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・・・へ?


見覚えのない相手に、ぽかんと口を開けたまま呆けてしまう。


なに・・?


ぱちぱち瞬きをしてみる。

見間違いかと、ぎゅっと目を閉じて改めて見直してみる。


なんで・・・?


黒い髪、黒い瞳だけれど、どこか日本人離れした綺麗な顔の人。

その彼も、切れ長の目を大きく丸く見開いてこちらを見つめて・・いやいや、凝視していると言ったほうがいいか。

その驚き様から、一瞬思い浮かんだ考えーーこれは友人に仕掛けられた演出なんかではないことが伺える。


なに?なんで??

私の結婚式よね?式場間違えた??


一日に一組だけしか挙げない式場だ。そんなことあるはずがない。

しかしすっかり混乱してしまっている私には間違えたのだとしか思えなかった。


どうしよう

どうしよう

・・・とにかくお詫びを言って、はやく彼の待つ教会へ行かなくちゃ


そうだ

本来の相手が待ちぼうけをくらっている

はやく行かないと!


「あの・・!」

少し俯いて考えを巡らしていた私は勢いよく顔を上げた。


その勢いで頭を下げ、ごめんなさい!!

・・をしようとしたのだけれども


タイミングよく伸ばされた目の前の男の腕にそれは阻まれた。


男は大きな両手で私の顔をそっと包むようにはさみ、軽く上を向かせる。

目が合うと 男はすっと目を細め静かに微笑えんだ。

まるで本当に私がこの人の花嫁であるかのような、優しい笑顔。


ぼぼっと顔が熱くなる。


ああ、きっと真っ赤な顔してるだろうな。

その笑顔は反則です、お兄さん。


愛されているような錯覚に陥りそうになり慌てて目をそらす。


「       。」

ふいに 左側から第三者の声がした。


神父さんかな。

その声に若干脱線してしまっていた自分の思考を取り戻し、死角になっており自分の顔が見えていないだろう神父さんにも事情を説明すべく左を向こうとする。


が、相変わらず私の顔をはさんだままの男の手により行動を阻まれる。


だから!間違いなのに!!

はなして!!


「はな・・・・んんっ!?」

離してと言うつもりで口を開いたら、タイミングよく近づいてきた男の唇に 阻まれた。


なんでー!

この人も驚いてたのにっ

間違いってわかってるのにっ


軽くない口付け。

容赦なく舌を絡み取られ、それはそれは熱いキス。

押しのけようにも いつの間にか抱き込むように私の後頭部と腰にまわされた腕にはかなうはずもなく。

されるがままとなってしまう。


そろそろ呼吸困難に陥ります、という頃になってやっと解放された。

蜜のように甘い・・・濃ゆいキス。

公衆の面前でペッと唾を吐きだすわけにもいかず、しぶしぶコクリと飲み込む。

驚くことにべとべとなのは口内だけだ。

口紅が少し剥げているだろうが、あれだけのキスをしても口周りはさらさらのすべすべでなんら変わりはない。


そっか 慣れた 人  なんだ


どこかずれた思考は混乱しているからか。


ぽろり と滴が落ちた



涙が こぼれる

ぽろぽろ頬を伝って落ちる


なんで

幸せな花嫁になるはずの日だったのに

なんで

愛する人との人生最大の記念日なのに

なんで

なんで


力が抜けて


なにするの!と怒鳴ることができない

大きく手を振り上げて ひっぱたいて 公衆の面前だろうとなんだろうと 唾を吐いて

大声で泣き喚いて


それから

走って 逃げて


それから

長いこと待たされてしまっている彼の胸に飛び込んで


それから

誓いのキスをちゃんとやり直すの




目の前の男は密着していた状態から一歩下がりじっとこちらを見つめている。

ぼろぼろ流す涙をそのままに、呆然と立ち尽くす私に何か話しかけてきた。


外人さんの言葉なんてわからないよ


ああ、けれど、口は入念にゆすいだ後に彼のもとへいかなくては

涙で流れてしまっている化粧もし直さなくちゃ



男が私の左頬を手で撫でる。

「        。」

ビクっと私の体が拒絶反応を示すが、男は構わず私に触れたまま声をかけてくる。



ずれた頭の回路を無理やり繋げ、何でもいいから返答しようとすると ピりっとした痛みがのどを走る。

「・・・っ・・ っ     。」

何度トライしても音を発することができない。



だから

なんで?


現実逃避している場合ではないらしい。


喉の 痛み 

痺れるような甘い痛み 

甘い甘い口付け 痺れるくらい甘い蜜のような・・・・


喉に震える手をあて男を見やる。

若干青ざめているだろう私の顔を見て、男はにっこりと満足そうに微笑んだ。

それはそれはもう 愛しいものを見つめるような極上の笑みで


背筋を冷たいものが走った


何が起きているのかわからずひたすら混乱する私に額に軽く口付ると 私の腰に手を回し強引に神父へと向い合せ、一礼。神父が何か言葉を連ねた後、くるりと回って招待客の方へ一礼。男が何か話すとにこやかに拍手をしていた招待客達は 少し驚いたような慌てたような そんなざわついた雰囲気になった。


お辞儀をした拍子に開かれたヴェールが下がり、私の顔を覆っていた。

花嫁が間違っていることなど誰も気づいてはいなかったのだろう。

男が事情を話したのだろうか。


よくわからないけれど 男はそのざわめきの中、強引に私に隣を歩かせ会場を後にした。





 






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