ダンジョンは、嘘をつかない
ダンジョンに入ると、空気が変わる。
湿っていて、重い。
外より魔力が濃く、肌にまとわりつく。
(今日も問題なし)
入口付近は浅い階層だ。
出てくる魔物も、動きが単調で読みやすい。
――三歳児が来る場所じゃない、という点を除けば。
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この世界では、レベルは魔物を倒さないと上がらない。
剣を振っても、
魔法を練っても、
上がるのは体の動かし方や魔力制御といった感覚だけ。
数値としての強さは、ほとんど変わらない。
一般人の平均はレベル10。
冒険者で70。
騎士で110。
それ以上は、
命を賭け続けた結果でしかない。
だから、ダンジョンがある。
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魔物を倒すと、身体は霧のように消える。
残るのは、魔石だけだ。
魔石は金になる。
魔導具の燃料にもなる。
つまり、
持っていれば「魔物を倒した証拠」になる。
(子どもが持ってたら、一発で終わりだな)
それでも俺は、
魔石を捨てない。
布に包み、
服の内側に隠して持ち帰る。
屋敷に戻ったら、
部屋の奥、床板の下にしまう。
数は、もう少しずつ増えている。
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魔物は、時間が経てばまた湧く。
全部倒しても、数日後には元通り。
ダンジョンは、そういう仕組みだ。
だから、
同じ場所に何年も通い続けられる。
十二年でも、問題ない。
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魔法についても、だいたい整理できた。
基本は詠唱制。
詠唱すれば安定するが、威力は落ちる。
上位の魔術師は無詠唱も可能だが、
制御できなければ意味がない。
属性は九つ。
火、水、風、土、雷、闇、光、
生活、そして時空。
適正は、生まれたときに決まる。
一生変わらない。
俺は全部ある。
だからといって、何でもできるわけじゃない。
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今日は、雷で仕留めた。
短い詠唱。
威力は抑えめ。
確実に当てる。
魔物が消え、魔石が落ちる。
身体の奥が、少し軽くなった。
(……上がったな)
数値は見えない。
鑑定石なんて持っていない。
でも、感覚で分かる。
前より、楽だ。
前より、危なくない。
それで十分だ。
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出口の光が見えた。
今日はここまで。
無理はしない。
ダンジョンは逃げない。
でも、命は一つしかない。
俺は静かに外へ出る。
誰にも見られず、
何事もなかった顔で屋敷へ戻る。
そして部屋で、
魔石の数を一つ、増やした。
入学の日まで――
この生活は、続く。




