炎は、逃がしてくれない
魔物の正体は、サラマンダーだった。
炎を纏う爬虫類型魔物。
赤黒い鱗、裂けた口、灼けた息。
(最悪の部類だな)
雷は通る。
土も効く。
だが――
火属性耐性が高い。
しかも、こいつは若体じゃない。
魔力の密度が、明らかに違う。
⸻
サラマンダーが吠えた。
熱が、爆発する。
地面から噴き上がった炎が、
通路を覆い尽くした。
(速い……!)
反射で魔力を叩き込む。
「――固めろ」
土属性・初級
《硬殻》
同時に、足元。
「――抑えろ」
土属性・中級
《縛地》
地面が盛り上がり、
サラマンダーの四肢を絡め取る。
だが――
一瞬で焼き切られた。
(拘束は無理か)
⸻
距離を取る。
サラマンダーが、息を吸う。
次に来るのは――
ブレス。
「――来る」
雷を練る。
詠唱を削る。
制御だけに集中する。
雷属性・中級
《疾雷》
一直線の雷が放たれ、
サラマンダーの頭部を撃ち抜いた。
だが、止まらない。
口が開き――
灼熱が吐き出された。
⸻
視界が、白くなる。
熱。
衝撃。
肺が焼ける感覚。
(……まずい)
地面を転がり、
ギリギリで直撃を避ける。
服の端が燃え、
皮膚がひりつく。
魔力を即座に回す。
「――沈め」
闇属性・中級
《黒霧》
濃い闇が広がり、
炎の視界を遮る。
闇は燃えない。
だが――
熱は通る。
(時間稼ぎにしかならない)
⸻
ここで、判断。
このまま削り合えば、
俺が先に死ぬ。
だから――
一点突破。
⸻
魔力を、雷に集中させる。
中途半端は駄目だ。
全部、叩き込む。
「――雷よ蒼穹に満ちる怒りよ
雲海を裂き、天の律を破れ
我が呼び声に応え
裁きの軌跡となりて
虚偽と障壁を貫け
今ここに集い
一点に収束し
天を穿て」
雷属性・上級
「《天穿》」
天井から、雷が落ちた。
直撃。
サラマンダーの鱗が砕け、
悲鳴が通路を震わせる。
だが――
まだ、生きている。
(……タフすぎる)
⸻
反撃。
炎が、床を舐めるように迫る。
逃げ場がない。
だから、
耐える。
「――沈め」
闇属性・中級
《影幕》
闇で炎を遮断し、
同時に土。
「――固定しろ」
土属性・上級
《岩牢》
地面から岩柱が立ち上がり、
サラマンダーの胴体を押さえ込む。
岩が、赤く焼ける。
時間は、数秒。
⸻
その数秒で、十分だ。
雷を、もう一度。
今度は、
一点。
雷属性・中級
《閃走》
目。
魔物の眼窩に雷が突き刺さり、
サラマンダーの動きが、完全に止まった。
次の瞬間。
身体が、崩れ落ちる。
⸻
炎が消え、
熱が引く。
サラマンダーは霧となり、
巨大な魔石だけが残った。
(……勝った)
息が、荒い。
魔力は、ほぼ空。
立っているのが、やっとだ。
(無理、しすぎたな)
⸻
魔石を拾い、
布に包む。
手が、少し震えていた。
でも――
生きている。
それでいい。
⸻
ダンジョンは、優しくない。
だが、
逃がしてもくれない。
なら、
倒すしかない。
俺は、ゆっくりと出口へ向かった。
心臓の鼓動が、
まだ、うるさかった。




