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エルフ

 「んっ……」

 眩しい太陽の光でアリアは目を覚ました。そこはもうビーキの風景では無かった。一面ユリ畑の細い道をゆっさゆっさ揺れながら進んでいた。

 はっとして顔を上げるとリュウの視線とぶつかった。

 慌ててアリアはじたばたと暴れだす。

 「ご、ごめん!重かったでしょ!」

 「こら、暴れてたら落ちるだろ!」

 「だったら、今すぐ降ろしてよ!」

 「分かったからちょっと待ちやがれ!」

 ストンと降ろされたアリアは急に地面の感覚に触れてふらふらする。だが、何とか立ち上がってリュウの後を歩き始める。

 日はもう昇りきっている。恐らく昨日の夜からずっとリュウは自分を抱えたまま歩き続けていたのだろう。

 彼に負担をかけてしまった事にアリアは申し訳なく思っていた。

 ぎこちない態度に気付いたのかリュウは急に足を止めてアリアと向かい合う。

 そしてリュウが一歩一歩近づいてくるので、アリアの心臓はドクドク脈打っていた。顔が火照ってくる。

 「……ここら辺で休憩していいか?」

 「あ、そんな事」

 「そんな事ってどういう事だよ?」

 「な、なんでも無い!さ、休憩するんだったらあの木の下が良さそう」

 近くにあった大木を指してアリアは元気そうに振る舞う。リュウはちょっと不信感を抱きながらも気にせず大木にもたれ掛かった。

 風が吹く度にユリの花が揺れる。花びらがこちらへ飛んでくる。

 アリアはその一つを掴んで掌にのせた。綺麗な花とは裏腹に、花びらはちょっと風が吹くだけで散っていく。あまりにも儚げで切なかった。

 澄んだ青空を見上げ、リュウは悲しそうな表情を見せていた。が、何かを決心したかのように険しい表情になる。

 「なあ、ちょっと話してもいいか?」

 「私は構わないけど、疲れてないの?ぶっ通しで歩いていたんでしょ?疲労が溜まれば動きも鈍くなるし」

 「それは大丈夫だ。それより、どうしても話しておかなければならない事がある」

 彼の緊迫した空気にアリアはそれが良い話ではない事を察した。

 動揺で開いたままだった掌から花びらが飛んでいく。しばらくアリアは身動き一つ取れなかったが、やがてゆっくり頷いた。

 二人とも背中合わせで大木にもたれかかった。

 そしてリュウは恐る恐る話し始めた。

 「俺、盗賊団の元リーダーだった事は前に話したよな」

 何も言わずにアリアは頷く。

 「その理由は、俺がただの人間じゃ無かったからなんだ。見た目からは何も違和感を感じないだろうが、唯一人と違うところがここだ」

 そう言ってバンダナを外したリュウの姿にアリアは驚いた。髪がさらけ出された事で今まで見えなかった耳が露になったのだ。その耳が人間とは違い、長い妖精のような耳だった。

 思わずアリアは口にした。

 「貴方……エルフだったの?」

 「正確には、エルフの父と人間の母を持つハーフエルフなんだがな」

 御伽話でなら聞いた事があった。エルフは人里離れた森の奥に住んでいて、人間との接触はまず無い。しかし、時折人間とエルフの間で子供が出来るのを知っていた。それがハーフエルフだ。

 彼らは普通の人間のように成長する。それと同時にエルフの特殊な能力も手に入れる。だから世間では化け物同然なのだ。

 それを恐れてリュウはずっとこうして隠してきたのだろう。表情はとても辛そうだった。

 どうしていいか分からずにアリアはそっとリュウの肩に頭を置いた。

 「……そんなに私が信用出来なかったのね」

 アリアはハーフエルフだった事実よりも、それを隠された事に悲しんでいた。

 「私がそれを知ったら何処かへ遠ざかっていくとでも思ったの?私は別にそんな事気にしない。だって、私にとってはリュウはリュウだもの。そのままが一番いいの。だから、もう隠し事は無しよ」

 「分かったよ。ったくお前にはついつい甘くなっちまうぜ」

 「えっ?」

 「えっ?」

 二人は見合わせたまま顔が真っ赤に染まった。慌ててアリアは立ち上がる。

 「さっそろそろ行きますか!」

 「ああ」

 荷物を持って、二人は自然と手を繋いで道を進んでいった。

 そう、後ろから追ってくる怪しい影が居る事も知らずに……。

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