ケレーム家の掟
赤子を引き取って、ケレーム家へ戻ってきたクリスは王に手紙を書いた。
親なら責めて、名だけでも与えてやって欲しいと。
それが、唯一の繋がりであってほしいとクリスは考えたのだ。
手紙は王の元へしっかりと届けられた。王は手紙の内容に渋々応じた。そして、再びクリスへ使いを送らせた。
使いはクリスに王直々の手紙を届けた。封筒には由緒正しき王家の紋様が刻まれている。
中の手紙に書かれていた赤子の名前。それは・・・。
「アリア・・・。」
それは、この国に咲く珍しく美しい花を意味していた。王は黒髪の赤子にちゃんと愛情を込めて名をつけたのだ。
手紙には白髪の赤子の名前をエリアにしたとも書かれていた。
この時、クリスは王が決してこの赤子を必ずしも愛していないわけではない事を悟った。
運命に翻弄されるこの双子の姫は、果たしてこれからどうなっていくのだろうか・・・。
―私はこの子を信じてるわ。
大切そうにアリアはクリスの指をぎゅっと握った。
「アリア!今すぐそこから降りてきなさい!」
緑の大木に向かってクリスが叫んでいた。上の方には木の枝に乗っている黒髪の少女の姿があった。そう、彼女こそ予言の双子の片割れ、アリアだった。
アリアはあれからすくすくと成長し、今は勝気で何よりも武術に長けた令嬢とはかけ離れた少女になっていた。
彼女の身のこなしには誰にも勝てなかった。どれだけ脱走を防ごうと仕掛けを作っても、彼女はそれを軽々と難なく通ってしまうのだ。こんなアリアにはクリスもお手上げだった。
「あなたは一体どれだけケレーム家を乱すつもりなの!」
「私は私。ケレーム家はケレーム家でしょう。私にケレーム家の血が流れていても私はケレーム家の跡取りではないわ。自由にしたっていいじゃない。」
「周りの目がどれだけ厳しいのか知っているの!いくらアリアが跡取りではなくても、ちょっとした行動で信頼を失ってしまうのよ!そうなればどう責任を取るつもりなの!」
「うっ・・・。」
クリスの言葉にアリアは反撃する言葉が見つからなかった。
「いい?ケレーム家の掟に逆らえばいつでも蹴落としてあげてもいいのですから。」
「・・・分かりましたよ。」
そう言ってアリアが降りようとしたとき、腰掛けていた枝が音を立てて折れた。
バランスを崩したアリアの体が宙に浮く。数メートル先には地面だ。このままでは真っ逆さまに転落してしまう。
大きく喘いで大木にしがみつこうとする。だが、手が僅かに届かない。
どんどん落下していく。
「きゃあああああ!」
見事にアリアはクリスの上に着地した。
慌ててアリアはクリスの上から退く。クリスの唇はわなわなと震えていた。
―これはさすがにまずいかも
「アリア〜!いい加減におしとやかな令嬢になりなさい!」
クリスの怒号にさすがのアリアも大人しくする。
「貴方はまだまだ淑女にはなれませんわね。もっと女らしさを磨きなさい。そうすれば貴方の幸せは約束されるのだから。」
そう言ってクリスはアリアを放って屋敷の中へ入ってしまった。
―幸せが約束される・・・。果たして、幸せって確実なものなのかどうか・・・。
ふうっとアリアはため息を着いて、クリスの後を追って屋敷の中へと入った。