表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

わかっていた これは夢なんかじゃないって 

わかっていたけど 認めたくなかった


現実から逃げた代償か


目が覚めたら 男にドレスを脱がされかけていた




***


ゆらゆら心地よく揺れて ふんわりと柔らかいところへ体が着地した。

羽毛のように柔らかいそれを抱え込み、更なる夢の奥地へと旅立とうとしたところ ピンっと前髪を引っ張られる感じがした。

寝ぼけた頭で瞼をこじ開けると正面には夢で見たはずの男の胸。


・・うん?


私はベッドに寝かされ、男がヴェールをはずしているのだ と理解するのにたぶん30秒ほど。


まさか いや まさか いやいや まさか!!


夢と思いたい 夢の続きのはず 夢でなくちゃならないでしょう!! 

そんなこと言っても あー!! しかし身を守らなくては!!

の葛藤を含めて

ずずず と後ろに後ずさり男から距離を取るまで たぶんたっぷり3分ほど。

すでにヴェールははずされ綺麗に髪もほどかれていた。


無意識に悲鳴をあげようとしてしまったのだろう ケホっケホっと出る乾いた咳が苦しくて立ち上がれず ベッドに座ったまま胸と口元を手で抑える。

男が慌てたように何か話しているが何を言っているかわからない。


咳の落ち着いて来たところで 顔をあげ またも叫び声をあげそうになる。

いつのまにか男は私の真横に来ており、私の背中に手を回そうとしていたのだ。

眠気なんてすっかり覚めた。

同時に眠ってしまう前まで感じていた恐怖心が蘇る。


「-!!っ、っ」

やだっ怖いよ やだ 近寄らないで

さわらないでって


必死で男の手を振り払い、その勢いでベッドを降り、目についたキラキラしい棒を手に取った。

・・それは男の護身用の剣であったのだがこのときはそんなこと知る由もなくー

壁を背に鞘の付いたままのそれを男へ向けた。


男の人に敵うなんて思わなかったけど、ひたすら抵抗して逃げ出すつもりで ただ必死に対峙した。

手も足も震えて立って構えているのがやっとだったんだけど

おとなしくしていた方が痛い目に合わないのかもなんて考えもしたけど



彼が照れたように 綺麗だよ って言ってくれた純白のドレスを


ほかの見知らぬ男に脱がされるなんて絶対に嫌だった







しばらく 呆気にとられたように私の行動を見ていた男は、ふうっとため息をつくとおもむろに両手をあげ、何かを話しながらゆっくり近づいてきた。

穏やかな顔と優しげな声でゆっくり声をかけてくる。


何もしないよ ってこと?

何言ってるの?

なんで近づいてくるの?

いいよ こなくていいよ

あっちにいてよ

やだよ 怖いよ


声が出ないことが余計に恐怖を募らせる。

そうだ 優しそうなそぶりでも喉を傷めたのはこの男の仕業。このあと何をされるかわからない。


口パクで やだ こないで とつぶやき続けるが男に届くはずもなく

こないでと首を横に振る。

男との距離が縮まるにつれ、棒を握る両手に力がこもる。


護身術なんて習ってない。こんな棒でなんとかなるとも思ってない。

でもなんとかしなきゃ

逃げなくちゃ


トンっと背中に何かあたった。

壁を背に立っていたのだ。それ以上 下がることもできないのに後ずさろうとしてしまったらしい。

凸凹となにかが背中にあたる。

「!」


取っ手だ!扉!!


外がどうとか考えてる余裕はなかった。

くるりと向きを変え、取っ手らしい金具をがちゃがちゃ動かし扉を押したり引いたり 開かないのですぐさま体当たり ドンっと鈍い音を立てるが木製のそれは重厚につくられておりびくともしなかった。

そこに助けてくれる誰かがいないかとそのまま扉を叩く。


お願いだから 誰か助けてっ

ここから出してっ


男が背後に立っているのも気づかないふりをし、ひたすら叩いた。

ぴったりと寄り添うようなその気配に寒気が走り半狂乱になって扉を叩く。


やだっ出して お願いっ

誰か 誰か お願いっ 助けて!!



「   !!」


男が何か怒鳴った。

その鋭い声にビクリと体が硬直する。


ああ 捕まってしまう


男は 私をゆっくりと抱き込むように 後ろから手を伸ばし 扉を殴打する私の両手を掴んで止めた。

そして 今声を荒げた人とは思えないほど優しく柔らかい仕草で その大きな手でそっと私の両手を包み込んだ。


何かつぶやいているようだがわからない


後ろから抱きつかれているような格好だが男と私との間には拳一つ分ほどの隙間があり、密着はしていない。

さらに何か話しかけられるが 反応せず固まったままの私の様子を見て ほうっと男も力を抜いたのがわかった。手にしていた棒を抜き取られ、そのまま私から離れていった。


もぅやだよぅ


腰が抜けたかのようにへなへなとその場に座り込んでしまう。

力が入らない。


ドレス、汚れちゃうな・・・


ぼんやりと思う。


ああ そうか

彼のところへ帰れないのなら 綺麗にしている意味もないか


そうかな

帰れない・・・のかな


あきらめに似た感情によって先ほどの混乱はだいぶ落ち着いていた。



「       。」

男の声に顔をあげる。

さんざんに泣きあげた顔はとてもひどいものだろう。

男は眉を顰め近寄ってくる。


ここには男と自分しかいない。

助けは来ない。


もう 逃げられないのだ。


男が正面にきてスッとしゃがむ。そして私の両手を掴むのを、私は逃げもせず抵抗もせず ただ眺めていた。


終始優しそうに微笑み荒々しところは見当たらない。

顎をあげて見上げるほどの長身にしなやかな手足が伸びている。


伏し目がちの顔もどこか品がいい。

人攫いするような人にはあまりみえない



まだ相手が醜男じゃないのがせめてもの慰めか・・・


男は私の不躾な視線にも顔をあげることなくぶつぶつと何か話している。独り言なのか何か説明をしているのか わからない。


チリリと手が痛む。


あ 血・・・


小指の付け根の部分は赤く腫れてきていたし皮膚が擦り剥けじくじくと血がにじみ出ていた。

手のひらは結婚式用に伸ばしていた爪が見事にくい込み、やはり血を滲ませていた。


座り込んだ時に触れてしまったのだろう。

純白だったドレスにも濁った赤が点々と染みついてしまっていた。

それを認めた瞬間 


本当に


彼のもとへは 戻れない


何故だか そう 確信してしまった

 






















 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ