魔法は、使って初めて分かる
ダンジョンの中は、静かだ。
静かすぎるときほど、
何かが起きる前触れでもある。
(……気配、二つ)
足を止め、呼吸を落とす。
魔力を外に漏らさないよう、意識を集中させた。
出てきたのは――
洞穴ゴブリン。
普通のゴブリンより一回り大きく、
皮膚が岩のように硬い。
(物理耐性持ちか)
⸻
まずは、魔法。
この世界の魔法は、基本的に詠唱制だ。
詠唱すれば安定するが、威力は落ちる。
だから俺は、短詠唱を使う。
「――雷よ、走れ」
発動したのは、雷属性・初級魔法
《閃走》。
一筋の雷が、地面を這うように走り、
ゴブリンの足元を撃ち抜いた。
バチッ、と嫌な音。
足が止まる。
(効いた)
雷は、即効性がある。
特に生物相手には有効だ。
⸻
間合いを詰める。
今度は土。
「――固めろ」
土属性・初級
《硬殻》。
自分の腕に、薄く土を纏わせる。
防御というより、衝撃緩和だ。
ゴブリンの棍棒が振り下ろされる。
受け止めた瞬間、
腕に鈍い衝撃が走る。
(……重いな)
だが、耐えられる。
⸻
最後は闇。
詠唱は短く、低く。
「――沈め」
闇属性・初級
《影縫》。
ゴブリンの足元から影が伸び、
一瞬、動きを止める。
その隙に、
雷をもう一度叩き込んだ。
《閃走》
今度は、頭。
ゴブリンの身体が痙攣し、
そのまま崩れ落ちる。
霧のように消え、
床に残ったのは、拳大の魔石だった。
(……よし)
⸻
魔法は、机上では分からない。
どの属性が効くか。
どの詠唱が短いか。
どこまで削れば安全か。
全部、
戦って初めて分かる。
だから俺は、潜る。
⸻
少し階層を下げた。
ここから先は、
明らかに空気が違う。
魔力が濃い。
足音が、やけに響く。
(……嫌な感じだ)
そのとき。
奥の闇が、動いた。
⸻
出てきたのは、
ここにはいないはずの魔物だった。
四足。
全身を覆う赤い外殻。
背中から伸びる、骨のような突起。
赤い眼が、こちらを見た。
(……名前、知らない)
つまり――
想定外。
瞬間、背筋が凍る。
今までの敵とは、
格が違う。
魔力の圧が、重い。
息をするだけで、肺がきしむ。
(……やばい)
本能が、叫んでいる。
逃げろ。
今すぐ。
だが――
目を離した瞬間、死ぬ。
魔物が、一歩踏み出した。
床が、砕ける。
(……初めてだな)
こんなふうに、
心臓が跳ねたのは。
俺は、静かに魔力を練り上げた。
雷、闇、土。
全部使う。
詠唱は、短く。
判断は、一瞬。
(生きて帰る)
それだけを考えながら、
俺は構えた。
――戦いは、ここからだ。




