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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る~改訂にあたってカットしたエピソード集~  作者: 兎野羽地郎


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13/20

ゴブリン退治前哨③

 宿泊する村は北から流れてくる中の原川の支流が交わるところにある。

 東中の原街道と呼ばれる南北へ通じる広い街道が通っているから、宿場町としても栄えているらしい。

 中央広場に行くと何軒かの宿屋があり、その内の一軒だ。


 初めての宿屋体験だ。

 何事も初めてというのは楽しみだ。中の原にもあるごく普通の宿屋だが、客として入ると物珍しくキョロキョロ見回してしまう。


 宿屋は家族で経営していて、ご主人を始め従業員総出で出迎えてくれた。

 なにせアドルフ町長直々の要請だ。粗相があってはいけない。とは言え、三つの相部屋に分宿するから、そう高級な部屋ではない。

 ちなみに、同行の教会神官は村の教会へ宿泊するらしい。


 部屋に行くと先客がいた。

 こんにちは、と挨拶をして、互いに自己紹介をする。


 二人はアンガスさんと一緒にクモの調査をやっている猟師の女性二人で、三十歳前後のメイベルさんと二十歳そこそこのロウリさんだ。二人ともアンガスさんと同じ村で暮らしていて、普段から二人で狩猟をしているらしい。


 部屋は二段ベッド三つで六人が泊まれる。テーブルはあるが椅子は無く、皆ベッドに寝そべって過ごすらしい。二階なので眺めもいい。窓際に花を植えた鉢があるのは嬉しかった。




 一七五の会についてはロウリさんが知っていた。ハンナさんと友達らしい。ハンナさんが町役場に務めるまでは一緒に狩りにでていたそうだ。今までで最大の獲物は何か、と聞くと、クマだと返ってきた。猟師にとってクマはそう難しくないと言うのは本当らしい。


 聞くところによると、ロウリさんのお父さんとお母さんは、魔王軍討伐に参加していて、今月の末に帰ってくる予定とのこと。それまでの間はアンガスさんに連れられて狩猟の修行中だ。アンガスさんにしても、幼い頃から知っているロウリさんを娘のように扱っているのだろう。


 ちなみに、お風呂は町の露天風呂で、晩御飯は鯰料理だった。両方生まれて初めてだ。旅行を満喫している気分になってしまった。

  私とベアトリクスは衛兵隊でも猟師でもない。言わば場違いな存在で、食事中は質問攻めにあってしまった。


「パウルさんと一緒に来たんだってね。あの人元気になったのかい?」


 パウルさんの今の身分をかいつまんで説明して復活したことを話すと、嬉しそうにしていた。パウルさんが中の原一帯で有名なのは、どうやら間違いないな。


 話は一七五の会の稼ぎにも及んだ。町の周辺の魔物退治だけでは食っていけないだろう、と心配されてしまった。

 隠しても仕方がないので正直に話してしまう。

 先月の報奨金合計は一人頭銀貨十三枚ほど。薬草やら毛皮やら肉やらが売れた分の稼ぎで実質その五割増し近くにはなっている。そこにレヴァント退治に参加した特別褒賞が銀貨一枚。月収は金貨一枚と言ったところか。それに巻物作りの収入である週に銀貨一枚を加えると、私個人の総収入になる。町役場の職員の平均月収が金貨二枚程度らしいから、残念ながらあまり良い収入とは言えない。もっとも、ベアトリクスはマルセロ魔道具店員として、ベイオウルフは衛兵隊としてのお給料を貰っているから、稼ぎが悪いのは私だけだったりする。


「そうか。なかなか大変だねえ。稼ぎが良いなら、お仲間に入れて貰おうかとも思っていたのだけど、そうもいかないね」


 頭数が増えると取り分が減る。こちらから誘えないのがつらいところだ。


「猟師の稼ぎはどうなの?」


 聞きにくいことをため口で聞くのは、厚顔の美少女ベアトリクスだ。


「善し悪しだね。私達は報奨金目当てじゃないからさ。普段は近くの森で獲物を獲って、二か月に一回くらいは山沿いの連中と一緒に山奥のオオカミやらクマやらを狙って遠征に出るのだけど、それでなんとかなってるくらいだね」


 二人ともアンガスさんと同じ村、つまりアンガスさんの差配に従って動いてるわけだが、今回の調査も比較的安全で稼ぎが良いので呼んでもらえて良かったと言っていた。

 メイベルさんは二人の子持ちで、子供達はお祖母ちゃんに預けているらしい。調査が終了する頃にはロウリさんのご両親と一緒に旦那さんが帰って来るので、久しぶりに一家が揃うそうだ。


 魔物退治屋の前途はあまり明るくなさそうな話だが、頑張っていくしかないわね。



 翌朝、宿の食堂で朝ご飯を食べて身支度をし、ご主人以下総出のお見送りの後で馬車に乗り込んだ。ここから先は北へ向かう街道を進み、三つ目の駅逓が終点だ。

 道は曲がりくねっていて、丘と丘の間を縫うように走っている。それでも街道はしっかりと整備されていて、馬車の旅は快適だった。


 我が国の租税には人頭税以外にも年間二十日間の賦役がある。男性の賦役は周辺の街道整備が主だから毎日誰かがどこかで工事していて、街道の整備は行き届いている。ちなみに、私が担当する賦役は機織りで、月に一日か二日、役場の織機を借りている。手弁当、そして無報酬で、出来上がった布は役場に納めなければいけない。そうやって作った布地が売りに出されて自分の服になるのだから、皆真面目にやっている。


 ロウリさんが一緒に乗ってきたので、早速よもやま話に花を咲かせる。

 女の子が三人も集まっているのだ。話のネタは当然恋バナ……と言いたいところだが、同じ馬車に送風担当の人やマルセロさんがいるし、極めつけに教会神官がいるものだから私が参加できない。残念ながらただの世間話になった。それでも、色々なところで狩猟をしてきたロウリさんの話は面白かった。


 街道クッキーの焼き印なんて、もう十七個も集めていて半分を超えていた。いずれは両親のように王国全体を股にかける斥候になって、各地の焼き印を集めることを目標にしているらしい。夢のある話だ。私達も魔物退治屋として見習わなければならない。


 街道の最後の村に着き七個目の焼き印を貰ったところで、お昼ご飯になった。

 ここまで来ると山が村のすぐ近くにある。住民の職業も猟師や木こりといった山関係の仕事についている人が他の村よりも多いそうだ。

 丘陵地だからきっと放牧も盛んだろう。町の食堂にはこの辺りの森や山で採れた物やチーズやバターを船に乗って買い付けに来た商売人が何人かいた。そういう商人が近づかなくなったら困るので、ゴブリンの巣が見つかったことは内緒だ。その代わり、村の衛兵や自警団が山際の警備に当たっていて、出迎えの村長さんの表情もやや強張っていた。




 この村から先へは三時間かけて山道を進み、拠点になっている山小屋に行く。

 幸いなことに、ベアトリスと私は馬に乗せて貰える。衛兵隊の騎馬の後ろに乗せて貰うのだが、中の原の北の森でヘロヘロになっている私とベアトリクスにとっては大変ありがたい。

 ちなみに、教会神官は最後の駅逓の馬に乗っていくらしいが、それは当然のことなのだそうだ。野良とは扱いが違うのだろう。


 パウルさんはともかくも、マルセロさんには申し訳ない感じがしたが、自警団員で前線に出るものは自主訓練に参加しているらしく、体力には自信があると言っていた。

 マルセロさんの自警団での役割は、テレポートの魔法を使った邀撃作戦だから最前線で戦う。このくらいは平気なんだそうだ。


 馬は孤児院にも院長先生の愛馬がいるので乗ったことはあるが、山道を登ったことはない。

 正直言って、マックバーンさんにしがみついていただけだった。にもかかわらず、山小屋に着いた頃には腕や足が強張ってしまった。しばしベアトリクスと二人揃ってガニ股で歩く破目になり、パウルさんにため息をつかれてしまった。


 衛兵隊や猟師の人達は、私達から目を逸らしてくれていた。肩が震えていたのは気付かなかったことにした。




 山小屋に着いた頃には夕方になっていて、調査を終了したアンガスさん達が出迎えてくれた。荷駄にはパンやチーズや新鮮な野菜や果物と一緒に酒樽も一つ積んであったので早速夕食となった。


 夕食時の話題はまずはゴブリンだ。

 言い伝えによるとゴブリンは元々精霊らしい。精霊と言うと、なにか人の役に立ったり、困った時に助けてくれたりと良いイメージが多い。

 しかし、残念ながらゴブリンは魔王の側だ。人間とは敵対している。

 遥かな昔、記録に残っていない時代には、ゴブリンと人間が共存する方法があったという言い伝えがあるようだが、今となっては全く分からない。


 なんとか和平が結べないものかと思案してきた歴史があるが全て不調。それどころか、一方的に攻撃されて失敗してきた。なので、勢力争いとでもいうべきなのか、人間の生息範囲に侵入してきた場合は魔物として退治されている。実際に被害が出ているのだから、もうどうしようもない。

 それにやりようが酷い。攫われた者はなぶり殺しにされている。なんでも、人間の女性に子供を産ませるとか色々言われているようだが、実際のところはよく分からない。発見された被害者が生きていることは、まずないからだ。


 連中が人里にまで降りてくることはあまりない。なので、通常、遭遇するのは猟師なのだが、見つかれば殺されるから、すぐさま退治が始まるようだ。

 今回のように巣穴を襲撃することも、ままあるらしい。逆に人間の集落が襲撃されることもあるのだから、止むを得ないのだろう。


 猟師達の話では、野生のゴブリンは木の棒に尖った石を括り付けたような石斧や、小さな弓矢、木の棒そのものを使って攻撃する。

 個の戦いでは人間が勝つ。しかし、弱い生き物の常でゴブリンの強みは数だ。集団で襲ってくる。繁殖力は旺盛で、二年もしないうちに三桁を超えるだけの群れになってしまうらしい。


 実際のところ、常に群れで行動しているわけだから元々の数もそれなりであり、一組のつがいがあっと言う間に三桁を超すなんてことは無く、ある程度の誇張が入っているのだろう。ただ、三桁を越えてくると人の集落を襲撃してくる可能性もある。放ってはおけないのだろう。




 発見した猟師の話では、今回見つかったゴブリンはクモを食べていたとのこと。そこから推察するに、餌が豊富な場所へ群れが移動してきたのではないか、と皆言っている。クモが多いから、餌にする小動物が集まる。その結果、両方を餌にするゴブリンも集まる。そういうことのようだ。


 大元になっているクモの調査結果は、ゴブリンの巣のある辺りがクモの数が多いとのことなので、ゴブリンを退治してからその巣の先に進む必要があるの。恐らく、何十万近くの卵が孵化しているだろうから、その中心に向かえば親グモがいるはずだ。そう結論づけたらしい。


 退治の仕方についての説明はマックバーンさんからあった。

 その内容は役割分担だ。

 手立てとしては、穴の入り口に落とし穴を掘ったうえで取り囲み、煙でいぶして出て来たところを退治するという、巣穴に逃げ込んだ動物を捕まえるのと同じやり方だ。

 衛兵隊が前衛、弓が後衛、私達は最後尾らしい。安心だ。


「出て来なかったらどうするの?」


 ベアトリクスが聞くと、突入すると言う。どうせ、全部は出て来ないから最後には突入するしかない。それまでに、できるだけ数を減らしたいのだろう。全部退治したら、魔物の再利用防止に火薬で穴を爆破して終わりだ。


 何か質問はあるか? と聞くマックバーンさんに、はい! と手を上げたのは、言わずと知れたベアトリクスだ。

 あんた、まさか、一七五の会に活躍させろとか言わないわよね?


「ゴブリンの大きな群れにはボスがいるって聞いたけど、今回のはどうなの?」

「分からねえな。居るのか居ないのかも含めて。巣穴の入り口の大きさから考えると、居ても可笑しくはねえが、例えば、トロルのような人の何倍もあるような大きな奴は出入り出来る大きさじゃねえ。オークかオーガか、はたまたコボルドか、といった連中が数匹くらいじゃねえかな。そのくらいなら、パウルに魔法防御を掛けて貰えば、衛兵隊と猟師でなんとかなると思うんだがな。なんと言っても、連中の装備がなってねえ。ほとんど手ぶらだ。恐らく野良だろう。魔王軍は噛んでねえはずだ」


 アンガスさんの言葉に、猟師達が頷く。全員が実際に巣穴を交代で見て来たらしく、巣穴周辺の地形の説明と言い、堂に入っている。

 ベアトリクスも納得したようだ。


 その後は酒盛りになった。

 地下室に水槽があって身体が洗える。女性陣は交代で身体を洗った。

 ここでも石鹸は人気だったが、ゴブリンに気づかれるのでここに置いておこう。




 寝泊まりには衛兵隊の天幕の一つに女性だけで固まって寝る。

 天幕は三つあり、一つは教会神官とベイオウルフを覗く衛兵隊が、一つは応援の猟師が使い、後の一つが私達だ。マルセロさんとパウルさんは山小屋に寝ることになった。山小屋組は交代で夜警を担当する。その分よく休める様にしたのだろう。


 天幕に入ると、ベアトリクスが早速口火を切った。


「普段のゴブリン退治って、いつもマックバーンさんが言っていたようなやり方をやってるの?」


 相手はメイベルさんだ。女性陣の中で唯一ゴブリン退治の経験がある。


「大体そうみたいだね。ある程度数が減らせるならそれに越したことはないしね。でも、全部引きずり出すのは並大抵じゃないから、結局は突入で勝負を決めるね」


 メイベルさんの説明を聞いても納得できないようで、腕を組んで唸っている。


「何か気になるのかい?」

「魔法使いが何人かいるのに、あまり役に立ちそうにないわね」


 メイベルさんが笑い出した。


「魔法使いは切り札さ」

「切り札?」

「そう。ゴブリン相手なら普通の武器で十分勝てる。でも、ゴブリンだけとは限らない。大きな群れはもっと強い魔物に従っているのさ。そういった奴が出てきたら魔法使いを含めた総力戦になる」

「もっと強いのって、例えばどんな……」

 恐る恐る聞いて見る。


「例えばそうだねえ、…………魔王とか?」


 思わず寝床に突っ伏した。


「もう、メイベルさんたら、また冗談が過ぎる。どうして魔法使いは人をびっくりさせるのが好きなんだろう」


 うろたえる私をロウリさんが慰めてくれる。

 魔法使いだったんだ。どうりで……。身近な悪戯好きの顔が思い浮かぶ。そう言えば、猟師は風魔法を使う人が結構いると聞いたな。


「どんな魔法を使うんですか?」


 ベイオウルフが聞く。魔法使いのベアトリスは、もう既に気付いていたのだろう。何も言わない。


「風ね。パウルさんと違って中級魔法だけどね」


 それは凄い。

 聞くと、アンガスさんが率いるクモ調査の猟師のなかにもう一人風魔法を使う人がいるらしい。そういった人は、大物と遭遇した時に風の魔法で仲間の矢の速度と飛距離を延ばし、例の銀貨を貼り付けた鏃と組み合わせるとかなりの威力なのだそうだ。


 その後は、女性だけのおしゃべりタイムが始まった。

 今回メインになったのは、メイベルさんの御主人との馴れ初めだ。なんでも、戦争中に斥候デビューしたメイベルさんの指導役で、敵陣の偵察で色々と教えて貰ったのがきっかけだそうだ。


 ロウリさんが言うには、メイベルさんのご主人はかなりの男前らしい。きっと引く手あまただったのではないかとのこと。メイベルさんに聞くと、斥候の指導役男性と新米女性が結ばれることはよくあるらしい。その人選はその村の斥候のまとめ役が決めるのだそうだが、希望を伝えることも出来るそうだ。


 狙ったでしょ? とベアトリクスが突っ込むと、当然! と答えが返ってきて大はしゃぎしてしまい、マックバーンさんに怒られてしまった。


 行く行くは、ロウリさんもそうなるのだろうか? と思い聞いてみると、今の指導役はアンガスさんらしい。今一つ盛り上がらなかったが、戦時中は特別だったのだそうだ。

 ただし、今回の調査で同じ班になっているアドルフさん直属の斥候の人は独身だそうだ。メイベルさん曰く狙い目らしい。

 四人でニヤニヤとロウリさんを見ると、そんなんじゃないから! と言っていたが、まあ本音かどうかは、今回の件が落着したら分かるのだろう。

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