悲しき運命
アリアはただその様子を呆然と見ている事しか出来なかった。
現実味の無い世界が目の前に広がっていた。そして村人の悲鳴もアリアの耳に響いていた。
――これも、全て全て双子が呼んだ不幸……?何も望みなどしていないのにこんな人々の命が奪われるのか?
そっと窓を乗り越えて地面に倒れている一人の村人の額をそっと撫でた。氷のように冷たかった。
魔物の存在が憎くなった。全て、双子が呼んだのではない。こいつ等のせいだ。
俯いたままアリアは立ち上がる。アリアを中心に風が起こり始める。
外の異変に気付き、リュウがアリアの元へ駆けつける。その時にはアリアの姿は見えず、ただ黒い竜巻が渦巻いていた。
――キサラマナド、ナギハラッテクレル!
竜巻が凄い勢いで魔物を呑み込む。まるでブラックホールのように魔物を吸い込んでいく。
とうとう村に居た全ての魔物は竜巻に呑み込まれて姿を消した。それでも、竜巻の勢いは衰える事を知らない。
「この竜巻、一体何なんだ?」
「我がご主人様はご乱心で我を失っているのです」
「あっ」
振り向けばあの白き精霊の姿があった。その表情は何とも悲しげだった。
「彼女は昔から優しいのです。だからこうして自分を責め過ぎて我を忘れて暴走するのです。彼女自身の知らない膨大なチカラが暴れるのですからこの村はあと少しで滅びてしまいます」
「そんなっ」
「貴方には、彼女を止める事が出来ますか?」
見下すかのように精霊がリュウを見つめる。リュウははっと息を呑む。
何も言わず黙っていたリュウだったが、やがて竜巻に向かって歩き出した。そして、竜巻の中に自ら入っていった。
竜巻の中では恐ろしいほど強い風が吹いていた。ちょっと油断すれば吹き飛ばされてしまう。弓を杖代わりにしてリュウは一歩一歩中心へ向かう。
やがて風の合間からアリアの姿が見えた。アリアの目は虚ろで意識が無いようだ。
――早く止めさせないと
力強くリュウは踏み出し、とうとう竜巻の中心に辿り着く。だが、アリアは反応しない。そんな彼女をリュウは強く抱きしめた。
「もういい。いいから、戻って来い」
微かに口が開く。
「リュ……ウ」
「そうだ、俺だ。ゆっくり落ち着け」
竜巻は勢力を失って消え去っていった。アリアも意識を取り戻してしっかりリュウの手を握っていた。
「ごめん。突然でびっくりしたでしょ?」
「……」
リュウは変わり果てた村の姿を見て、アリアの問いに答えることが出来なかった。
アリアも村を見て視線を落とす。
村人は全て息絶えていた。民家も跡形もほとんど無く破壊され、元の姿が分からないほどになっていた。
――コレガ、ウンメイ
結局自分は人を守るどころか傷つけてしまった。やはり、関係すれば行き先は必ず困難と破滅が待っているのだ。
例えその運命を受けるのが誰であろうと。
その時、アリアの体がグラリと傾いた。そのまま地面へ倒れこむ。
「アリア?アリア!」
リュウの問いかけにアリアは答えなかった。
彼女自身息はしていたが意識を失っていた。それもしょうがない。こんな事をしてしまった自分が信じられないのだろう。
自然とアリアの姿を幼き自分と重ねていたリュウはふるふると首を振った。
逃げているだけでは何も始まらないのだ。だから彼女は立ち向かうために王城へ向かっている。ならば、自分も逃げずに立ち向かうべきだ。
そっとリュウはアリアの髪に触れた。さらさらと美しく髪は手から滑り落ちていく。
――俺は、こいつを守るためなら命だって懸けてやる。だから、負けるんじゃないぞ
支えとして、側に居る事を誓ったリュウはそっとアリアの頬に唇を寄せた。そして彼女を抱きかかえると、無事だった荷物も抱えてビーキを後にした。