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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る~改訂にあたってカットしたエピソード集~  作者: 兎野羽地郎


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12/19

ゴブリン退治前哨②

 出発の時は、アドルフさんと大司教様が見送りに来てくれた。

 行先は四つほど離れた駅逓のある村から北へ馬車と歩きで一日ほどだそうだ。緊急というわけではないので、それなりのスピードで片道丸二日かけていくらしい。無論、馬車代はおろか宿代も町が支給してくれる。


 気をつけるんだぞ、と言ってくれるアドルフさんに頭を下げた後、大司教様に祝福していただき馬車に乗り込んだ。

 馬車に乗るのは初めだ。ゴブリン百匹はともかく、馬車の乗り心地というものを楽しもう。


 衛兵隊は騎馬が三人、馬車に乗り込むのが二人だ。

 二台ある四頭立ての馬車は、御者台に三人、天井に一人か二人、中に定員の六人が乗っている。

 私達は教会神官の人と一緒に中に座る事になった。ベイオウルフは御者台だ。他に猟師が一人天井に座っている。



 中は思ったよりも広かった。床の真ん中に丸い穴が空いていて筒が刺さっている。

 なにをするのかと思っていたら、風魔法で風を送って馬車を地面から浮かび上がらせて馬の負担を軽くするのだそうだ。

 馬車の外側になにやら裾と呼ばれる分厚い皮のような物が地面に垂らす様にくっついていたが、それで上手い事風を逃がさない様にするらしい。


 普通の馬車ではそんなことをしない。この度は町長直々の依頼だけあって特別仕立てだと聞いた。町役場の特別馬車専属の人が送風役をやっている。


 レヴァナント襲撃事件の時の様に事が緊急事態ともなると、駅逓ごとに馬を乗り継いで風の様にすっ飛ばしていくのだろうが、今回は同じ馬で休みながら進む予定だ。


 窓から手を振ると、見送りに来てくれた人達が手を振り返してくれた。大司教様やアドルフさん、アンジェリカさんもいる。他に何故か集まってきた子供達。

 何となく嬉しくなってしまい、行って来ますと言いながら、やたらと手を振ってしまった。




「よし、浮かすぞ」


 ガラガラと音を立てながら正門を抜けて街道に出たところで、筒に風を送る人が魔法を唱えて馬車が少し揺れた。窓から覗くと裾が膨らんで下から土埃が噴き出している。

 風の魔法で浮き上がった馬車は、まるで、滑るように前に向かって進む。


 これが馬車なのか!

 窓の外を街並みが流れて行く……。


 ガラガラと車輪が回っている音はするが、基本的には浮いているようでさほど揺れもせずに走っていく。まるで船に乗っているみたいだ。

 風魔法で馬車を浮かせる方法が考案されるまではとんでもなく揺れていて、速度を上げた時は舌を噛まない様に布とかを噛んでいたと聞いた。皮肉な話でこういった魔法の応用利用は先の戦争中に飛躍的に向上したらしい。


 送風役のオジサンの話では、元は子供を喜ばせようとして風魔法で馬車の模型を浮かせて、さも走っている様に見せたのが発端なのだそうだ。それを見て輸送部隊の行軍速度上昇に役立つと考えた人がいて、出来上がったらしい。きっとパウルさんのような人が発案し、工作所の親父さんのような人が作ったのだろう。


 そのパウルさんは御者台に座っている。魔物が襲ってきたときの備えだが、送風役の人が言うには山道を通らない限りは大丈夫とのこと。馬車の天井には猟師が乗っているし、衛兵隊の騎馬兵も随伴しているので、とりこし苦労のような気もするが、きっと雰囲気を楽しんでいるのだろう。


 のぞき窓から見ると、弓は持っているが矢はつがえておらず、御者の人と笑いながらなにやら話している。楽しそうで何よりだ。

 今度、森の幸亭のご主人に話してあげよう。


 この辺りは川沿いの平地になる。

 街道の南に川が流れ、北側には畑や放牧地や森や丘が続き、所々に農家の集まった小さな集落があり、はるか遠くに北の山並みが見え、といった同じ風景が延々と続く。普通は飽きるのだろうが、私とベアトリクスはうとうとしているマルセロさんや神官を他所に、窓から外をひたすら眺めた。


 送風役のオジサンは話好きな人で、窓から見えるものについて、色々と話を広げてくれて楽しく過ごすことが出来た。

 器用なのか、慣れているのか、魔法を使いながら話をしてくれる。時々、御者に声を掛けて減速してもらい、息を継ぐような感じで魔法を解除しては、少し休んでまた魔法で馬車を浮かすのだが、慣れるまでは加減が難しいと言っていた。




 途中の休憩を含めて二時間ほどで最初の駅逓についた。

 街道沿いの村で背丈ほどの石の壁で囲まれている。

 初めて実物を見る村は、思っていたよりも大きくて、絵本で読んだ範囲では村と言うよりは町だ。しかし、中の原地区では中の原だけが町でそれ以外は全部村と呼ばれている。途中で見た集落も、中の原町域を越えてからはこの村の村域らしく、さしずめこの辺りの中心地といったところなのだろう。


 村というのは地域を指すもので集落の事ではない。大体、○○村中央とか呼ばれる所に駅逓のある大きな集落があり、その集落を便宜上村と呼んでいるのだと、送風役のオジサンが教えてくれた。

 この村全体の人口は大体五百人くらいで、私達がいる駅逓のある一番大きな集落は二百人程度の人が住んでいるのだそうだ。


 村は中の原川の水運も利用しているので、川と街道に沿って家が立ち並んでいる。

 村の駅逓は中央の広場にある。衛兵隊の詰所も兼ねているらしく、衛兵隊長が駅長さんを兼ねていた。

 駅の横には厩があり、替えの馬が何頭か繋がれている。

 今回は至急と言うわけではないので馬を替えないから、水を飲ませたりして休憩をとる。馬車を浮かせる人も休まないといけないので、その間に私達も外に出た。


 アドルフさんの依頼という事もあって、村長さんとかが出迎えに来てくれていたが、そういうのは面倒なので、マックバーンさんにお任せする。

 ベイオウルフは立場上馬車の傍にいないといけないので、ベアトリクスと二人で村を見物することにした。




 中央広場と呼ばれる広場は、多分どの村に行ってもあるのだろうが、円形に家が取り囲んでいて、馬車に乗ってくる人を目当てにしている幾つかの屋台が駅逓の近くに並んでいた。そのうちの、街道クッキーの看板をかけているオバサンの屋台に行く。


 街道クッキーはセルトリアの名物で、駅逓のある村で売っている。

 小麦に卵とバターを加えた生地に蜂蜜を混ぜたお菓子だ。干しブドウを入れたのとかもある。農家の人が持ち寄った材料で作ったものを駅逓で売っている。元々現金収入に乏しかった農家の人のために考え出されたお土産で、屋台のオバサンもきっと農家の人だ。


 他国ではパン釜なんかは領主の貴族によって厳重に管理されていて、使うためには結構なお金を払わないといけないらしく、クッキーなんかそう簡単に食べられないようだ。


 セルトリアでは誰でも自由に公共のものを利用できる。元はどこだったかの村のお母さんが子供達のために作っていたのを朝市で売りに出す様になり、その美味しさに目をつけた役場の人が地域全体の商品にしたのが発端なのだそうだ。元手があまりかかってないから値段も安く、今では他国から来た人のお土産としても人気になっている。


 最初に作って売りに出したお母さんは、国全体に広めるために王都に招聘された。その地域経済への貢献によって勲章まで貰ったのだそうだ。


 もちろん、クッキーだけではなく、野菜や果物なんかも安く売っている。

 中の原町もそうなのだが、朝市の立つ時間には農家の人や漁師が持ち寄ったものなんかが自由に露店で売られていて結構な人出になる。


 孤児院の工作所で作ったものも朝市で売ったりした。子供達と先生一人でゴザを敷いたところに商品を並べるのだが、売れた時は嬉しかった。町役場の場所整理の人にお金を払って売り場を確保するのだが、確か銅貨二枚だったはずだ。ありがたいことに孤児院は無料だ。




 ベアトリクスと二人でオバサンのところに行くと、一七五の会の財布のお金でクッキーを三個買った。 一個の値段は中銅貨一枚で銅貨の半分だ。お菓子と言っても子供の握りこぶしくらいの大きさがあり、小食の私の場合二個も食べたらお昼ご飯に丁度良い。


「神官さんは街道クッキーを買うのは初めてかい?」


 はい、と返事をすると木の札を一枚渡された。小さい焼き印が一つ押してあり、この村の名前が読み取れた。クッキーに押してある焼き印と同じだ。


「今度別の駅逓で街道クッキーを買う時はそれをお店の人に見せたらいいよ」


 なんでも、中の原地区にある駅逓の焼き印を三十個集めて中の原町役場に持って行くと、街道クッキー十個を詰め合わせたセットが貰えるらしい。

 詰め合わせセットは、中の原町のお土産の定番で特に女性や子供に人気がある。お金持ちの間でも評判らしい。私が街道クッキーを初めて食べたのも、孤児院に差し入れられた詰め合わせセットだった。


「全部集めるのは大変だろうけど、旅のお守りだと思って大事にしておきな。きっと、いいことがあるよ。」


 ニコニコと言ってくれる。

 これはいい物を貰った。絶対に全部揃えて詰め合わせ貰いますからね。

 二人してお礼を言って、内ポケットに札を入れる。

 今回の出撃ではあと六か所の駅逓を利用する予定だから、保存食がてらに買って七個焼き印を揃えよう。


 そうやって、馬車に揺られながらさらに東へ三つ駅逓を進んで行き、四つ目の焼き印を貰った東中の原という村がその日の宿泊地だった。

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