは履けない。

 手で体を支えているが、今日はちょっと昼間に頑張ったから早めに手が痛くなってきた。

「だから、出来るから、する」

 そう言うや否や、裾を掴んでいた手を離した。

 状態を立て直し比紗子がベッドから降りた後、私の体の上で仁王立ちした。

 比紗子の方に向き直る際、扉が少し開いているように見えたが気にしないでおこう。

 私が仰向けになると、比紗子が私の上に乗ってきた。

「随分と積極的だね」

「うるさい」

 比紗子が屈んできて、顔が近づく。

 目が潤んでいるのがなんとも情欲を唆らせる。

「そういう比紗子も私は好き」

「う……うるさい……」

 比紗子がぐっと顔を近づけてきた。

「目開けたら、絶対に許さないから」

「比紗子の顔、見ながらしたいな」

「絶対ダメ。それに……キスする時は、目を閉じてするのが普通でしょ」

「えー」

「じゃあ、やらない」

「分かった、分かった」

 言われる通り、目を閉じた。

 比紗子の顔が更に近づいたのか吐息が当たる。

 緊張しているのがこちらにも伝わってくる。

 不規則に吐いたり、止まったり吸ったりとしていて、安定する気配がない。

 それが永遠に続くと思っていた。

 すると不意に比紗子の唇が重なった。

 優しいキスだ。

 比紗子が私の唇に触れて感じているような。

 胸の中に一気に比紗子への思いが広がる。

 ずっとこうしていたい。

 愛しくてしょうがない。

 無意識の内に、比紗子の頭の方に腕を回していた。

「や、もう、終わ──」

 唇を離した比紗子は離れようとしたが、引き戻して、今度は私からする形になった。

 さっきのように優しく触れるようなキスではなくて、今度はもっと力強く深く唇を重ねる。

 舌で比紗子の唇を舐めたら、体が少し跳ねた。

 驚いたのかなと呑気に思った。

 私はもっと比紗子が欲しいんだ。

 驚いた拍子に口が開いたので、その隙間に舌を入れると歯に触れた。

 頑なに閉じられた歯たちはちょっとやそっとでは開かれないだろう。

 だから、力を込めてもっと比紗子を抱きしめた。

 嫌がるように頭を左右に動かそうとするけど、私がそうさせない。

 すると、最初は頑なだったけど、段々と息が苦しくなってきたのか、口が開いてきた。

 そこに舌をねじ込ませる。

 比紗子が私みたいな性格ならば、この瞬間に口を閉じて、私の舌を噛んでくるだろう。

 だけど、比紗子はそんな性格ではないから、それはしないだろう。

 比紗子の舌に触れる。

 力を込めている腕を通して、比紗子の体の強張りを感じられる。

 今どんな顔をしているんだろう。

 耳まで真っ赤にしているのだろうか。

 目をぎゅっと閉じて、必死な顔をしているのだろうか。

 気になるけど、もう少し堪能してからにしておこう。

 舌を絡ませようとするけど、くぐもった声で逃げようと抵抗がある。

 けど、この距離では逃げることが出来ないから、比紗子の抵抗虚しく私は舌を絡ませることが出来た。

 それはそれで、今の私にとってはイヤラシイものに感じる。

 何度も舌を絡ませては、舐めるように動かしたり、吸い付いたりしていると比紗子からの抵抗がなくなった。

 周りの音はなくとても静かだ。

 まるで、世界から音が消えて私と比紗子の二人だけになってしまったように感じる。

 だけど、私達の荒い息とくぐもった声、それに舌を絡めた時の水音が響くこの狭い空間だけは、アダルトな雰囲気に包まれていて、世界からは浮いている。

 目を薄っすらと開けると、顔を真赤にしてした比紗子が目をぎゅっと閉じているという予想通りの姿だ。

 けど、目の端に涙が浮いているのを見て、私らしくない感情ではあるが、少しだけ心が痛くなり、比紗子を抱きしめていた腕の力が緩んでしまった。

 それに合わせて、比紗子の舌が、唇が、顔が離れる。

 そのまま逃げられるかと思ったら、力が抜けたように倒れこんできた。

 比紗子の顔が横にあり、荒い息が耳にかかってくすぐったい。

「香織の、バカ」

 返事の代わりに、比紗子を抱きしめた。

 抵抗する力や元気が無いのか、腕の中で大人しい。

「舌まで入れてくるなんて……良いって言ってない」

「それ、聞いてるのなんて見たことも、聞いたこともないよ」

「それでも聞いて……こんなのしたこと無いし……初めてだし……」

 後半になるにつれて、声が段々と小さくなるが、耳に近いおかげでどれだけ小さくなってもしっかりと聞き取れる。

「私も初めてだよ」

「香織は良いの」

 私に対しては、いつも通り扱いがよろしくない。

「けど、比紗子、最後には受け入れてくれてたじゃん」

「香織が離してくれないから……諦めてただけだし……」

「その割に、比紗子の方から絡ませてきたんだけどなー」

「そんなこと無い……絡ませてないし……」

「じゃあ、もう一回やる?」

「やらない、絶対やらない」

 そう言いながら、比紗子の手が体に回ってくる。

 比紗子はホントに素直じゃない。

 体と心がバラバラで、そこの反応も面白くて良いのだけど、やはりどちらも合わさった素直の反応も見てみたい。

 きっと今だって、比紗子にとっては無意識な体の動きなんだろうな。

「香織、顔赤くして、なんか変な顔してた」

「比紗子とキス出来てるんだし、嬉しいし、それにやっぱり興奮するじゃない」

「……バカ、それに変態」

 言葉とは裏腹に私を抱きしめている腕に力が入る。

「香織のせいで、私変になってる」

 私のせいにされているのは、非常に心外である。

「私こんな風じゃなかったし、香織といる時は調子が狂いっぱなし」

「認めちゃえば?」

「何を認めることがあるのよ。香織が……」

 言葉が途切れて、ただ吐息だけ聞こえる。

「……香織のことなんて、嫌い……だし」

 ここまで頑なだと過去に何かあったのかと思うのだが、比紗子の家に行った時にアルバムや昔の話を見聞きさせてもらった。

 だけど、比紗子はホントに普通のありふれた生活を送っていただけのはずだ。

 ドラマティックなことや、トラウマになりそうな事がなかったと考えるなら、ただただひたすらに、比紗子が自分の気持ちを無視して、そう思い込んでいるだけということになる。

「……嫌いな相手とあんなことしちゃうんだ」

「うるさい。香織のことは嫌いよ。嫌いなんだから……」

 徐々に威勢がなくなっていく。

「嫌いってことにしておいて、じゃないと……」

 耳にかかる吐息に熱がこもる。

「……分かってよ」

 これはちょっと卑怯だ。

 一気に心を撃ち抜かれたような気がする。

 今、比紗子に顔を見られなくて良かった。

 きっとすごいニヤついた顔になっていると思う。

 比紗子は気持ち悪いって言うけど、こんなことを言われて嬉しくならない人はいないでしょ。

「ねぇ、比紗子」

「……何?」

 随分警戒している硬い声だ。

 その声をあえて無視して、転がって横になる。

 私の体にピッタリとくっついていた、比紗子の足が落ちる。

「な、なに?どうしたの?」

 そのまま比紗子を仰向けにして、今度は私が比紗子の上に乗る番だ。

「ちょっと、香織、もう──」

「今度は私がしてあげる」

「もう、いいから──!」

 そう言って、顔を逸らす比紗子を無理やりこちらに向けさせる。

「香織……」

「分かってるって。私の事嫌いなんだよね、比紗子は」

 目を潤ませて見つめられるのは、嗜虐心をくすぐられる。

「そうだよ……私、香織のこと嫌いだから、やめて……」

「嫌」

 一気に顔を近づける。

「お願い……香織」

 比紗子が自然と目を閉じる。

「比紗子が嫌がることなら、いっぱいしたいからね」

 そう言うと、私も目を閉じて、唇を重ねる。

 舌を動かそうとすると、比紗子の口が少しだけ開かれるのを感じた。

 比紗子の口の中に舌を入れれば、比紗子の方からのもおずおずとした感じで伸ばされて着ていて、程なく絡まった。

 気分的にはもっと先のことを考えてしまうけど、そんなことしたら比紗子が嫌がるだろうか。

 ある程度は受け入れてくれるかもしれないが、少しずつ二人で先に進んでいけばいいだろう。

 私たちは、まだ高校1年生であり、卒業まで時間もあれば、将来なんて途方も無い未来への時間があるのだから。

 けど、もう少し何かしても良いのかもしれない。

 今になってしまえば、比紗子からも遠慮しているのか、怖がっているのかわからないが、舌を絡ませようと動いてくれている。

 今比紗子から指摘したら、絶対に顔を赤くしながら大きな声で否定するだろう。

 この部屋が一般家庭並みの防音対策してないのは、前に泊まりに来た時に比紗子は知っているはずだ。

 大きな声を出せば、今井さんや川上さんに聞こえるということまで、考えられない状態なんだろうね。

 そこまで考えれないほどに私とのことに夢中になってくれているのなら、それはそれで嬉しい。

 片目を開けて、比紗子の顔から視線を下げて、体の方まで見ていく。

 胸に視線が戻り、見つめてしまう。

 こうして仰向けになっていても、比紗子の胸はしっかりとそこにあるのが分かる大きさなのが羨ましく思う。

 ある程度大きさがある人じゃないと、仰向けになってしまうと重力に負けて潰されて見えなくなってしまう。

 今自分の胸は、比紗子に馬乗りになっているから、下を向いている。

 普通なら垂れてくる状態のはずなのに、私の胸はならないのだから、悲惨そのものだ。

 だから、そう、大きくて、柔らかい胸にも興味は湧く。

 考えていることが考えていることだったためか、無意識に手が比紗子の胸に伸びていた。

 ブラジャーの感触も合わさるだろうが、それでも自分にはないものだから、少しだけ女性としての感触を経験しておくのだ。

 自分の胸では膨らみもなく、柔らかいと思う場所が乳首しか無い。

 ゆっくりと手を伸ばして、片手で比紗子の顔を固定する。

 程なくして胸に片手が到達して、優しく、しかし、感触を確かめる意味でもしっかりと揉む。

 手に力を入れる。

 柔らかい。

 とても柔らかい。

 これを、脂肪の塊だとかいう人もいるが、これほど触り心地がよく柔らかくて、いくらでも揉んでいたくなるものなのを、脂肪の塊だなんていうのはもったいない。こんなにも揉んでいるだけで安心や安寧を呼ぶ素晴らしいものではないかと考える。

 私が比紗子の胸を揉みながら、そんなことを考えていると、比紗子の頭が揺れ、私の拘束から逃れようとしている。

「ん……! んん……!」

 口が塞がっているから、何を言っているか分からない。

 けど、ただ我慢する声からは変化が起きている。

 そして、今になってもう一つ気がついた。

 ブラジャーの感触がまるでなかったことに。

 あのブラジャーのカップやワイヤーがない。

 つまり、比紗子は今ブラジャーを付けておらず、これは生の感触だと。

 比紗子が、私の両腕を強い力で掴んでくる。

 手を掴まれたわけではないので、不自由はないから、嫌ってわけではないと思う。

 胸を触っている間は、眉が少し下がり何かに縋りたいのか、比紗子から舌を絡ませようとして動く。

 そして、固くなっている場所をいじった時には、荒い息が一層荒くなり、目はギュッと強く閉じられる。それに、いじっている間ずっと、私の舌が比紗子に吸われ続ける。

 それに触るのに合わせて、声にならない嬌声が比紗子の口から漏れてきている。

 比紗子は気持ちいいとこんな声出すんだと頭の中にしっかりと刻み込む。

 このまま窒息しても、幸せの中だし、それもそれでありだ。

 だけど、ここで満足してはいけない。

 もっと先へ、もっと幸せになる歩みを止めてはいけない。

 誰かがそう言っていた気がする。

 触るのを止めて、比紗子の顔を固定していた拘束を緩めて、口を離す。

「触っていいなんて言ってない!!」

「これも聞かないとダメなの?」

「当たり前でしょ!!」

 息が荒いのはまだ興奮が冷めていないのか、怒っているからなのか見分けがつかない。

 多分前者なのではないかと推測する。

 なぜなら、私がまだ興奮から冷めていないからだ。

「だから、そういうところが……香織のこと嫌いなんだから」

 比紗子に嫌いって言われるたびに胸が、心に幸せが満ちていく。

「比紗子に嫌いって言われると、告白されてるみたいで嬉しい」

 笑顔で伝えると、パクパクと魚が息するように比紗子の口が動く。

「バ、ババ、バカじゃないの!? バカでしょ!! バカ、バカ! バカ……嫌いって言われて喜ぶとか、ホントにバカじゃないの……」

「だって、比紗子のこと分かってるから」

「じゃあ、嫌いってこと分かってよ……」

「ホントに比紗子は素直になったらいいのに」

「素直じゃない。香織のこと嫌いって言ってるし」

 比紗子がそういうのであれば、そういうことにしておこう。

 体を起き上がらせて、立ち上がる。

 私が立ち上がると、比紗子も体を起こした。

 下がっていた短パンを上げて、歩けるようにする。

「どこかに行くの?」

「トイレ、さっき行く途中だったから」

「私も行く」

「一緒にいく?」

 呆れた顔を一瞬向けられて、比紗子が立ち上がった。

「バカなこと言わないで。香織が終わってからゆっくり入らせてもらうから」

 比紗子がドアの方に歩き出すと、バタバタと去っていく足音が聞こえた。

「ねぇ、香織」

 低い声で名前を呼ばれた。

「どうしたの?」

「気がついてた?」

 比紗子の体は、扉の方を向いたまま固まっている。

「うん、最初から」

 扉は開いてたのは知ってたけど、ホントは誰かいるとは思ってなかった。

 勢い良く振り返ってきた比紗子の顔は、耳まで真っ赤になっているように見える。

「なんで言ってくれなかったの!!!」

「えー」

 言ったら、やってくれなかっただろうから言わなかったなんて言えば、火に油を注ぐのが目に見えた結果だから、言わない。

「最初からって、どこから!」

 考えるが、どこからいたのか正確には分からない。

「比紗子が私を押し倒したところからじゃない?」

 比紗子の顔から赤みが消えたように見えた。

 心情の変化でここまで顔色が変化が激しいのは、それほど感情が豊かということではないだろうかと考える。

「最悪……絶対なんか言われる……」

「そしたら、堂々と好きって言って、動けるじゃない」

 目に力が入る。

 睨みつけてくるかと思ったら、やはり上目遣いだ。

「嫌いだから! それに、人前で香織とそんな動きたくない」

 言葉と行動があってないけど、野暮なことは言わない。

「絶対二人から変な目で見られる……」

「キスしてたら、カップルって見られちゃうね、比紗子」

「最悪……」

 比紗子が肩を落として、部屋を出ていこうとしたので、私も後をついていく。

 帰り際に嫌いものを見てしまったが、こうして今日一日が終わって見ればたくさんのことがあったと思う。

 色々な比紗子の顔も見れた。

 このまま比紗子と愛を育める良い環境であって欲しい。

 そう願いながら、また比紗子を後ろから黙って抱きしめた。

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