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これだから 人生は 面白い
目の前に現れたのは、古くから未来を約束していた女性ではなかった。
刺客がもぐりこむことはある程度予想されていたため、多少驚きはしたものの そうきたか とあっさり受け入れられた。
後ろに立っていた護衛はこの女に気づき動こうとしたが私はわざと女と護衛の間に入り、拒否の態度を示した。優秀な部下だ。指示がなくともこのまま本来の花嫁捜索を始めるだろう。
目の前の女はあまりに堂々と私に顔を見せ対峙していたため、余程の手練れの者を送り込んできたのかと この至近距離に 自分に隙があったことに正直肝を冷やした。
が、しかし一向に女は仕掛けてこない。
呆然と心ここに非ずといった様相で、丸い大きな目を何度もぱちくりぱちくり瞬いている。
異様に長い睫からパサパサと音が聞こえてきそうだ。
なんだ 薬でも飲まされているのか?
美女ではない。体つきも可もなく不可もなくといったところ。
けれど真っ黒な大きな瞳にふっくら柔らかそうな頬はそれなりに愛らしく見える。
相手の意図がわからないままここで騒ぐわけにはいかないか。
この一見愛らしい女を花嫁に迎えるのも一興。
そう思い、式を進行すべく女に上を向かせ微笑む。
何か言いたそうにしていたが目が合うと顔を真っ赤にして逸らされてしまった。
おや?やはり愛らしい。
女の仕草は微笑ましいほどに愛らしい。
良い拾い物になるかもしれないな。など機嫌よく考えていると神父が焦れて「証を。」と催促してくる。
さりげない仕草で、カリと左薬指の指輪を噛み仕込んだ蜜を口に含み、そのまま誓いを交わした。
・・・味見も兼ねて入念に。
蜜を持ち歩くときは必ず無効になるよう自分にも細工を施している。
薬指に仕込んだ蜜は、軽く喉を傷め一週間ほど声の出なくなる軽いものだ。耐性のないものには痺れ薬ともなるが。
喉を守る蜜をあらかじめ飲んでいたため、私にとってはただの甘ったるい蜜だ。
どういう意図があるかわからない。
戸惑っているような様子を見せているが、この女がなにか騒ぎ立てるかもしれない。
根も葉もないことを有力貴族の集まるこの場でしゃべられるのも面倒だった。
女は呆然とし声もなく涙をぼろぼろながしていたが、花嫁としてここにたっているのだ。
泣く必要はないだろう。
ここで捕えられて拷問にかけられるよりはましだろうとの配慮も少し・・・と、甘ったるい口付けに最近はまっているというのも事実・・・
さらに正直に言えば、つい貪ってしまうほど女の唇は意外に美味であったのだ。
いや、やりすぎたか。女には悪いがこれも花婿たる者の役得、ごちそうさま。
怯えられているようだが構わず女に触れ確認する。
話しかけてみる、声は出ない。
うまく効いているようだ。
女は青ざめ震えていたが恨むならこの陰謀者を恨んでくれ。と、とりあえず式を滞りなく終えるよう促した。
最後に花嫁の体調が悪いことを皆に伝え、予定していた披露宴はせず屋敷へ戻ることを告げた。
それにしても
馬車に乗せるときも常にひどい怯えようだった。
まるで私が人攫いか何かのように思えてしまう。
元来 世界中の女性を一人残らず愛しているつもりの私としては少々不満な気分である。