予言の双子
ここはユリア王国。この国は戦争もなく、自然も豊富で民は平和に暮らしていた。
そんなユリア王国の城内に緊張が走った。
王妃アレイシアが突然倒れたのだ。お腹に子供が宿っている状態で。
急いで家臣達が王妃の部屋へ駆けつける。王も公務を途中で中止して王妃の元へ急いだ。
「王妃様、しっかりして下さい!王妃様!」
「何とかならないのか!」
専属の医者が王妃を診察する。周りの者たちはその様子を静かに見守る。
医者は立ち上がると、首を横に振った。それを見た家臣達は涙ぐむ。王は愕然とその場に膝をついた。
王妃の額にはびっしりと汗が浮き出ていた。苦しそうな表情を見ると、何も出来ないことがとても歯痒い。
「子供も駄目なのか・・・?」
「・・・何とも言えません。ですが、王妃様はかなり弱っています。王妃様はやはり・・・。」
「頼む。子供だけでも、取り上げてくれ。我が王妃との大事な子供に救いの手を差し伸べてやってくれ・・・。」
泣きながら医者に頼む王の姿はまさに父親そのものだった。
医者はゆっくり頷き、手術の準備を急いで始めた。邪魔になるので医者以外の者は王妃の部屋から追い出された。
「王様、信じましょう。子供が元気で生まれてくることを。」
「・・・ああ。」
不安そうに王は王妃の部屋の扉を見つめた。
あれからどの位の時間が経っただろうか。
まだ一日は経っていない。でも、何時間もの時間が過ぎたような気がする。
未だに王妃の部屋からは赤子の泣き声は聞こえない。王はもしや子供も手遅れでは無いのかとじっとしていられなかった。何度も何度も扉に手を差し伸べる。でも、開くことは許されない。
―待つことがこんなにも苦しいとはな・・・。
力無く王は椅子に腰掛けた。
と、王妃の部屋の扉が開く。そこから先程の医者が出てきた。皆が駆け寄り、結果を聞く。
「手術は成功です。しかし、赤子が泣かないんです・・・。以前危険な状態である事には間違いありません。王様、それから少し中へ・・・。」
控えめにそう言った医者の唇がふるふると震えていた。
王は何も言わずに王妃の部屋へ入った。ベッドに横たわっている王妃にもう汗は無かった。顔色も真っ白になって、もはや生気など感じられなかった。
王妃は子供をこの世に生んだと同時に息を引き取ったのだ。
「アレイシア・・・!」
そう叫んで王は崩れ落ちた。
最愛の王妃を亡くし、王の心はかき乱された。
何故、王妃が逝き子供が生きる?
子供さえ居なければきっと王妃は今も王の傍であの暖かい微笑みを見せてくれていたはずなのに。
憎しみが溢れて来る。溢れる感情が王を奮い立たせる。王は躊躇いも無く手術のために用意されたメスを握った。
「王様、何をなされるんです・・・!?」
「アレイシアを返せ!!」
王はチャイルドベッドに向かって走り出す。そして、メスを垂直に突き立てようとした。
ところが、そこにあった姿を見て王は目を見開いた。
チャイルドベッドにいた子供は何と、一人ではなく二人居たのだ。そう、王妃の子供は双子だったのだ。
王の顔から血の気が引いていく。そして、ボソリと呟いた。
「予言の双子が生まれた・・・。」