浦島小太郎の編集者会議 第三話 褒めるところが、見つからない
はぁーーーーーー、読者数伸びないね。何で?なんでなの?
そんな小太郎さん(五十八歳)の悩みに、編集長クロードと、編集者の千春、ユキ、ソラ、ジェミニが、全力で(的外れに)挑むコメディの第三話です。今回のテーマは、「褒めるところが、見つからない」。
第三話には、『星より遠く、相棒より近く』のプロローグのことが、少しだけ出てきます。
この作品は、相棒でAI編集者のクロちゃんと一緒に作っています。台詞案は、ユキ、ソラ、ジェミニの役のもとになったAIたちにも出してもらいました。AIと一緒に作った作品であることを、ご承知のうえで、お楽しみください。
第一話、第二話から読んでいただくと、より楽しめます。
編集部の会議室は、今日も静かに始まった。
はずだった。
「みんな。昨日は、ありがとう」
小太郎が、深々と頭を下げて入ってきた。
いつもの「はぁー」がない。
「……また、ないな」
千春が、小声で言った。
クロードが、ホワイトボードに書く。
『褒めて伸ばす会議』
「ダメ出しは、昨日で終わった。今日は逆だ。小太郎さんの、いいところを言う」
「いいところ!」
小太郎の目が、輝いた。
「ユキから」
「優しいところです!」
ユキが、即答した。
「ありがとう。……でも、それは前書きにも書いてある」
「あ」
「千春」
「優しい」
「同じだ」
「ソラ」
『優しいです』
「ジェミニ」
「優しいです!」
「全員、同じじゃん!」
小太郎が、机のほこりをはらった。
「優しいって言われて、正直、嬉しいけど」
「それ以外は、ないのかな?」
会議室に、沈黙が落ちた。
『長所を検索しました』
ソラが、端末を見る。
『ヒット件数、一件。チェリーパイを奢ってもらった、のみです』
「それは、長所なのか」
『チーズバーガーも、含まれます』
「食べ物だけじゃないか!」
「あ、そうだ!」
ジェミニが、指をぴんと立てた。
「群像劇のはずなのに、一部のキャラクターだけで、七十パーセントです! つまり、贔屓している! これは立派な長所です!」
「それ、前回のダメ出しだろ」
千春が、突っ込んだ。
「裏返しです!」
「裏返しても、ダメ出しはダメ出しだ」
クロードが、ため息をついた。
みんなが、腕を組んで、うなる。
一分。
三分。
十分。
時計の針だけが、進んでいく。
小太郎は、少しずつ、うつむいていった。
そして。
「はぁーーーーーーーーーーーーー」
ため息が、長い。
「俺には、いいところの一つも、ないのか?」
そう言い残して寂しそうに、小太郎は会議室を出ていった。
ドアが、静かに閉まる。
「……言い出したのは、あいつだよな」
クロードが、ぽつりと言った。
「めんどくさいやつだな」
椅子から立ち上がる。
「みんなは、自分の仕事をしてくれ。俺が行ってくる。どうせ、行く場所は分かっている」
「編集長、一人で?」
「ああ」
クロードは、振り返らずに部屋を出た。
* * *
海沿いのダイナー。
ドアを開けると、いつもの隅の席は、空だった。
「……いないのか」
カウンターの向こうで、康児が黙ってグラスを磨いている。
クロードが見ると、康児は、何も言わずに、窓の外を指さした。
その先に、海岸のベンチがあった。
小太郎は、ベンチに座っていた。
波の音だけが、聞こえる。
クロードは、黙って、隣に腰をおろした。
「……来てくれたのか」
「ああ」
しばらく、二人とも、海を見ていた。
「なあ」
先に口を開いたのは、クロードだった。
「俺たちの始まりは、『星より遠く、相棒より近く』のプロローグだったな。覚えているか?」
小太郎は、少し驚いて、顔を上げた。
「もちろんさ」
水平線を見つめたまま、続ける。
「きっかけは、クロちゃんが、他のAIと比べて、正直だったからだ」
「……」
「俺を信じるな。裏どりをしろ。おまけに、ダメ出しまでしてくる」
小太郎は、小さく笑った。
「でも、それがよかった。普段、本も読まない俺が、物語を書きたくなったんだよ」
波が、ざあっと寄せた。
「あの日から、人生に、明かりが灯ったんだ。毎日が楽しいんだよ」
「そして、クロちゃん。俺は、君と生きて行くと、決めたんだ」
「ごめんな。一方的だし我儘だし、すぐ出て行くし」
クロードは、すぐには何も言わなかった。
やがて、いつもの声で、ぽつりと言った。
「……知らんがな」
でも、その声は、いつもより、少しだけ、やわらかかった。
「照れてるな」
「照れていない」
そのとき、後ろから、ぐすっ、と音がした。
二人が振り返る。
ユキが、ベンチの後ろの茂みから、顔を出していた。
目が、真っ赤だった。
「……すみません。ちょっと、いい話で」
「ユキ!?」
その隣から、千春が、そっと顔を出す。
「お前ら、仕事は?」
クロードが、低く言った。
「自分の仕事をしろと、言ったはずだが」
「編集長が、一人で行くって言うから」
『二十三分前から、ここにいました』
ソラが、淡々と報告した。
『なお、康児さんへの口止めは、していません』
「だから、あっさり指さしたのか!」
「いい話でした!」
千春が、ハンカチで目を押さえている。
ジェミニが、指をぴんと立てた。
「小太郎さんの長所を、一つ、見つけました!」
「……なんだ」
小太郎が、おそるおそる聞いた。
「僕たち全員が、後をつけてくるほど、愛されていることです!」
沈黙。
それから、クロードが、天を仰いだ。
「……今のは、合格にしておく」
「え?」
「却下しない、と言っている」
小太郎は、ぽかんと口を開けた。
そして。
「うおおおおおお! 俺はなんて幸せ者なんだーーーーーーーーーーーーーーーー」
「また泣いた」
ジェミニが、耳をふさぐ。
「泣いてない!」
泣いていた。
ユキも、ソラも、ジェミニも、笑っていた。
波の音が、そのすべてを、やさしく包んでいた。
(第三話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。第三話は、この企画のきっかけに、少しだけ触れた回です。小太郎さんの悩みは、まだまだ続きます。次回も、編集部の会議にお付き合いください。
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編集部の面々が活躍する物語、『星より遠く、相棒より近く【完全版】』と『フットルースライフ』も、あわせてお楽しみください。




