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死に場所はまだ遠く

彼方に眠る道


この物語は――死に場所を探しながら旅をする、男たちの物語である。


荒れ果てた戦場を抜け、生き延びた者は何を求めるのか。ただ静かな眠りか、それとも誇りを刻む最期か。答えはまだ、誰も知らない。


──酒場の扉が軋んだ音を立てて開いた。入り込んだ夜風とともに、一人の旅人が中へ足を踏み入れる。


埃をかぶった外套。長旅の疲れを隠さぬ顔。その男の名はコリン。宿を探して立ち寄っただけのはずが、この出会いこそが物語の始まりだった。


カウンターの奥。粗末な椅子に腰かけ、片腕のない男が一人、酒杯を傾けていた。名はガレス。かつて部隊を率いた将だが、今はただ酔いの中で過去を忘れようとしている。


コリンの視線とガレスの視線が、ふと交わった。静かな夜の片隅で、旅の火種が小さく灯り始める――。



カウンターの奥で、ガレスは杯を傾け続けていた。片手で持つ酒は、やけに重い。


「ここらも、変わり映えしない夜だな……」彼は小さく呟き、視線を酒場の主人へ向ける。


「おう、ガレス。今日も一人か?」主人は皿を拭きながら軽く肩をすくめた。


「そうだ。客は騒がしいばかりで、話し相手にもならん」ガレスの声は乾いていて、笑みなど浮かんでいない。


「なら、もう一杯どうだ?」主人は差し出す酒を置き、無理に笑みを作る。ガレスは無言で頷き、酒を飲み干す。


その時、酒場の扉が軋む音を立てて開いた。夜風に揺れる外套をまとった男――コリンが足を踏み入れる。長旅の疲れを隠さぬ顔が、ガレスの視線を自然に引き寄せた。


「宿を探しているんだが、ここらに泊まれる場所はあるか?」コリンの声は落ち着いていて、どこか柔らかさもある。


「宿なら街の外れにある。安宿だが、寝るだけなら十分だ」ガレスは淡々と答える。片手で酒をかき混ぜながら。


コリンは小さく頷き、ガレスの隣の席に腰を下ろした。「旅の者にとっては、夜が長い。こうして一杯やりながら休めるのはありがたい」


ガレスは視線を上げ、初めて相手の顔をまじまじと見た。「そうか……お前も、何か背負っているのか?」問いかける言葉に、自然と重みが滲む。


コリンは少し微笑み、杯を掲げた。「まあ、誰にでも終わりはあるだろう?俺はまだ、その場所を探している」


その言葉に、ガレスの胸が一瞬、ざわついた。かつて戦場で失ったもの、戦友の死、そして自分の右腕……死に場所など、もう考えることも忘れていたはずだった。


「死に場所、か……」ガレスは低く呟き、再び杯に口をつける。


コリンは頷き、目を細めた。「もしよければ、一緒に探してみないか?」


その誘いは、静かに、しかし確かにガレスの日常を変えた。その夜、二人の男は旅に出ることを決めた――。



翌朝、街の門前に二人は立っていた。小鳥のさえずりと市場のざわめきが遠くに残る中、旅の空気が二人を包む。


コリンは肩に掛けた外套を整え、ふとガレスを見やった。「ところで、ガレス。剣は持って行かないのか?」


ガレスはゆっくりと笑みを浮かべた。「旅には剣など不要だろう。戦う相手も、今の俺にはいない」片手を見せるように腕を下ろす。右腕は、戦争で失ったままだ。


「それに……もう片腕がない。触ることすらできやしない」


コリンは少し驚いた表情を見せたが、やがて肩をすくめて笑った。「そうか……なら、俺が荷物も剣も守るよ。ガレスは自由に歩け」


ガレスは微かに頷き、空を見上げた。「ふん……そうさせてもらう」


二人はゆっくりと歩き出す。街の喧騒が背後に遠ざかり、道は静かに彼らを迎える。まだ見ぬ終焉の場所へ――男たちの旅は、こうして始まったのだった。



数日間の野宿を経て、二人は新しい街にたどり着いた。城壁に守られた街は想像以上に広く、広場は人々であふれていた。商人が呼び声を上げ、子供たちが走り回り、行き交う人々の笑い声が空気を満たしている。


「こんなに活気がある街か……」ガレスは片手で帽子を押さえ、遠くの広場を眺めた。


「これなら、少しは腹の足しになるものも見つかるな」コリンも頷きながら、荷物を背負い直す。


広場を抜け、二人が路地裏を歩いていると、ふと座り込む男の姿が目に入った。埃まみれの服を纏い、肩をすくめて影に沈むように座っている。


ガレスは足を止め、眉を寄せた。「なんでこんな豊かな街で、路地裏で暮らしているんだ?」


男は顔を上げ、疲れ切った瞳で二人を見た。「……俺は、罪を犯したんだ」声はかすれ、震えている。「そのせいで、こんな生活を強いられている」


男はしばらく沈黙してから語り始めた。


「……十年前のことだ。俺は村の守り手だった。家族も、仲間も、皆俺の手で守ろうと思った――それなのに……」声が震え、握りしめた拳からは小さな震動が伝わる。


「戦いに出たんだ、俺は。侵入してきた盗賊を退けるために……でも、決断を誤った。村を守るどころか、逆に巻き込んでしまった。仲間も、家族も……何人も死なせた」


「俺は……罪を償うために、盗賊の残党を追い続けた。だが、罪を背負う重さは消えず、結局自分の命を削る日々になった」男は肩を落とし、うつむく。「街の広場で笑う人々を見ても、俺には関係がない。俺は――罰を受け続けるしかないんだ」


コリンがそっと口を開く。「……だが、それでもまだ、生きる道はあるはずだ」


男の瞳がわずかに揺れ、闇の中に光が差し込むように見えた。その夜、路地裏での会話は深夜まで続き、男は自らの過去を吐き出し、二人は静かに受け止めた。


やがて男はゆっくりと顔を上げた。「……話したところで、どうなるわけでもないかもしれない」


コリンは静かに笑みを浮かべる。「でも、俺たちは聞きたいと思った。お前の過去を知ることで、俺たちも進むべき道を見つけられる」


ガレスは片手で地面を叩き、低く唸るように言った。「お前の罪の重さは、俺にもわかる。俺も戦場で片腕を失った。後悔も、負い目も、消えやしない」


男はゆっくりと頷き、埃まみれの手を伸ばした。「……分かった。俺も行こう。もう一度、自分を試す旅に出る」


ガレスは片手で男の手を軽く握り、微かに笑った。「ふん、じゃあ決まりだな。名前は?」


「ライアンだ」男はかすかに微笑み、背中を伸ばす。「ライアン。これからは、よろしく頼む」


こうして三人――ガレス、コリン、ライアン――の旅が正式に始まった。街の明かりを背に、三つの影が夜の道を踏み出す。まだ見ぬ終焉の場所を求めて――彼方に眠る道を、静かに歩き始めたのだった。


街を発つ日の朝。広場は市で賑わい、商人たちの声と人々の笑い声で溢れていた。


ガレス、コリン、ライアンの三人は旅支度を整え、城門へと歩いていた。


その途中――ライアンの指先が無意識にすっと伸び、通りかかった商人の腰袋に触れた。次の瞬間、小さな銀貨が手のひらに収まっていた。


「……おい」低い声で呼び止めたのはガレスだった。


ライアンは振り返り、何食わぬ顔をしている。「何だ?」


ガレスは片目を細め、その手をじっと見た。「その手の中身、出せ」


ライアンは一瞬ためらったが、溜息をつきながら銀貨を見せた。「……癖なんだ。路地裏で生きてきた。スリをしなきゃ、飯にもありつけなかった」


「分かるさ」ガレスは短く言い、だがその声には鋭さがあった。「だが、それはここで終わりにしろ。俺たちはもう旅人だ。スリなんぞ続けりゃ、信用を失い、道中で首を刎ねられるぞ」


ライアンは眉をひそめ、口を結ぶ。コリンが間に入るように微笑みかけた。「ライアン。癖は簡単に抜けないものだ。でも、旅は一人じゃできない。俺たちは仲間なんだ」


ガレスは続ける。「俺は片腕を失った。戦場でな。お前は罪を犯し、路地裏に沈んでいた。……だが今は違う。これからは三人で歩くんだ」


ライアンはしばらく黙っていたが、やがて拳を強く握りしめた。「……分かった。もうやらない。信じてくれとは言えないが、これからは気をつける」


ガレスは小さく頷いた。「それでいい」


コリンは少し笑みを浮かべて肩を叩く。「よし、なら次の街で真っ当に飯を食おう」


三人は門をくぐり、国を後にした。背後の街の喧騒が遠ざかるとともに、それぞれの過去もまた、少しずつ置いていくようだった。夕暮れ、三人は国境へと続く山道を歩いていた。道は狭く、両脇は切り立った岩壁と森。風が木々を揺らし、不穏な気配を漂わせる。


「……嫌な静けさだな」コリンが剣の柄に手をかけた瞬間、森の影から数人の男が現れた。粗末な武装をした盗賊ども。「へっへっへ……旅人か。荷物を置いていけ」


ライアンが舌打ちをした。「こいつら……下っ端だな。だが数が多い」


ガレスは冷静に敵を数える。五人。「コリン、前を任せる。ライアン、背後に回り込まれないよう注意しろ」


盗賊が叫び、三人に襲いかかる。コリンは剣を抜き、真正面から迎え撃った。鋭い一閃で盗賊の武器を弾き飛ばす。ライアンは身軽に身を翻し、素早く相手の懐に入り込み、奪った短剣で応戦した。


その時――ガレスは背後に忍び寄る気配に気づいた。(後ろか……!)


だが彼には片腕しかない。剣も持たぬ身。「ライアン!」振り返らず叫ぶ。


「何だ!」「ナイフを寄越せ!」


ライアンは驚いたが、すぐに短剣を逆手で放った。ガレスは左手でそれを掴み、振り向きざまに一投。


刹那――刃は風を裂き、木陰に潜んでいた盗賊の胸を正確に射抜いた。「ぐっ……!」盗賊は地に崩れ落ちる。


戦いは一瞬で傾き、残りの盗賊たちは怯えて逃げていった。


荒い息を吐きながら、ライアンが振り返る。「……まさか、本当に当てるとはな」


ガレスはナイフを地に突き立て、短く答える。「戦場じゃ片腕を失ったが……左腕はまだ残ってる。投げるくらいなら問題ない」


コリンは剣を収め、笑みを浮かべた。「やはり只者じゃないな、ガレス。……これなら、この旅も心強い」


ガレスは肩をすくめ、夕暮れの空を見上げた。「ふん……だが結局は仲間がいてこそだ。俺一人なら、とっくに斬られていた」


三人は互いに視線を交わし、無言のうちに強い絆を感じ取った。山道を吹き抜ける風が、まるで新たな旅の始まりを告げるように、彼らの背を押していた。


次の街に着いたのは、山道で盗賊を退けてから半日後のことだった。小さな街だが活気はあり、夕暮れの通りには灯りがともり始め、人々のざわめきが溢れている。


「やっと人の匂いがする場所に戻れたな」コリンが軽口を叩き、肩を回す。


「まずは宿か、いや……腹が減った。酒場に行こう」ライアンが提案し、三人は通りの奥に見える酒場へ向かった。


だが――扉を開けた瞬間、三人は足を止めた。


中は異様な静けさに包まれていた。酔客の笑い声も、楽士の音色もない。数人の客がいたが、全員がうつむき、息を殺すようにしている。


カウンターの中央に、ひときわ大柄な男が座っていた。鋭い眼光。頬には深い傷。背後には数人の手下らしき連中が睨みを利かせている。


ガレスがすぐに悟る。(……あの目。こいつが親玉か)


男は杯を置き、ゆっくりと三人を見やった。「ほう……旅人か。この街にゃ珍しいことだな」


低く響く声に、酒場全体がさらに重くなる。「最近、山道で手下どもが斬られたって報せがあってな。……お前ら、知らねえか?」


ライアンが反射的に身構えかけるが、ガレスが片腕で制した。「……なるほど。山道の盗賊どもは、お前の手下か」


親玉の口元がにやりと歪む。「だったらどうする?」


酒場の客たちは一斉に視線を逸らし、空気が凍りつく。旅人と盗賊の親玉が、ここで出会ってしまったのだ――。


酒場に入った瞬間、普段なら酔客の笑い声で満ちているはずの空間が、異様に静まり返っていた。ガレスたちを見て、奥の席で酒を傾けていた大柄な男がゆっくりと立ち上がる。先ほど野盗の一団を率いていた親玉だ。


「おやおや……旅人がこんな辺境の酒場に顔を出すなんざ、珍しいこともあるもんだな」低い声が響き、店内の客たちが一斉に視線を伏せる。


ガレスが睨み返そうとしたその時、親玉は手を上げて制した。「待て。ここで争うのはやめておけ。……理由がわかるか?」


ガレスが眉をひそめると、親玉は口の端を歪めて続けた。「この酒場の店主はな、ただの酔っ払い相手の給仕じゃねぇ。昔は帝国軍に仕えていた騎士だ。名のある戦場で何度も首を刈り取り、敵にとっちゃ悪魔のように恐れられた男だ」


周囲の空気がピリつき、客たちは無言のまま親玉の話を聞いている。


「無闇に殺気を立ててみろ。俺やお前らじゃなく、あの店主が先に動く。ここを血で汚すことだけは絶対に許さねぇ。下手をすれば、今夜生きて帰れるのは誰一人いねぇだろうさ」


親玉の声には怯えすら混じっていた。「だから忠告してやる。ここで剣を抜くな。……殺し合いは、外でやれ」


そう言って、親玉はグラスを握り直し、どこか挑発的にガレスたちを見やった。店内に漂う重苦しい沈黙を切り裂くように、カウンターの奥から低い声が響いた。


「……おい。片腕の……その背の伸びた男。」


ガレスは振り返る。酒場の主人がこちらをじっと見据えていた。皺の刻まれた顔に、ただ者ではない光が宿っている。


「片腕を失ってなお背筋を曲げぬその姿……。軍を退いた者ならではだな。」


ガレスの眉が僅かに動いた。


店主はグラスを磨く手を止め、記憶を探るように目を細める。「思い出したぞ……帝国軍にいた頃、耳にしたことがある。若くして部隊を任され、無謀にも前線に立ち続けた意気のいい若者がいたと……。その名は――ガレス。」


静寂が一層濃くなる。客たちは一斉に顔を上げ、ざわめきかけてすぐに口をつぐんだ。


店主の瞳が鋭く光り、カウンター越しに問いかける。「……やはり、お前があの時の若者か。」


ガレスは一瞬目を伏せ、それから苦く笑った。「……もう昔の話だ。意気も腕も、戦場に置いてきた。」


店主はしばし黙り込み、やがて短く笑った。「だが忘れんさ。あの頃、お前のような若者がいたからこそ、戦場は血に塗れながらも輝きを持っていた。」


親玉ですら声を挟めず、店内には妙な静けさが戻っていた。


ガレスはしばらく黙り込んでいた。親玉も、コリンも、ライアンも、息を呑んで成り行きを見守っている。やがて、ガレスは深く息を吐き、片方の腕の袖口を目で追った。


「……昔話だ。」


低く掠れた声で、ガレスは語り始めた。


「俺がまだ二十そこそこの頃だ。帝国は大陸の北方で大規模な遠征を仕掛けていた。最初はただの歩兵だった俺も、気づけば小隊を率い、最後には部隊長にまで引き上げられていた。」


目を細め、酒の底に沈んだ記憶を掘り起こすように続ける。「兵を鼓舞するため、俺は常に先陣に立った。戦場で恐怖を抑えるには、それしか方法を知らなかったからな。……無謀だと笑われたさ。それでも兵はついてきてくれた。」


グラスを指でなぞりながら、声が少し震えた。「だがある夜、敵の奇襲を受けた。激しい戦闘の中で、仲間を守ろうと無理に突っ込んだ結果……この腕を失った。」左肩から垂れる空の袖を見やり、苦く笑う。


「戦果は上がったが、部隊は半分以上が死んだ。残った者も俺を恨んだだろう。……俺は軍を去った。戦う意気も、居場所も、全てなくした。」


言葉が途切れ、重い沈黙が落ちる。


やがてガレスは顔を上げ、店主を真っすぐに見た。「だから言ったろう。意気も腕も、戦場に置いてきたんだ。今残っているのは……ただ、行き場を失った男だけだ。」


店主はその言葉にしばし無言で頷き、深い皺を刻んだ顔をゆるめた。「……そうか。だがな、ガレス。お前のような男は、どれだけ時が経とうと消えやしない。背中がそう語っている。」


酒場に再び静けさが戻った。だがその沈黙は、先ほどの殺気立ったものではなく、どこか敬意を含んだものだった。


店主はガレスの話を聞き終えると、しばらく目を閉じ、皿を磨く手を止めた。やがてゆっくりと顔を上げ、低く落ち着いた声で言った。


「――今ここで、ダリウスと戦っても勝てはしない。」


その言葉は店内に静かに響き、誰もが頷くような重みを持っていた。ダリウス――先ほどまで奥座敷に座していた大柄な親玉が、薄く笑みを浮かべてこちらを見ている。


「だが、示しはつけねばならん。見せしめとしてここで殺し合うのは愚かだ。客も店も巻き込む。そうなれば、この街は終わりだろう」店主の声に、客は息を呑む。


セバスチャンと名乗った店主は、ゆっくりと前へ出た。彼の背にはかつての軍の匂いが残り、剣慣れた立ち振る舞いが漂う。彼はダリウスへ向けて続けた。


「君たち三人は旅人だ。ならば、正々堂々と仕切り直す場を用意しよう。帝国には闘技場──コロシアムがある。そこで決着をつければよい。名のある場なら、示しにもなる。私はその取り持ちをしよう」


ダリウスは一瞬眉を上げ、周囲を確かめるように笑った。「コロシアムか……面白い。俺の手下をあの山道で斬り捨てられた、と聞いて黙ってはいられん。だが、ここで暴れるのは損だ。帝国の土を踏んで判決を下すのも悪くない」


ガレスはその提案に軽く鼻で笑ったが、目は真剣だった。(帝国か。あの名の下で、また剣を交えるのか……)


コリンがすぐに反応する。「帝国のコロシアムだって? そこで決着をつけるってのは、やり方としては筋が通ってる。セバスチャンさん、ほんとうに通してくれるのか?」


セバスチャンは頷き、カウンターに手をついた。「私の旧知の縁で話は通る。だが条件がある──公の場での勝負だ。汚いやり方は許さない。君たちもそれで良いか?」


ライアンは短く息を吐き、顔を上げた。「公の場で償いを受ける……悪くない。俺にとっても、罪と向き合う場になるかもしれん」


ダリウスはグラスを掲げ、冷ややかに笑った。「ふん、望むところだ。だが忘れるな。コロシアムで示しをつけるということは、観衆も権力も関わる。覚悟して来い、旅人ども」


セバスチャンは静かに言葉を締めた。「よかろう。ならば、我とダリウスは帝国まで付き合おう。旅路は長い。護衛も、道中の取り計らいも私が見てやる。だが、約束だ──街の中で無闇に血を流すな」


酒場の空気は、不思議なほど落ち着きを取り戻した。客たちは小さく囁き合い、やがてそれぞれの杯へ目を戻す。ガレスは重い息を吐き、三人の仲間と目を合わせた。コリンは軽く笑みを返し、ライアンは地面を見つめたまま小さく頷いた。


ダリウスは立ち上がり、ゆっくりと二人に近づいた。彼の瞳は冷たく、しかしそこには一つの賭けのような期待が浮かんでいた。「では、出発の支度を整えろ。帝国でまた会おう」


夜は深く、街の灯が揺れる中、五人──ガレス、コリン、ライアン、セバスチャン、ダリウス──の奇妙な隊列は、やがて同じ方向へと足を向けることとなった。帝国の砂埃と、観衆の歓声が待つあの場所へ向かって──。



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