タイトル未定2025/12/21 18:41
一部手を加えているのでおかしくなっているところがあります。
最初に感じたのは、音だった。
ぼんやりとした意識の奥で、誰かの声がする。
意味は分からないが、柔らかく、安心する響きだった。
次に、温度。
包まれるようなぬくもりと、規則正しい揺れ。
(……生きてる?)
そう思った瞬間、肺が勝手に動いた。
空気が入り、喉が震え、声が出る。
「――あ」
自分の声が、異様に高い。
そこでようやく、はっきりと理解した。
(……赤ん坊だな、これ)
それからの時間は、断片的だった。
抱き上げられる感触。
柔らかい布。
知らない言語。
だが、不思議なことに、理解できた。
意味ではなく、文脈として。
(ああ……転生、したんだ)
変に驚きはなかった。
決定的だったのは、鏡だった。
成長して、歩けるようになり、
ある日、部屋の隅に置かれた姿見を覗いた。
そこに映っていたのは――
銀に近い淡い灰色の髪。
そして、深い蒼の瞳。
(……一致してる)
ゲーム内の親友キャラ。
アレス・フォン・グレイヴ。
立ち絵の色。
設定資料集で見た目の特徴。
間違いようがなかった。
「……やっぱり、か」
幼い声で呟いて、確信する。
ここは『EIDOLON BRAVE』の世界。
俺は、終盤で死ぬ親友キャラに転生している。
幸いだったのは、環境だ。
父は伯爵。
しかも、ただの貴族ではない。
剣も魔法も一流で、
戦術書や魔導書を当たり前のように読む男。
母は穏やかで、
いつも微笑んでいて、
屋敷の空気そのものを柔らかくしていた。
姉は気が強く、容赦がない。
妹は甘えん坊で、よく後をついてくる。
――この家なら、準備ができる。
そう確信した。
三歳になるまで、
俺は「子ども」を演じながら、情報収集に徹した。
・この世界にレベルが存在すること
・魔力は個人差があり、成長すること
・ダンジョンは各地に自然発生していること
そして――
魔力は、使い切ることで増える。
ゲームで何度も見た仕様だ。
(……やるしかないな)
夜、誰も見ていない時間。
俺は、小さな手を握りしめ、
体内の魔力を意識的に動かした。
最初は、火花一つ出ない。
それでも続ける。
魔力が空になる。
気絶する。
目が覚める。
――少しだけ、楽になる。
(増えてる)
確信した。
死にたくない。
だから、準備する。
物語が始まる、その前から。




