いざ極寒の地へ
次の朝、メイドが用意してくれた旅用のコートを貰い、城を発つ準備を始めた。
彼女達の話によると、エリアは北の地方にある凍獄の塔に監禁されているのだと言う。その理由はここでエリアが一人のメイドを殺めたためだった。
悪者扱いする彼女達の気持ちも分からない事は無い。だけど、エリアもきっと自分の運命に苦しんでいるはずだ。助けないわけにもいかない。
北の地方は生きる者にとっては脅威な場所だという。北風が強く吹き、吹雪の中を一時間も歩けば体の芯まで冷えてしまうのだと。それでもアリアは竦まなかった。
何を言っても無駄だと察したメイドはとうとう何も言わなくなってしまった。どうも、行かせたくないらしい。
それも当然だ。彼女達にとって自分の存在がどれ程重いものか知っている。それを失えば彼女達はきっと何もかも狂ってしまうだろう。
「ごめんなさい。私にとってはエリアはたとえ邪悪でも姉妹なの。行かないわけにはいかないのよ」
「私達はここで待っています。だから、必ず帰還して下さい」
「ええ、必ず」
寒さ対策のために厚着をして、二人は城から出る。門の前でメイドは立ち止まる。そこまでが彼女達の見送れる範囲なのだ。
――何としても私がエリアを救い出す!
強き決意を持ってアリアは城下町を歩いていった。その後をリュウは見守るように歩いていった。
城下町を通り抜けて、街道への入り口に到着した。
しばらくは普通の気候なのらしいが、とあるトンネルを抜けるとそこは一面雪景色なのだと言う。
秋も過ぎ、冬がそろそろやって来ると言うこの時期に北の地方へ行く事はまさに命がけなのだ。これを聞けば誰でも無謀だと言うだろう。
そう言われてもアリアは引き返すつもりは無い。
メイドのお陰で、食料などの補充もすることが出来た。全ての準備は既に整っている。
怖気づく事は無い。まだエリアへの道は閉ざされた訳では無いのだから。
「行きましょう、北の地方へ。そして凍獄の塔に監禁されているエリアを救いましょう」
「ああ」
彼女の意図はリュウも理解していた。
アリアとエリアは一応血の繋がった姉妹なのだ。姉妹を見殺しにする事など、出来るわけが無い。
それに今、何を言っても無駄だろう。あんなにも姉妹を大事にするアリアの姿を見ていると、何も言えなくなってしまう。言う事事態が失礼だ。
――よく考えればこいつって見事帰還したらこの国の女王になるようなお方だよな?
こんなに馴れ馴れしくしていていいのだろうか。
「何考えているの?行きましょう?少なくても次の街までには五日かかってしまうから急いだ方がいいわ」
「分かってる」
「あ、もしかして次の街に行きたくないとか?」
「はあ?」
「だ〜か〜ら〜、その街に行きたくない理由とかあるんじゃないの〜?」
ニヤニヤして嫌みったらしく言うアリアにリュウはこいつ絶対貴婦人の気品ゼロだなと思うのだった。
顔を真っ赤にしてリュウが叫ぶ。
「誰が次の街に行きたくないって言ったか!」
「あ、怒った」
「あ、じゃなくて謝れよ!勝手に変な話を作りやがって!」
「嫌です!」
「何だと、所詮は女のクセに!俺の手にかかればすぐに捕まえてやる!」
そう言って子供のように追いかけっこをしだした二人は北の地方へ向けて城下町を旅立ったのであった。
「ほう、こちらへ向かってくるのか」
黒い精霊からの報告を受けてエリアは面白そうに笑った。
薄着をしているのにも関わらず、寒さには堪えていないようだった。足枷がされているため、自由に動き回れないが精霊は命令すれば何でもしてくれる。
もちろん、自らのチカラで操っている兵士もだ。
既に凍獄の塔にいる全ての兵士も洗脳され、エリアの操り人形と化していた。
――面白くなりそうじゃないの
エリアは不気味な笑みを浮かべた。精霊は闇に溶け込んで姿を消した。
外では風が唸り、強く雪が降っていた。風はまるで塔を守るかのように吹き荒れていた。