落ち葉のように
クリスが倒れてからとうとう一週間が経とうとしていた。
あれから彼女の容態は日が増すごとに悪化していた。医者が一日に最低二回は様子を見に来る。
事態が深刻な事をアリアは悟っていた。
彼女が言った弱気な言葉。あれが、本当になってしまうと思うと胸が苦しかった。
「私は・・・どうすればいいの?」
何も出来ない。ただ、日々が過ぎていくのを待つしか無い。
ベッドの上でアリアは一人、静かに涙を流した。
事態が急変したのはそれから三日後だった。
突然クリスが発作を起こしたというのだ。それもいつもより激しい発作だった。
さすがの医者も予測できなかった事に焦りを隠せない。
既にクリスの体力は限界を超していた。いつどうなってもおかしくない状態なのだ。
「・・・仕方ない。」
医者は最終手段を取った。もう自力でも薬でも発作を止めることは出来ないだろう。ならば、睡眠薬で安楽させようと。
クリスの口に何とか薬を入れ、医者は様子を見守る。
発作が少しずつ収まっていく。それと同じように呼吸と心拍数も減っていく。
「母様!」
そこへアリアが急いで駆けつけた。アリアがクリスの手を握る。だが、反応は無い。
ただ、口は何かを告げていた。とても、聞き取れないような小さな声で。
「何を言ってるの?母様」
「おまえは・・・・王の・・・双子の・・・娘よ・・・・・・・・」
「いや、そんな事どうてもいい!逝かないで、母様ぁ!」
そうアリアが叫んだと同時に呼吸が止まり、心臓が停止した。
今この瞬間、クリスは天へ昇って行ったのだ。アリアをここに残して。
冷たい風が吹いて、落ち葉がはらはらと散った。まるで、その落ち葉のようにクリスは儚い命を手放したのだ。落ち葉はやがて土に還る。それと同じようにクリスの魂は天へ還ったのだ。
それが生きる者達の運命。決して捻じ曲げる事の出来ない輪廻だ。それがたとえ、どんな強力なチカラの持ち主であったとしても・・・。
アリアは冷たくなっていくクリスの体を抱き寄せて、泣き喚いた。
クリスの葬儀はその日のうちに執り行われた。ケレーム家には私有の火葬場があり、そこで身内だけの葬儀を行ったのだ。
焼かれていくクリスの姿をアリアはずっと見つめていた。やがて、クリスは白い灰となり、骨壷に入れられた。
骨壷は、敷地内にあるケレーム家の墓に埋められた。皆蝋燭を墓に置く。
「クリス・・・若くして私より先に言ってしまうなんて・・・。」
「これも引き取ったあの双子の呪いじゃない?」
「しっ本人の前でそんな事を」
皮肉ったらしい親戚の話にアリアは聞いていないフリをしていた。そうでもしないと、負けた事になるのは分かっていたからだ。
葬儀が終わった後もアリアの陰口は収まる事を知らなかった。もしかすると、ケレーム家から追い出されてしまうかも知れない。
―じゃあ、あの時のように・・・。
ここを出る。
もう負けても構わない。クリスの居ないケレーム家に留まる理由は無い。
それに、アリアにはどうしても確かめたい事があった。それはクリスが最期に言い残した言葉だった。
王の双子の娘。ならば片割れはきっと王城に悠々と暮らしているのだろう。
それから親戚の皮肉。双子の呪いに関することも、知らない事が多すぎて何がどうなのかがさっぱり掴めない。
それをアリアはどうしても知りたかった。
あの時に荷造りした荷物を持って、そっとアリアは家を出た。誰にも気付かれないように門を出る。そして、ケレーム家を振り返った。
―母様、さようなら。私は真実を探すべく王城を目指します・・・。
落ち葉のように呆気なくアリアはケレーム家を後にしたのだった。