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東風涼し

イタリノ率いる東部革命軍は、帝都の統一革命軍総司令部に数人の東部軍代理人を残し、東部の中心地、東都ファリナーゼへ向かっていた。


帝都から東都へは、若い人が歩いて五日程の距離である。


道中は長く平坦な道が続き、主要な街道なのか、町も多くある。しかし、東部に近づくにつれ町もまばらになっていく。


街道沿いも、次第に荒れ地が目立つようになり、東部に入ると荒野と呼べるような規模の荒れ地も出てきた。


「やっと見えましたね。」


側近の男がイタリノに言う。


「しばらくバタバタが続いたからな、なんだか久しく感じるな。」


遠くにまだ霞んで見えるファリナーゼを見て呟いた。


町を囲む城壁から立派な城が顔を出している。


帝國東部の中心、ファリーナ城。

城壁の内側、ファリーナ城の城下がファリナーゼの街である。


帝政時代はファリーナ城に、皇帝より派遣された執政官が在任し、東部の管理、行政を執り行っていた。


そのため、ファリナーゼは東部の中心地となり、東の都で東都ファリナーゼと呼ばれている。


イタリノ一団がファリナーゼに近づきつつあった時、正面から一頭の馬が人を乗せ、こちらに向かって走ってきた。


一団は歩みを止め、側近がイタリノを囲む。


「総大将、総大将殿はおられますか!」


馬上の男が声を張りながら向かって来る。


どうやら先行隊の一人のようだ。


イタリノは側近を下げ、前に出る。


「どうした?何事だ。市中に異変か?」


先行隊の兵士はイタリノの前で馬を止め、敬礼をした。


「いえ、我々先行隊は只今ファリナーゼ城門前にて足止めを受けております。」


「足止め?何者にだ?」


「それがよくわからないのであります。武器を持った少年達が城門を占拠し、革命志士殿達が来なければ革命軍とは認めず、城門は開けないと…市中の状況がわからない今、無理に通ることも出来ず、ご報告に参った次第であります。」


「少年?何が起こっているんだ?」

イタリノ一団は皆、怪訝な面持ちになった。


一団の中の一人がイタリノに近づく。


「総大将殿、これは罠かも知れませぬ。もし、革命志士を狙った帝國の残党がファリナーゼを制圧していたとしたら、先行隊が市中に入ってしまっては、その事が知れて志士が来ないかも知れない。そして志士が来てからならば確実に目標を狙える。その為に少年を使い、油断を誘う…」


一部からおおっ!と感嘆の声が漏れた。


この男は自らも革命志士の、

タッコ・ポルポである。


喋り続けようとするポルポをイタリノが遮る。


「それは早合点が過ぎ無いか?先行隊を外に残すと言うことは異常をこちらに知らせている様なものだ。兵力がある程度勝っていなければ、自らも退路がなく、囲われる状況になりかねない。仮に一人討ち取れてもその後の反撃を考えるだろう、帝國の残党なら一度我々の力を受けているのだから尚更だ。」

ポルポは得意そうな顔からすぐに大人しくなってしまった。


少し考えたポルポは吹っ切れたように言った。


「何にしても異常なのは間違いありませぬ!私も革命志士であります、私がまず行って参りましょう!」


またすぐに得意そうな顔になるポルポを制してイタリノが言う。


「危険があるかも知れぬなら、総大将自らが率先して行くべきである。我がまず行く、お前達は後に続け。」


この時のイタリノは本陣の獅子と恐れられた時の顔であった。


ポルポを含む一団はすっかり圧倒され、イタリノに従うことにした。


平野一面が夕景に変わる頃、イタリノ一団はファリナーゼに到着しようとしていた。


次第にファリナーゼを囲む城壁がハッキリとし、その端は夕煙に霞んで見えなかった。


ファリーナ城の天守も見上げる高さになってきた。


この巨大な城壁と城だけでも、ファリナーゼの街が大きい事を示している。


その城の正面、城壁の中央であろう場所に、高さが5メートルはあろうかと言うほどのとても大きな木製の扉がある。


扉の両脇には櫓が組まれており、監視役の姿も見える。扉の上には城壁と一体となった監視台があり、敵を弓矢で狙えるようになっている。


分厚そうな木製の扉は固く閉ざされており、夕暮れも手伝って不気味ささえ感じる姿である。


その下に、十人ほどの騎馬兵がいた。


足止めされているという先行隊だ。


皆それぞれが馬を休めながら、どうしたものかと首を捻っていた。


先行隊は、行進の進路を確保し、危険があればそれを駆逐し、奇襲やゲリラ戦の標的になりやすい。


その為、本隊の安全を担う使命を与えられた先行隊は精鋭により編成されており、その職務から常に最高の警戒心を保っている。


目的地が目の前であり、本拠地という安堵感があるとはいえ、相手に背を見せないまでも、剣を鞘に納め、身を守る盾は後ろに背負い、哨戒には欠かせない馬から降り、しかもそれを休ませている。


この事から城門を占拠しているという少年達は特別に敵対的、攻撃的ではないということをイタリノは悟り、少しホッとしたようであった。


セモ・リナが危惧した最悪の状況ではなさそうである。


「本隊が来たぞ!」


先行隊の一人が声をあげる。先行隊員は素早く整列し、本隊に対して敬礼で出迎える。


この時ばかりは城門に背を向け、敬意を示す。


本隊の弓兵が万が一に備え、イタリノの先を城門を警戒しながら進む。


城門前に到着した本隊は、全員で先行隊に対し敬礼を返す。これは道中の安全に対しての感謝であり、労いの意味を込めた敬礼であった。


「重責ご苦労であった。危険なく到着出来たこと、感謝する。」


再び全員で敬礼をする。


「ありがとうございます!」


先行隊も力一杯敬礼を返す。


精神面、礼儀など特にイタリノは厳しかった。人の内面の強さは戦闘時に現れる、内面が弱ければ、どのような武器を持っていても敵を打ち負かすことは出来ない。人を動かすのは武器や装具ではなく、人の内面にある意志である。と、イタリノは兵士に対しいつも教えていた。


先行隊の中心にいる男がイタリノに近づき、方膝を立て、伏した。


「申し上げます。現在ファリナーゼ城門はファリナーゼ守備隊と名乗る少年たちに占拠され、通行を妨害されております。

少年たちは革命志士がいなければ革命軍と認めず、城門を開くことはないと主張しており、幾度か説得と威嚇を試みたのですが、これに応じず、市中の状況も分からず、まだ少年でありますので強行手段を取る訳にも行かず、このような状況になっている次第であります。」


この男は先行隊の隊長である統一革命軍哨戒部隊隊長ガリク・アーリオである。


アーリオは立ち上がり、続けた。


「少年たちに攻撃の意思は無いようであります。装備も軽装備ですし、隊長と呼ばれている者も齢17、8程の少年です。」


「少年たちの、自警団か…それならばこんなにも未来に頼もしい事はないんだが。」


イタリノは櫓の上を見つめた。

そこに立つ少年兵はイタリノ一団を眺め、大人数の兵団に圧倒されているのか、表情は強張っていた。


「しかしアーリオ、お前はいつの間に革命志士を辞めたんだ?」


イタリノがイタズラっぽく言う。


「いや、それが、そのぉ…」


アーリオはばつが悪そうに頭をポリポリとかくしか無かった。


「何度も説明をしたんですが、革命志士を出せの一点張りで、そのぉ…ずっと信じてもらえず、あのぉ…」

いきなりアーリオの発言に締まりが無くなってしまった。


イタリノとアーリオの会話に意識を注いでいた一団は和やかな笑いに包まれた。


実はアーリオ自身も革命志士の一人である。しかし、ファリナーゼの少年たちには革命志士と認識されなかったのだ。


城門の少年兵たちは、それを不思議そうに見つめていた。


それもそのはずである。敵かも味方かも知れぬ武装集団を前に、笑いながら話すなどあり得ないからだ。


もうすでにイタリノは何かを悟ったようであり、皆の緊張をほどこうとしていた。


イタリノは真面目で正義感の塊のような性格であるが、ユーモアも持ち合わせており、その事も支持される要因であった。


「まぁそれも仕方ない。ダスイン出身のアーリオをファリナーゼの子供たちが知らないのは無理もない。ヒーローになるのは家に帰るまで取っておけ。」


イタリノのが慰めるように言うと、また笑いが起こった。

アーリオはイタリノにちょんとお辞儀をした。


アーリオの出身地であるダスイン地方は、平野の東南部に位置し、南には大河が流れ、東は山林地帯となっている。


東部の中心からやや西よりに位置するファリナーゼからは、帝都へ上るよりも遠い場所である。


そのような僻地の事など、子供には存在すらおとぎ話のようなものだ。


イタリノのが前に進むと、革命軍、少年兵共にイタリノを注視し、耳を傾けた。


イタリノは少年兵に語りかけるようにゆっくりと、しかし威厳を込めて話した。


「私が革命志士総大将である。その城門を開き、我々をファリナーゼへ通して欲しい。君達のリーダーに会わせてくれないか。」


城門がざわつく。

まだあどけない少年兵の一人が、声変わり前の高い声で叫ぶ。


「証拠を見せろ!」


少年兵の発言に、少年兵達自身がざわつく。


フッと口元に笑みを浮かべたイタリノは一団に振り替えると冗談ぽく言った。


「私もまだまだのようだ。」


一団の中からクスクスと笑いが漏れる。アーリオはまたちょんとお辞儀をした。


イタリノは真剣な表情で少年兵を見直すと、右手を高く掲げた。


「見せてやれ。」


すると、兵団の中から一竿の大きな白い旗が立った。革命旗だ。


茜から次第に暗い闇へと変わってきた空へ、夜の黒さにも染められる事のない、白い革命旗がたなびいた。


それは蔑まされてきた東部の地に、暗い歴史を切り裂く希望が叶った事を示すかのようにも見えた。


この革命により、七色の尾を持つ鳥のように、皆自由へと飛び立とうとしているのである。


「隊長ー!」


少年兵達が一斉に隊長を呼ぶ。


一人の凛々しい顔立ちの少年が見張り台より顔を出す。革命旗を確認したその少年は、イタリノ達一団、及び革命旗に敬礼をした。


「あなた方をファリナーゼへお迎え致します。私はファリナーゼ守備隊、城門警備隊隊長、ピッコ・ポリツィアと申します。よろしければお名前をお教え下さい。」


イタリノは胸を張り、背筋を伸ばし、礼儀と威厳を込めて言った。


「我は統一革命軍副長、及び革命志士総大将、プリモ・ウン・イタリノである。」

 

「あなたがそうでしたか!お会いできて光栄です。今までのご無礼、どうかお許しください。門を開けろ!!」


しばらくすると、巨大な扉が地面を擦る鈍い音と、蝶番が軋む高い音と共にゆっくりと開いた。


扉の向こうには、他の少年兵達が道をつくって出迎えていた。


「どうぞお通りください。我らのリーダーがファリーナ城にて革命志士殿をお待ちです。是非お会いください。」


「それでは失礼する。」


イタリノが言うと、先行隊を先頭にゆっくりと門へ進みだした。


「敬礼!」


ポリツィアの号令で全少年兵が一斉に敬礼をする。


イタリノ一団も敬礼を返し、市中へと進んだ。

※人物紹介※


*タッコ・ポルポ

東部革命軍総司令部参謀

革命志士

たまに暴走しがちなお調子者で、イタリノにいつも制止されている。

しかし、頭が切れ、緻密な作戦を計画することに長けており、戦闘では勇猛

イタリノを深く尊敬している


*ガリク・アーリオ

統一革命軍哨戒部隊隊長、東部軍先行隊隊長

革命志士

真面目で少し気が弱い部分がある

しかし、対ゲリラや極地戦を得意とし、状況の分析能力に長けている

イタリノの信頼も厚い


*ピッコ・ポリツィア

ファリナーゼ守備隊城門警備隊隊長

18歳の少年、城門の少年兵をまとめている

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