忍び寄る影
多少グロテスクな表現がありますのでご注意を。
普通なら二日間かかる道を走っていったため、一日半で農村ビーキへ辿りついた。
村人は滅多に来ない来客に戸惑いを隠せないでいた。中には余所者と叫ぶ者も居た。
別に二人はここで一泊するだけでいいと思っていたのだが。
食料ならあるし、ただ泊めてもらえる場所があればいいと村長に言った。
「それなら、空き家があるのでそこを使ってください」
「有難う御座います、明日の早朝には出て行くのでご安心下さい」
「いえいえ、ゆっくりしていって下さい」
指定された空き家はつい最近まで村人が住んでいたとだと言う。だが、ある日病に倒れぽっくり逝ってしまったそうだ。遺品もあちらこちらにそのままにして残されていた。
ここで泊まる方が野宿するよりはましだ。
昨日なんか、野営場所を発見して眠りに着いたはいいが、目が覚めると蛇だらけになっていて思わず大声で叫んでしまった。もう蛇は御免だ。
荷物を床に置いて、アリアは台所を探した。
台所は凄い異臭を放っていた。どうやらここの住人は洗い物をためるタイプだったらしい。洗っていない食器から腐った臭いがする。
――これはちゃんとしておかないと
仕方なくアリアは水で食器を洗い始める。触る事さえ躊躇しているのにちゃんと洗えるのか心配だったが、自棄になって黙々と食器を洗い続けた。やがて食器はピカピカになり、台所も片付いた。
疲れてアリアはふうっとため息を着いた。ただでさえ今日の目覚めは最悪だったのだ。疲れるのも無理は無い。
と、眩暈がして体が傾く。
そんなアリアの体をリュウが受け止める。
「無茶するなよ。今日の夕飯は俺が作るから休んどけ」
「でも、私」
「いいからいいから。時には俺も料理くらいするっての」
無理やり台所から追い出され、アリアは全てリュウに任せる事にした。ふらふらと寝台と思われる所にうつ伏せで倒れる。起き上がろうとしてももう力が入らなかった。理由はやはり、あの精霊を呼び覚ましたからだろう。そういうのは結構チカラを消耗すると聞いた事がある。
窓がカタカタと音を立てる。風が強く吹いているのだろう。だが、それを確かめる気力も残されていなかった。
アリアは目を瞑った。それと同時に深い眠りへ誘われた。
夢の中でアリアは兵士に囲まれていた。もちろん、エリアも一緒に。
「運命の双子。何故対となり、国を破滅する存在として生まれてきたのか」
「お后様が命を懸けて産んだ新しい命が何故このような存在だったのか。これもやはり双子の運命」
「双子が生きれば生きるほど皆は運命の渦に巻き込まれていく」
「許さぬ。我らが国を滅ぼさんとするこの双子」
「許してはならぬ。生まれてきた罪を償うがいい」
二人は身の危険を感じてお互いの手をぎゅっと強く握った。それとほぼ同時に兵士から剣が振り下ろされた。
ところが、剣は二人に掠ることなく地面に落ちた。目に見えぬバリアが二人を守ったのだ。
――一緒に居る事で二人とも闇に染まる
エリアが一人で立ち上がる。兵士達はエリアに注目する
「行きなさい、アリア。このままでは本当に光が消えてしまう」
「でも!」
「いいから行くのよ!光ならきっと何処かが匿ってくれるわ」
「じゃあ、貴方はどうするの?」
「……」
「嫌よ!私だけ助かるなんて!」
嫌がるアリアをエリアは無理やり弾き飛ばした。
アリアは泣き喚きながらもがむしゃらに走っていった。その後を兵士が追おうとする。それをエリアは魔方陣を使って身動きを止める。
にやりとエリアは笑った。
――私は闇の双子の片割れ。全てをこの身に封じてアリアを守る。そして、未来に光を残す
エリアは黒い魔方陣を発動させた。その瞬間、兵士達の姿は闇に消された。
「エリア……!」
勢い良くアリアはベッドから飛び起きた。気がつけばもうすっかり外は真っ暗闇だ。
窓を開けたその瞬間、目の前に飛び込んで来たのは多数の魔物の姿だった。魔物は普通魔法使いしか襲わないと言うのだが、この魔物は普通の村人を襲っていた。
真っ黒い体は光を当てないとどのくらい大きいのか分からない。
――一体何が起こっているの?
下に飛び散っている赤い液体にアリアは身動きが出来なくなった。