真実の扉
「あ、貴方は一体誰なの?」
驚いた二人の表情を見て精霊は顔を歪めた。
「やはり、何も知っていないのですね。我の事も今の今まで忘れていたのですか」
「あの、話が見えないんだけど……」
「ならば」
精霊はそっとアリアの額を軽く触った。
次の瞬間、沢山の映像が頭の中に流れてきた。
広間の中心に立つ神官の姿。そこには双子の姿もあった。神官は自分の指を切ってそこから流れ出る血で左胸に印を描く。すると、その印が光り始める。
二人の精霊がその印に封印され、その双子は目を開けた。
一人は輝く太陽のような目を、もう一人は闇を見据えるような目をしていた。
次のシーンへと移る。その時、異様に自分の心臓が高鳴った。警告しているのだ。この先は見てはいけないと。
次の瞬間、目の前は真っ赤に染まっていた。沢山の兵士達が倒れこんでいる。手には剣を握っていた。
正面にはもう片割れの双子と思われる少女が立っている。他に人気は無い。
二人は決心したようにその剣を自らに向け……。
「いやああああああ!」
頭を抱えてアリアは叫んだ。
混乱する彼女をリュウがそっと肩に手を触れる。
「落ち着け、しっかりするんだ」
凛とした声にアリアも我に返る。そして、精霊に視線を向ける。
精霊はやっと思い出したかと言わんばかりにため息を着いた。その態度があまりにも生意気だったのでアリアは精霊の首を掴んだ。
「あんなもの見せて、貴方は私に何をさせようと言うの!これ以上迂闊に私の前へ出てこないで」
「……承知しました」
そう言って、精霊はあっさりと姿を消した。
アリアは黙ってリュウを見つめ、やがて何か決心したように口を開いた。
「私の素性、話しておいた方がよさそうね。いいわ、話してあげる。辛くて、最後まで話せないかも知れないけど……」
「別に無理して言う必要は無いんじゃないか?」
「え?」
「だから、お前が話すのが辛いんだったら別に話さなくたっていいんじゃないかってことだ。大体さっきの状況でお前が何者なのかは想像出来たからな。だから、話せるときまで俺は待ってやるよ」
本当なら問いただしたいのだろう。そんな気持ちを自分のために抑えてくれている彼の優しさにアリアは感謝した。
だが、先程の映像が自分の過去、前世である事は薄々気付いていた。前世でもアリアとエリアは双子として生まれ、そして一国を滅ぼしたと言うのだろうか。
その責任を負うために自らを刺したと言うのなら、何故神はこの双子の運命を捻じ曲げてはくれなかったのだろうか。
そして、あのエリアの表情には人間らしい悲しみの表情が浮かんでいた。
――もしも、まだ人間としての心が残っているのなら何とかしなければ。国のためにも、そして私達のためにも
また目的が一つ増えてしまった。
「さあ、先へ進もうぜ」
「ええ」
そう言って立ち上がった時、ふいに風が吹いて一枚の紙が流されてきた。
無意識にアリアは飛んでそれを掴んだ。そして、その髪に書かれた文字を読む。
そこには信じられない事が書かれていた。
――王、ご乱心のため自ら命を絶つ
心臓が大きく脈打つ。手ががくがくと震えだす。
「そんな……、王様なら何か知っていると思ったのに!」
王に真実を聞こうと思っていたのだ。本人の口から。
その糸口が今、切れた。
リュウは何も言わず、ただアリアを見据えていた。何か言葉をかけてやりたいのだが、いい言葉が見つからない。
何も言わずにアリアは紙を握り締めた。もしかすればエリアがこれにも関わっているのかも知れない。
ならば、ここでくずくずしていればこの国は……。
「急ぎましょう、城へ」
リュウはこくりと頷く。二人はそれを合図に目的地である農村へ向けて走り出した。