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秘められた悲劇

 リュウは暗い部屋に閉じ込められていた。もちろん、逃げ出さないように手足は縄で縛られていた。

 あちこちに傷が出来、痛みにリュウは耐えながらずっと小さな窓から見える空を見ていた。

 ここへ帰ってくるのは何年ぶりだろうか。

 懐かしい空にリュウは頬を緩める。

 と、乱暴に扉が開いた。入ってきたのは筋肉質なエルフだった。無造作にはねた青い髪は針のように尖っている様に思える。濃い紫の瞳は恨んでいるかのようにリュウへの怒りを露にしていた。こいつが一体誰なのかリュウは知っていた。

 「エル」

 「今更どうして捕まったんだ。また俺達を裏切りエルフを恐怖に陥れるのか」

 「俺はそんなつもりではない」

 「お前を捕まえた奴から聞いている。お前は人間と共にいたってな。またその人間がこのエルフの里に入ってくれば悲劇が起こることは分かっているだろう?」

 「……ああ」

 遠い昔の記憶をリュウは思い起こした。

 あれはまだリュウが幼い頃だった。父と母とエルフの里へやって来た時の事だ。

 突然毒の塗られた矢が飛び交って、家族を襲った。父と自分は同じエルフの血を持つために毒の効果は受けなかったが、人間であった母は毒を受けて帰らぬ人となった。

 エルフは母の遺体を切り取られたかのような崖に投げ捨てた。恐らく下を探せば白骨化した遺体が見つかるだろう。そう思い何度も里を抜け出そうとした。だが皆はそれを許さなかった。

 ――人間は慈愛の無い生き物だって?

 毎日も言われたその言葉が母を侮辱する事だと知って、黙っていられなくなった。

 だから知恵を働かせてこの里から逃げ出したのだ。人間がそんな生き物ではないと証明するために。

 でも盗賊団に正体を知られた時は本当に地獄のようだった。やはり人間は怖い生き物なのだと思った。

 遂に仲間だった人間から追い出されて独りぼっちになった。

 悲しかった。

 悔しかった。

 そんな時に彼女に出会った。

 彼女の存在ならきっとエルフの里の皆も納得させる事が出来るだろうと直感で思っていた。

 例え種族が違っても心を通じ合える事を皆に証明したかったのだ。

 「あいつは、追ってこないよ」

 「何故そう言い切れる」

 「俺があいつに来るなと言ったからな。悲劇を知っている俺が手を打っていないと思ったか?」

 「相変わらず、余計な事をしてくれる。正体をまだ知っていないと思って生かしたものを。その言い様じゃ知っているな」

 「ああ、でもあいつはその事で決して恐れたり、疎むことも無かった」

 彼女が見せてくれるあの表情は自分に心を打ち明けている何よりの証だ。

 きっと自分を信頼してくれているのなら今頃ギルへと着いているだろう。ただ、心配なのは別の追っ手に捕まっていないかと言う事。捕まればせっかく犠牲になった意味が無い。

 ――どうか、無事でいてくれ

 リュウは黙って目を瞑った。

 と、その時、大きくガラスの割れる音が響いた。エルフの悲鳴も混じる。

 何事かとエルは扉を開く。と、次の瞬間エルは壁に叩きつけられた。背中と後頭部を強打してエルは意識を失った。

 一体何が起こったのかリュウには分からなかった。確かめようと近づきたくても手足が縛られていて自由に動けない。

 扉に人影が現れる。誰かがこの部屋に近づいてきているのだ。

 その影がこの部屋へ入って来た時、リュウは自分の目を疑った。そこにはあの時別れた筈のアリアの姿があったからだ。

 強引にアリアはリュウの手足を縛っていた縄を解く。

 リュウは立ち上がろうと壁に寄りかかった。だが痺れてうまく足に力が入らない。

 アリアは何も言わずにリュウの肩を支える。彼女の助けのお陰で何とかリュウは立ち上がった。

 「どうしてここへ来たんだ!あんな派手に侵入してただで済むと思ってるのか!」

 「貴方が必要だから迎えに来たのよ。私一人でエリアの元へ行けるわけが無いじゃない!心配で胸が潰れてしまうわ!それとも私を苦しめて自分だけ楽になろうとでもしたの!」

 「なっ……!お前ここへ来て早々ぶっきら棒な言葉をかけるなよ!」

 「我々を忘れてもらっても困りますな」

 後ろから凛とした声が響いた。そこには長い髭を蓄えたエルフが立っていた。その目は細く二人を見据えている。

 「また過ちを犯した事を悔やむがいい!」

 後ろに控えていたエルフ達が弓を一斉に構える。アリアは剣を身構える。

 合図が出され、矢が放たれ二人に襲い掛かる。何十本もの矢が雨のように降ってくる。

 ――やめろ!

 鮮やかに蘇ってきた悲劇の記憶にリュウは叫んだ。

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