信じる事
最初の文章に生々しい表現があるので注意してください。
床に倒れたエルフのほとんどが軽症で命に別状は無かった。ただ一部のエルフは運が悪く心臓を貫いて即死だった。
怪我をしたエルフの手当てをしながらアリアはリュウの様子が心配で仕方が無かった。
例え軽い怪我であったとしても皆を傷つけてしまったのは事実だ。仲間ならやってはいけない禁忌をリュウは犯してしまったのだ。本人はそれを十分認識していた。
だからエルフ達の見舞いにも来れず、外にテントを張って今は一人風に当たっている。
窓からその様子を見ていると、声をかけたかった。でも、自分では何もしてあげられなくて結局声をかけることすらも出来なかった。
もともとリュウをあんな目に会わせたのも全て自分のせいなのだから。
クリアのチカラは完全に解放され、エルフ達の傷の治療にも役立っていた。
最初、人間の手当てなど受けないと激しく拒否されたのだが毎日懲りずに手当てする自分にエルフ達は少しずつ心を開いてきてくれている。
特に子供のエルフからはまさに天使のナイチンゲールと言われるほど人気になった。
ただ子供達はリュウの事を悪魔呼ばわりするのがアリアの心を傷つけた。
――確かに子供からしては親を傷つけ、最悪の場合即死までさせたリュウは悪魔と言える。でもそれにはちゃんと深い訳があるのに……
無邪気に寄り添ってくる子供達にアリアは真実を告げる事は出来なかった。
子供達が野原へと遊びに行き、クリアは真実を話そうとしない主人を促した。
「このままでは何も変わりませんよ。貴方が真実を話し、彼らを説得しないと元気になった彼らは確実に……」
「分かっている。でも率直に言えるわけが無いじゃない。言わなきゃリュウの命が危ないんだから」
横目でチラリとリュウの姿を見る。そして決意を固めた。
「今から彼らに話すわ。私の正体とリュウとの関係を」
アリアは再び歩いてきた廊下を逆戻りするのだった。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。これは本当の話なんです」
「そんなの、信じられるか!」
「七人もの命を奪っているのだぞ?それでも罪人ではないと言い張るのか!」
エルフ達は聞く耳を持たない。それどころかリュウの居場所をアリアに問い詰めてくるのだ。
数では圧倒的に負けている。武力で捻じ伏せる事はやりたくない。だからこそ、聞いて欲しい。
「こうやって争いを起こして、何の得があるの!平和が欲しいなら黙って私の話を聞きなさい!そして真実を受け入れなさい!」
突然怒鳴ったアリアの迫力に圧倒されたのかさっきまで五月蝿く抵抗していたエルフ達が大人しくなった。
少し咳払いをして、アリアは自分に課せられた運命の事、そしてリュウとの出会いから旅の経緯と全てを話した。
自分が鏡の双子の片割れだと知ったエルフ達は恐れるどころか頬を緩めた。どうやら自分が光の片割れと思われているようだ。実際そうなのだが。
「……とギルを目指して私達はやって来たんです。私は彼のためなら命を投げ捨てても構わない。それはきっと彼も同じだと思う。だから毒矢を受けて瀕死状態に陥ったときリュウは暴走してしまったのよ。私が命を投げ捨ててもいいと思ってしまったからが故に。全ての責任はリュウじゃない、私にあるの。処刑するなら私を処刑して」
「そうか、そんな経緯があったのか。辛かったな」
「そんな理不尽な運命を抱える人間が居るなんて知らなかったよ」
「俺も」
「人間といえど同じ感情を持つ生き物なのだな。彼女は我々のために働いてくれた。それだけで我々には十分伝わってきたはずだ。人間の持つ心の温かさを」
忘れかけていた感覚がエルフ達に戻ってきた。人を信じること、それを忘れてしまえばこの世界など滅んでしまう。
伝えたかった事がエルフ達に伝わり、彼らはそれを受け入れた。
自然と涙が零れた。
アリアは精一杯の笑顔で皆に礼を述べた。皆もアリアに感謝を込めて礼を言った。
彼女はそこから迷わず外へ向かって走り出した。もちろん、リュウに言うためだ。エルフ達は全てを受け入れてくれたと。
「有難う、皆さん。この恩は必ず返します」
「気をつけて。くれぐれも無茶はしないで。帰る場所が無いなら何時でもここへ来るがいい。皆、温かく迎え入れよう」
「助かります!きっとリュウも喜んでくれます!」
そう言ってもう振り向かずにアリアは一直線に外へと駆けて行った。
滑るように草の生い茂った坂を下り、テントを張ってある場所へ駆ける。そこには先程と同じく風に当たる彼の姿があった。
「リュウ、皆が受け入れてくれたよ!ちゃんと私の話を聞いてくれたよ!」
しかし振り返ったリュウの表情を見てアリアは立ち止まる。リュウの表情は悲しさに歪んでいた。