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鏡が出会う時

一部生々しい描写が含まれているのでご注意下さい。

 アリアはゆっくり目を開けた。そこには信じられない光景が広がっていた。

 冷たい鉄の床。小さな窓から微かに見える豪雪。ここは、北の地方にある建物の中なのだろうか。

 ふいに自分があの黒い精霊に連れ去られたときの事が頭に浮かび、アリアは立ち上がろうとした。しかし、足には鎖が繋がれており立つことが出来なかった。

 座ったままでアリアは目を閉じた。きっとリュウやクリアが心配しているだろう。また余計な心配をかけてしまった。あの時油断さえしなければこんな事にはならなかったのに。

 と、厚い扉がゆっくり開く。そこには鎧を纏った兵士が立っていた。

 「動くな」

 兵士は足の鎖を解くと、アリアを連れ出した。

 長い階段を降り、地下までやって来ると寒さがアリアの体から体温を奪っていく。歯ががちがちと鳴り、体は小刻みに震えだす。

 早く温かい部屋に入りたいものだ。

 奥までやって来ると、大きな扉が現れた。兵士がノックをする。

 「姫様、鏡を連れて参りました」

 「入れ」

 重く扉が開く。

 アリアはさっきの声で心臓が止まったように感じた。寒気が増す。この部屋に誰が居るのか本能が感じ取っているのだ。

 扉が完全に開く。奥には銀の玉座に見立てた椅子があった。そこには一人の少女が座っていた。

 短い白髪、青紫の瞳、過去を見た時に居たあの少女と同じだ。つまり、この少女こそが鏡の双子の片割れであるエリアなのだ。

 ドクンッ

 嫌な音を立てて心臓が大きく脈打つ。

 エリアの発するオーラは恐ろしいと言うより、逆に拒絶されているような感覚だった。まるで、その存在を疎まれているかのような。

 兵士が出て行き、広い空間に二人っきりになった。

 「この日を、ずっと待っていたわ。会いたかったのよ、姉さん」

 「私も貴方に会うためにここを目指して来ていたのよ。わざわざ攫う必要も無かったんじゃない?」

 「歩きじゃ間に合わないからよ」

 彼女の顔は死人にも見えるくらい真っ白だった。少し冷や汗も滲んでいる様に伺える。何かに怯えているのだろうか。

 アリアは一歩エリアに近づいた。と、エリアは手で制した。

 「これ以上近づいたらどうなるか分からないわよ。たぶん、私と同じになるんじゃないかしら」

 「私は貴方を助けるためにここへ来た。夢で視たのよ。貴方の心が本当は純粋で普通の女の子であると。決して闇に染まるような感じでは無かったわ」

 「……ずっと貴方を思う精神だけで意志を保ってきた。それももう限界に等しいのよ。今だって目の前が歪んで見えるの。でも意識を手放したらどうなるか分かっている以上戦い続けなければと思った。それでもそれが表層に現れて惨劇を起こした事があった。……良かった、この体が全て蝕まれる前にこうやって話せて」

 悲しそうに微笑む姿はまるで小さな星のように弱々しかった。

 アリアと同じように辛い思いをしてきた彼女。もしアリアが彼女だったら精神を維持する事など出来ない。辛すぎて手放してしまうだろう。

 エリアの瞳がとうとう完全に濁り始めた。どうやら真意を姉に伝えた事であとは全て任せるとでも言うように。

 「駄目!エリア!」

 思わずアリアは駆け出していた。

 エリアから黒いオーラがふつふつと沸き起こる。黒い精霊がエリアをはやし立てる様に渦を起こす。

 無我夢中でアリアはエリアに駆け寄った。既に心あらずと焦点は合っていない。間に合わない。

 それでもエリアは小さく口を動かして言った。

 「駄目、悲劇が……起こる」

 次の瞬間、アリアの体が動かなくなった。何が起こったのかアリアにはさっぱり分からなかった。

 アリアの体は勝手に動き始める。鞘から剣を抜き、自分が入ってきた扉へ向かう。そして扉を乱暴に開けた。

 突然の事に驚いた兵士がアリアを睨みつける。

 「貴様、何を……!」

 躊躇いも無くアリアは兵士を斬った。返り血が飛び散る。

 ――嫌……、やめて。やめてぇ!

 アリアの悲痛にも虚しく体は言う事を聞かなかった。それどころか、城中に居る兵士達を剣で草を薙ぎ払うかのように斬っていく。

 残酷な光景にアリアの精神は目を閉じた。その瞬間、何もかもが分からなくなった。

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