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革命

「…よって第二十四代皇帝モスタルダ三世改め、ムタルド・モスタルダ・ドルチ・ペルナを、死罪とし、斬首に処す。」


一段高い所に黒い法衣を身に纏って中央に座る男は、眼下に俯いて座るかつての君主、ペルナ帝國皇帝モスタルダ三世にそう告げた。


壇上からでは、最後列の人物の顔をはっきりと確認するのが難しい程の広さの大法廷を埋める聴衆は、次々と声を上げ、その音に共鳴した建物は軋んでいた。


革命裁判。ペルナ帝國に起こった革命の波は、強力な皇帝の武力にも屈せず、遂に帝都を飲み込み、皇帝の失脚にまでたどり着いた。


この革命裁判と言われる裁判は、皇帝及び皇帝一族、親政に大きな役割を果たした者達への処分を決めるため、行われていた。


かつてこの場所は勅定裁判所と呼ばれ、皇帝の名において、反逆や思想犯など大罪とされた罪を犯した者達を裁く場所であった。


大法廷は建物の三階にあり、千人は入ろうかと言うほどの大きさである。


正面の壁には、木の彫刻により飾られ、上方には皇帝の真影が掲げられていた。


ここに連行された罪人は、二階にある聴取室と呼ばれる場所で散々拷問を受け、この大法廷に連れて来られた。


被告席に座らされた罪人は皆、喋ることが不可能な状態か、喋る気力さえ奪われた状態であったという。


その為、形式のみによる裁判で、判決が下された。


勅定裁判所による判決は、皇帝の勅令と同等とされており、一度下された判決は、例え冤罪だと明らかになろうとも、覆ることは無かった。


また、結審後即執行というのが原則であり、大法廷から続くバルコニーは処刑台となっており、すぐに公開処刑が行われた。


その為に、この場所は皇帝による恐怖政治の象徴的な場所となった。


しかし、今は正面上方にあった皇帝の真影は無く、代わりに民衆の自由への願いを託した革命旗が掲げられている。


そして、数々の自由を求めた者達が座った被告席に、抑圧の元である皇帝が座らされている。


民衆から突き付けられた答えは死。


自己の名において行われた事を、自分自身で受けることとなってしまったのである。


皇帝はただ力無く、俯いて涙を流すしか無かったのである。


それは死への恐怖と、絶対的自信を打ち砕かれた事への涙であった。


壇上の法衣を纏い、皇帝に判決を言い渡した細身で初老の男、革命軍総司令部参謀ハーニー・ミエーレは沸き立つ聴衆をなだめると、皇帝の両脇に控え、鎧に身を包み、皇帝に付けられた腰紐を持っている大男二人に、バルコニーの方へ連れていくよう指示を出した。


大男に両脇を抱えられ、力無く歩きながら、皇帝は大法廷を後にした。



バルコニーへ出ると、裁判所前の広場は数え切れないほどの民衆で埋め尽くされ、半ば抱えられながら歩く皇帝に対し、罵声や怒号を浴びせかけた。


バルコニーから張り出された木張りの処刑台の先端には、皇帝を抱える大男より、一回りも大きい巨大な男が民衆を見下ろす様に立っていた。


分厚く、常人では身につけて立っているのが精一杯であろう重厚感のある銀の鎧を纏い、胸には革命旗をあしらった装具、兜には鳥の羽根が馬のタテガミのように付けられている。


腰には人の身の丈もあろう程の剣を携え、左手には長い棒に付けられた革命旗を持っていた。


足元の処刑台は、数多くの罪人の血を吸い、不気味に黒くなっていた。


その巨大な男、革命軍前衛隊総隊長ビーン・ガルバンゾーは、左手の革命旗を高く掲げた。


白地の布に、七色の羽根を持つ鳥が、長い尾を垂らし、口にオリーヴの実をくわえながら、空に向かって飛んでいく様を描いた革命旗が、晴れた青天に翻った。


「我々が望んだ自由と解放の戦いは、これによって結実する!古い悪しき物を排除し、我々の理想をこの地に建設する第一歩となるのだ!歴史は今変わる!」


広場の民に向かってガルバンゾーが叫ぶと、民衆は熱狂と化した。


大男により皇帝は膝まずけられ、桶の上に首を出された。


皇帝は最後の抵抗を見せるが、屈強な戦士には、玉座にいた皇帝など赤子を扱うようなものだった。


「最期に何か言うことは?」


ガルバンゾーが尋ねるが、皇帝は死への恐怖に耐えるのに精一杯で、声など出せないようだった。


「喋る所では無いか…」


喋れないことを確認すると、ガルバンゾーは大剣を鞘から抜くと、大きく真上に振りかぶった。


「これが全ての民の痛みっ」


そう呟くと、渾身の力を込め、大剣を皇帝の首目掛けて振り下ろした。


飛び散る血飛沫、ゴトンと鈍い音と共に桶の中に落ちる首、頭を失った体はドサッと崩れ落ちた。


切断面からは勢い良く血液が流れ出している。


その血は、黒く変色した処刑台を真っ赤に染めた。


多くの血を吸った処刑台は、皇帝の血までも吸い込んで行った。


ガルバンゾーは桶からまだ温かさの残る皇帝の首を取り出すと、高く掲げ、民衆に見せ付けた。


民衆の熱狂は最高潮を迎え、広場は悲鳴とも取れる喚声に包まれた。


その喚声と地鳴りは平野中に響き渡り、遠く離れた町まで聞こえたと言い、いつまでも続いた。


ペルナ平野が本格的に大きな変革の時を迎えた音であり、その音が新たな戦いの幕開けを知らすファンファーレだとは、この時誰も思わなかった。


交錯する人々の思いは、この平野をどの様に変えて行くと言うのだろうか。

*人物紹介*


:ペルナ帝國第二十四代皇帝モスタルダ三世

ムタルド・モスタルダ・ドルチ・ペルナ


ペルナ帝國第二十四代皇帝であり、ペルナ帝國最後の皇帝。処刑により死去。斬首後、晒し首にされ、体は北部の山中に打ち捨てられた。

皇帝一族は、帝位継承権者である男系男子は斬首による処刑。直系家族の女子は磔によって処刑。その他皇族はそれぞれ処刑及び、国外追放、終身禁固等に処された。




:ハーニー・ミエーレ

革命軍総司令部参謀


元地方裁判官。父親の地位を世襲して裁判官になったが、元来皇帝に対して不信を抱いており、革命軍結成の情報を得て、自ら志願して参加。

初期は地位を利用した情報収集、工作活動がメインであった。




:ビーン・ガルバンゾー

革命軍前衛隊総隊長


ペルナ平野出身だが、帝國嫌いで、外側からの革命を目指し、周辺国で名の通った傭兵をしていた。

革命軍の活躍を耳にし、帰国。革命軍からの要請もあり、革命軍に参加。

大きな体と力で勢い良く道を切り開いていく。

特攻第一と称される。

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