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第三話 守り人の志

――エルジオーネ大陸


フェルレの小隊はラヴィエルへ寄りまだ残っている人々にピエント村へ避難するよう声を掛け、自身達も一度ピエント村へと戻っていた。


 

赤の発煙筒は緊急事態――。

 

ピエント村の物見櫓、大陸を跨ぐ山間の櫓、そしてオラディ村へ。


エルジオーネ大陸から連動した発煙筒による緊急事態はオラディ村へ直ぐに届いた。


フェルレがピエント村に戻った頃には既にオラディ村へと知らせは届き、発煙筒を打ち上げた際にフェルレは詳細を伝書鳥に託しブルクへと飛ばしていた。

 


先程よりも慌ただしくなっているピエント村。


「フェルレよ。迅速な対応ありがとう。」


「いえ…。森へ入っている村人へは隊員を向かわせてます。他の村人の点呼はお済みですか?」


「そうかそうか。森にいる数名を除いては問題無い。」


「そうですか。分かりました…!では、外は危険かも知れませんので自宅で待機をお願いします。他に何か問題はありますか?」


「うむ。今の所は問題無い。食料も備蓄している物で足りる。万一に備え他の大陸を渡る準備もしておくように声も掛けた。」


「分かりました!では…!」


村長と村の状況を共有し、フェルレは集会所へと向かった。


リアンは慌ただしくなる外の音を聞き、作業を中断して居間へ戻り椅子に腰を掛け、今朝シエルと最後に交わした会話を思い出していた。


――――


「お母さん、また来るからね!」


「ええ。楽しみにしてるわ。」


アジルはシエルと約束を交わし手を振るとリアンとシエルを二人にした。


「あなた…。」


「ああ。好奇心旺盛で正義感が強い所…だんだん君に似てきたよ…。あっという間に大人になった…。」


「そうね。…綺麗な所も似てるでしょ?」


「ははっ…。そうだな。」


寂しげに話すリアンだったがその言葉に微笑む。


「寂しそうね。でも、もうアジルは立派な大人の女性になった…。」


「ああ。」


「私達の子供よ?寂しい顔は向けないであの子を信じて――。」


――――


(君の言う通り、アジルはもう大人だ…。今まで失いたくない想いで成長を見届けていたが、俺は守るつもりで、縛っていたのかもしれない……。)


呟きながら制作中の剣に施された"自由"の石言葉を持つ、宝石に触れる。


そして、作業場を出てアジルの部屋のドアの前に立った。


 

「アジル…。さっきは済まなかったな。少し話をしようか。」


問い掛けたが一向に返事が無く不思議に思いノックをした。


「入るぞ?」


ゆっくりとドアを開け中を覗く。


「……?」


部屋にはアジルの姿は無く、机の上に一枚の紙切れが置いてあった。


 

『さっきはごめんなさい。お父さんからの愛はいつも感じてます。いつもありがとう――でも、今私にはできる事があるの…。どうか許して下さい。』

 


小さな声で読み上げ、リアンはゆっくり頷く。


「うん…それでいいんだ。俺は信じてる…。」


そう言い残すと作業場へと戻って行った。


 

 

集会所には多くの隊員が集まり騒がしくなる。


「皆、迅速に動いてくれてありがとう。今の所、怪我人等の情報は無い。」


「本当に朱の竜が現れたんですか…?」


「ああ。」


隊員の中には、未だに竜の出現を信じていない者が多くいた。


それは恐怖によるもので、言い伝えを子供の頃から聞いてきた事が大きく関係し、中には気が荒くなる者、恐怖に会話で言葉が詰まる者もいた。


隊員達の表情は固く、集会所内の空気は重く冷たい。



そんな中フェルレは集会所の中心にある机に飛び乗り、隊員達を見回し口を開いた。



「私も竜と対峙した事は無い…。確かに怖い――。」


その一言は隊員達のざわめきを止める。


「でもね、恐怖より先に思い出して欲しい…。人を救うことで得たモノを…。命の重さ…感謝された時の顔を。」


隊員達の視線はフェルレに集まった。


「恐怖を捨てろとは言わない…。だがな…自身にも守らなければならない大切な存在がいるはずだ。」


隊員達の中には目を瞑る者も現れる。

 

「ソウルガーディアンズならば恐怖に震える以上に守るという強い意志を持て…!人々にとって私達は掛け替えのない頼られる存在なのだ…!」


フェルレの小さな身体から発せられた力強い鼓舞に一瞬沈黙すると隊員達の拳を握る音が広がった。


 

「それにオラディ村から隊長達が応援に来てくれる。彼等の強さを知らないお前達じゃないだろう…。心強い仲間が私達にはいるのだ…。」


隊員達は頷き、重く冷たかった空間には熱気が漂い始めた。



すると、フェルレの視線の先、集会所の扉が開く。


隊員達の熱で揺らめく空気の影響を受けていないかのように、アジルはそこに立っていた。



アジルはフェルレに気づき、手を挙げるとすぐに駆け寄った。



アジルの通った場所のざわめきは消え、フェルレは隊員達とは異なる気を放っていたアジルに呼吸の仕方を忘れたかのように止まる。


 

「…何故ここに居る…?」


「姉さん…。私も手伝いに来ました…!」


「…リアンさんは分かっているのか?」


「大丈夫です。必ず私の事を信じてますから…!」


――――

 


「フェルレ。ちょっといいかな?」


五年前のある日の夜、ピエント村で隊員達の訓練を見守るフェルレにリアンは声を掛けた。


「リアンさんですか。どうしました?」


「アジルの事なんだが…。」


神妙な面持ちのリアンにフェルレは心当たりがあった。


 

「やはり気付いていましたか…。」


「ああ。気付いていないフリをしていたが言っておかないとと思ってな。」


アジルはフェルレに教えを乞い、何度も頭を下げ、承諾されると毎日の様に通い訓練を受けていた。


「率直に言うが…アジルには守り人になる必要は無いと思ってる…。」


「…。」


返す言葉が見当たらなかった。

 

訓練を受けに来た小さな少女は早くから才能を見出し、他の隊員とは明らかに違う目付きをしていた。


人々を守るという強い意志が眼に宿っていたのだ。


フェルレはそんなアジルを一番弟子とし全てを叩き込んだ。

 

――――


(リアンさんの想いをも変えたか…。あの時よりさらに強い意志を持った眼だ…。しかもこの子からは恐怖というモノを一切感じない。)


フェルレはアジルの眼を見て心の中で呟く。

 

「そうか…。今の所、櫓の監視からの被害情報は無い。」


「そうですか。それは良かったです。」


「今はこちらからは最低限で要所要所に隊員を配置。今夜にはオラディ村から隊長達も来る。戦力が整ったらクレレに向かう。」


「分かりました…!私もクレレに行きます。」


「本当に大丈夫か?」


「はい…!必ず力になれるはずなので。」


真っ直ぐとフェルレを見つめる眼力と圧倒的な自信にフェルレは無言で頷く。


それからフェルレは隊員達に指示を出した。


周辺の村の入り口に隊員を置き定時連絡をさせ、森へ入っていた村人の保護も無事に完了し、後は応援を待つだけとなった。


 

 

外は既に陽は落ち、隊員達の動きも落ち着きピエント村は静かな夜を迎えていた。


 

「フェルレさん!オラディ村の隊員達が着きました…!」


集会所の扉が勢い良く開き、到着の知らせを聞くとフェルレは迎えに外へ出る。


先頭の馬車に乗る三人の隊長はフェルレを目視すると手を挙げた。



「応援ありがとうございます。」


「よく報告してくれた。まぁ話しは集会所でしよう。それより、隊員達は気が張りつめて疲れているだろう。我々の隊と一度交代し休憩させてあげてくれ。」


「ありがとうございます。」

 

オラディ村の隊員達はフェルレの案内で集会所へと向かった。


 

集会所に着くとフェルレは中に入り隊員達に休憩するよう声を掛ける。


フェルレの言葉を受けて士気は上がっていたが、やはり精神的に疲労していた。


そして、休憩を言い渡された隊員達は二階の広間へ向かい、要所で待機する者も応援の隊員と交代した。


要所に向かわなかった応援の隊員達も集会所で少しの休憩を取る事にし、三人の隊長含むフェルレは今後の動きについて話しを始めようと中央にある椅子に腰を掛ける。


 

「アジル。お前も少し寝なさい。」


そんな中その場に留まっていたアジルに声を掛ける。


「大丈夫です。私は今まで家に居ましたので。」


「無茶はしないでくれよ?」


「はい。」


「では飲み物を用意して貰えるかな?」


「分かりました。」


アジルはそう言われると飲み物が置いてある棚に向かう。

 

「彼女は?とても若く見えますが…。」


フィオルは心配そうな表情でフェルレに問う。


「そうだな。いい機会かもしれない。紹介しましょう。」


フェルレは顎を組んだ手に置き、口を開いた。

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