闇に染まる王城
この回にはグロテスクな表現が一部含まれています。読む場合はそれを認識の上でお願いします。
ユリア王国の王城。
かつては黄金の城と称えられるほど美しい城だった。そんな城は今、茨に囲まれあまり人が出入りしない幽霊屋敷のように成り果てていた。
王が譲らなかった双子の片割れ―エリアもすくすくと育ち、短い白髪の美しい王女となっていた。顔立ちといい、背格好といい、何から何まで王妃そっくりの特徴があった。
そんなエリアだったが、少しずつエリアの様子が変化していた。
「エリア……」
王は頭を悩ませていた。
昨日、エリアは魔方陣を書き王に自分のチカラを見せたのだ。
その強大なチカラに王は腰を抜かすほどだった。そして、彼女のオーラが黒く輝いていた事。これからしてエリアは間違いなく不幸を招く双子の片割れだった。
あの日の選択を王は間違ってしまったのだ。
王はエリアの真実を知ってから、正気では無くなってしまった。目の下には隈が大きく出来、唇の色も紫に変化していた。そして、毎日のように自分の部屋にあるありとあらゆる物を引っ掻き回すようになってしまった。そこまで王の精神は追い詰められていたのだ。
「わしの間違った選択のせいでこの国は滅んでしまう……。わしはその罪を償わなければならぬ」
王はそう呟いて、玉座から立ち上がると廊下をフラフラと歩き始める。誰かに操られている操り人形のように。
王が向かった先は、客人が来た時にしか使わない簡素なキッチンだった。簡素とは言え、調理するために必要な物はしっかり揃えてある。王は迷うことなくキッチンの一角にある引き出しを開ける。そして、中から包丁を取り出す。
――わしと王妃が最初から子供を望まなければ良かったことを。我々も罪の塊同然だ。
光る包丁の先を見つめ、そして決心したように包丁を大きく振り上げる。そして、自分の腹目掛けて振り下ろそうとした時だった。
「そこで何をしているんですか、父上!」
自害しようとする父の姿を見たエリアが駆け寄る。握り締められていた包丁を叩き落す。包丁はカランと音を立てて地面に落ちた。
「何故、わしの邪魔をする!」
「それは、もちろん」
エリアは深い青の瞳を細めて言った。
「私には父上が必要だからです」
それは見方によれば天使のような微笑みでもあり、裏に秘めた欲望があるような微笑みでもあった。
エリアは王に手を差し伸べた。その手を王は恐る恐る握る。
「馬鹿な父上ね」
突然吐かれた言葉に王は目を見開く。エリアの口の端がにんまりと笑う。
「さようなら、父上。またいつか、会える日まで」
まるで呪文のように脳内に響き渡る声が止むと同時に、王の意識は真っ暗闇に放り出された。
底の無い暗闇へ落ちていく。薄れていく意識の中で王は叫んだ。
「助けて……助けてくれ、アリア!」
「全く使えないのね、父上」
一人になったキッチンで、エリアは呟く。その視線の先には腹に包丁が突き刺さって倒れている王の姿があった。エリアは王の手を包丁に握り締める。
手が真っ赤に染まっていた。だが、エリアはそんな事全然気にしていなかった。自作自演をすれば皆は呪いのせいだって騒ぐだろう。そうすれば、もう一人の双子が捕らわれるのも時間の問題だろう。
エリアはまだ見ぬもう一人の双子に会いたくて仕方が無かった。何故なら、彼女は自分が不幸を招く双子の片割れだと自覚しているからだ。
それを邪魔する存在であるもう一人の双子を彼女は憎んでいた。彼女が存在するだけで皆が逃げていくのだ。そのせいで、王以外の人間から慕われた事など無かった。
――私を貶めるもう一人の双子。絶対に見つけ出してこの手で…!
やがて、メイド達や兵士達の足音が聞こえてきた。
エリアは闇の中へと姿を消した。