夜のラボラトリー
ガショガショガショ・・・
皆さんこんばんは、いきなりだけど、俺は逃げています。
何からって?
人体模型からだ。
笑い事でも嘘でもない。
表情は変わらないし内蔵や脳味噌の一部が見えているから中々にホラーだ。
どうしてこうなったかは20分ほど前に遡る。
「よっしゃー、でっきたぁー」
フラスコに入った蛍光イエローの液体を天に翳して俺は喜んだ。
11年3ヶ月と8日を費やして作り続けた物がやっと完成したのだ。
これがあれば人形をしたものを動かすことがで来るのだ。
なぜこんなものを作ろうとしたかは忘れたが、とにかく完成したのだ。
高鳴る鼓動を押さえつつ俺はこの液体の名前を考えた。
「ふぇっくしょい!!」
突然鼻がむずむずっとして、俺はくしゃみをした。
ガシャン・・・
ガラスの割れる音が聞こえた。
手に持っていた筈のフラスコが床に粉々に散乱し、せっかくの夢の液体も飛び散っていた。
「・・・マジでかーー!!??」
ありえない失態だ。
くしゃみをしてフラスコを叩き割るなどする訳ないと豪語していた自分がものすごく恥ずかしい。
そんなことは考えつつも、とりあえずガラスの欠片を集めようと体が動いた俺は差し出されたホウキを受け取った。
ん?
受け取った??
この実験室には俺しか居ない
つまり差し出す相手が居ないのだ。
ホウキから目線をあげるとそこには人体模型が雑巾を片手に立っていた。
俺は驚きの余りラボを飛び出した。
至る現在。
相変わらず俺は追いかけられている。
しかし、俺は体を動かすのが苦手なため、息が切れてきた。
と言うか、いい加減呼吸が苦しい。
更に言うなら、毛細血管が切れたのか血の味がする。
何事も永遠には続かない。
この恐ろしいおいかけっこも終わりの時が来た。
俺は足がもつれて転んだ。
人体模型はすぐそこまで迫っていた。
「オトウサン、ケガシタ・・・」
ふと、人体模型がしゃべった。
その声は俺の幼い娘の声だった。
「はな?」
「オトウサン、モウイイヨ
ハナオトモダチイッパイデキタ」
「オトウサン、アリガトウ」
ガシャン・・・
人体模型は床の上に崩れた。
それからはピクリともせず、先程まで走っていたのが嘘のようだった。
「そうだ」
思い出した。
なぜ人形をしたものを動かすことが出来る薬を作ろうと思ったか。
娘の、はなのためだ。
俺はそんな大事なことを忘れていた。
生まれたときから体が弱くて医者からは長く生きられないと言われたはながずっと笑っても居られるように友達をつくる。
そのために俺はずっと研究していた。
けど、はなはもう随分と前に死んだ。
娘が死んだ事実から目を背けるように俺は研究に没頭した。
目から雫があふれでて白衣とズボンをまだらに濡らした。




